第84話「折れた刀」
ファイヤーベア。
怒り狂う。
右前脚を失っても止まらない。
炎。
血。
咆哮。
そして。
一直線。
アクアへ飛びかかる。
「おっと」
アクアが刀を構える。
その瞬間。
ガギィィィィン!!
「!?」
ファイヤーベア。
刀に噛みついた。
牙。
炎。
圧倒的な顎力。
刀身が悲鳴を上げる。
ミシ……
ミシミシ……
アクアの目が見開く。
「おい」
次の瞬間。
バキィィィン!!
刀が折れた。
半分が宙を舞う。
静寂。
アクア。
固まる。
折れた刀を見る。
「十五年間、生まれた時から一緒だった刀・・」
ずっと使ってきた。
戦った。
食った。
寝た。
生きた。
アクアの顔が歪む。
「折りやがったな……」
涙。
ぽろっ。
ユウが思わず突っ込む。
「嘘だ〜!!」
アクアが折れた刀を見つめる。
「思い出が……」
遠い目。
「行き先分からない時に倒した方向へ進んだ日……」
ユウ。
「ただのコンパス!」
「木の穴に突っ込んで木に登った日……」
「用途がおかしい!」
「濡れた服を乾かすのに服引っ掛けた日……」
「雑ぅ!!」
アクア。
涙を流しながら。
静かに。
「くそぉぉぉ……」
ファイヤーベアが咆哮する。
だが。
次の瞬間。
アクア。
無造作に前へ。
拳を握る。
「俺の刀はなぁ!!」
ドゴォォォォォォ!!
腹パン。
直撃。
空気が爆発。
ファイヤーベアの巨体が浮く。
そして。
大量の血を吐いた。
ゴバァァァァ!!
数十メートル吹っ飛ぶ。
木を薙ぎ倒す。
地面を転がる。
沈黙。
動かない。
死んだ。
ユウがぽかん。
「……えぇ」
アクア。
無言。
折れた刀を見る。
半分を拾う。
静か。
そして。
ファイヤーベアへ向かう。
ズブッ。
皮を剥ぐ。
肉を切り出す。
内臓を確認する。
ボロボロだった。
アクアが低く言う。
「死因これだな」
ユウが苦笑。
「そりゃそう」
だが。
アクアは喋らない。
黙々と解体。
肉。
骨。
牙。
毛皮。
全部回収。
返り血まみれ。
その姿は。
まるで。
“ 俺の刀は安くないぞ”と語っているようだった。
ユウが小声で言う。
「怒ってる……」
ミーちゃん。
アクアの肩に乗る。
「にゃ……」
アクアは無言。
巨大な毛皮を岩へ広げる。
木の棒。
バシィッ!!
叩く。
バシィッ!!
また叩く。
なめす。
延々。
黙々。
バシィ!!
ユウが近づく。
「ねぇ」
バシィ!!
「アクア」
バシィ!!
「まだ怒ってる?」
アクア。
無表情。
「別に」
バシィィィ!!
岩にヒビ。
ユウ。
笑いを堪える。
「めちゃくちゃ怒ってるじゃん」
アクア。
手を止める。
折れた刀を見る。
少しだけ寂しそうだった。
「……新しい刀探すか」




