第80話「白蛇の影」
ギルド。
重い空気。
レオンの件は、街全体を揺らしていた。
ギルドマスターは机に並べられた証拠を睨む。
「……これだけか」
衛兵が頷く。
「はい」
机の上。
一枚の紙。
レオンの部屋のゴミ箱から発見されたものだった。
依頼書。
内容は――
クーパー男爵の殺害。
そして下に押されている印章。
白蛇が絡み合う紋章。
「ホワイトスネークヘッド……」
ギルマスが低く呟く。
衛兵が顔をしかめる。
「マフィア組織ですね」
「あぁ」
だが。
問題があった。
「これだけじゃ弱い」
ギルマスが紙を叩く。
「依頼書があっても、誰が命令したか分からん」
「本物か偽物かも判断できません」
空気が重くなる。
レオンは死んだ。
ミレイも。
ルナも。
ガルドも。
直接の証言者がいない。
「事件は……暗礁に乗り上げたか」
ギルマスが深く座る。
そこへ。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「た、大変です!!」
息を切らした男。
さっき馬車とすれ違った男だった。
「あ、あの街道に……!」
衛兵たちが立ち上がる。
「どうした!」
男が叫ぶ。
「盗賊が大量に縛られてます!!」
沈黙。
「は?」
数十分後。
街道。
木。
そこに――
ずらり。
縛られた盗賊たち。
蔓ぐるぐる。
転がっている。
衛兵が目を見開く。
「なんだこれ……」
別の衛兵が近づく。
顔を見る。
「……入れ墨」
腕。
首。
頬。
特徴的な刺青。
衛兵隊長の顔色が変わる。
「間違いない」
低く。
「疾風一家だ」
周囲がざわつく。
「え!?」
「あの!?」
この辺りでは有名な盗賊団。
討伐依頼も何度も出ていた。
だが。
人数が多く。
逃げ足も速い。
ずっと捕まえられなかった。
それが。
今。
全員。
縛られて転がっている。
しかも――
木には文字。
『盗賊です。見ないでください』
衛兵たちが半笑い。
「……なんだこれ」
若い衛兵が笑いを堪え、震えながら言う。
「怖いんですけど」
隊長が盗賊を蹴る。
「おい起きろ」
盗賊がうっすら目を開ける。
「は、腹減った……」
「誰にやられた」
盗賊が青ざめる。
思い出した。
白い馬車。
少女。
笑顔。
化け物。
「バケモンだ……」
ガタガタ震える。
「少女のバケモンが……」
隊長が顔をしかめる。
「あと五人呼んでこい」
若い衛兵が敬礼。
「はっ!」
全力で街へ走る。
盗賊たちは次々と武器を回収され。
縄を追加され。
完全拘束。
そのまま連行されていく。
衛兵たちもまだ信じられなかった。
「あの疾風一家を……二人で?」
「いや、一人って話だぞ」
「は?」
空気が凍る。
そして隊長が木の文字を見る。
『見ないでください』
「……律儀なのか狂ってるのかわからんな」
誰かが呟いた。
その頃。
本人たちは。
のんきに馬車で爆走していた。




