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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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84/88

第84話「折れた刀」


 ファイヤーベア。

 怒り狂う。

 右前脚を失っても止まらない。

 炎。

 血。

 咆哮。

 そして。

 一直線。

 アクアへ飛びかかる。

「おっと」

 アクアが刀を構える。

 その瞬間。

 ガギィィィィン!!

「!?」

 ファイヤーベア。

 刀に噛みついた。

 牙。

 炎。

 圧倒的な顎力。

 刀身が悲鳴を上げる。

 ミシ……

 ミシミシ……

 アクアの目が見開く。

「おい」

 次の瞬間。

 バキィィィン!!

 刀が折れた。

 半分が宙を舞う。

 静寂。

 アクア。

 固まる。

 折れた刀を見る。

「十五年間、生まれた時から一緒だった刀・・」

 ずっと使ってきた。

 戦った。

 食った。

 寝た。

 生きた。

 アクアの顔が歪む。

「折りやがったな……」

 涙。

 ぽろっ。

 ユウが思わず突っ込む。

「嘘だ〜!!」

 アクアが折れた刀を見つめる。

「思い出が……」

 遠い目。

「行き先分からない時に倒した方向へ進んだ日……」

 ユウ。

「ただのコンパス!」

「木の穴に突っ込んで木に登った日……」

「用途がおかしい!」

「濡れた服を乾かすのに服引っ掛けた日……」

「雑ぅ!!」

 アクア。

 涙を流しながら。

 静かに。

「くそぉぉぉ……」

 ファイヤーベアが咆哮する。

 だが。

 次の瞬間。

 アクア。

 無造作に前へ。

 拳を握る。

「俺の刀はなぁ!!」

 ドゴォォォォォォ!!

 腹パン。

 直撃。

 空気が爆発。

 ファイヤーベアの巨体が浮く。

 そして。

 大量の血を吐いた。

 ゴバァァァァ!!

 数十メートル吹っ飛ぶ。

 木を薙ぎ倒す。

 地面を転がる。

 沈黙。

 動かない。

 死んだ。

 ユウがぽかん。

「……えぇ」

 アクア。

 無言。

 折れた刀を見る。

 半分を拾う。

 静か。

 そして。

 ファイヤーベアへ向かう。

 ズブッ。

 皮を剥ぐ。

 肉を切り出す。

 内臓を確認する。

 ボロボロだった。

 アクアが低く言う。

「死因これだな」

 ユウが苦笑。

「そりゃそう」

 だが。

 アクアは喋らない。

 黙々と解体。

 肉。

 骨。

 牙。

 毛皮。

 全部回収。

 返り血まみれ。

 その姿は。

 まるで。

“ 俺の刀は安くないぞ”と語っているようだった。

 ユウが小声で言う。

「怒ってる……」

 ミーちゃん。

 アクアの肩に乗る。

「にゃ……」

 アクアは無言。

 巨大な毛皮を岩へ広げる。

 木の棒。

 バシィッ!!

 叩く。

 バシィッ!!

 また叩く。

 なめす。

 延々。

 黙々。

 バシィ!!

 ユウが近づく。

「ねぇ」

 バシィ!!

「アクア」

 バシィ!!

「まだ怒ってる?」

 アクア。

 無表情。

「別に」

 バシィィィ!!

 岩にヒビ。

 ユウ。

 笑いを堪える。

「めちゃくちゃ怒ってるじゃん」

 アクア。

 手を止める。

 折れた刀を見る。

 少しだけ寂しそうだった。

「……新しい刀探すか」


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