第77話「全部、使っていいんだよ」
ギルドを出た直後。
ユウが立ち止まる。
「まずはさ」
くるっと振り向く。
「家!」
アクアが呆れた顔。
「いきなりそこか」
ユウは真剣だった。
「だって帰る場所いるでしょ」
一言。
アクアは何も言わない。
そのままついていく。
向かった先は――中央建設商会。
重厚な扉。
中は図面と模型だらけ。
職人たちが顔を上げる。
「……なんだ?」
ユウがズカズカ入る。
「一番でっかい家、建てたい」
一瞬の沈黙。
職人が笑う。
「嬢ちゃん、夢はいいが――」
ユウが袋を置く。
ドサッ。
中から金貨がこぼれる。
ジャラッ……
音が響く。
空気が変わる。
「……本気だな」
図面が広げられる。
あれも。
これも。
庭園。
風呂。
鍛錬場。
食堂。
地下室。
屋上。
全部盛り。
ユウは目を輝かせる。
「これも追加!」
「こっちも!」
アクアが口を挟む。
「無駄に広いな」
ユウが即答。
「無駄がいいの!」
職人が汗を拭く。
「期間は……九ヶ月」
「いいよ」
即答。
「金貨一万枚」
「いいよ」
さらに即答。
契約成立。
職人たちの目が変わる。
「最高のものを作る」
ユウがニッと笑う。
「お願いね!」
外に出る。
アクアが言う。
「もう半分近く消えたぞ」
ユウが肩をすくめる。
「金貨なんて使ってなんぼでしょ」
あっけらかん。
次。
馬車商会。
並ぶのは豪華な馬車。
装飾。
金具。
内装。
全部が一級品。
ユウが指差す。
「あれ!」
白い車体。
彫刻入り。
中はクッションだらけ。
ベッドまである。
アクアが覗く。
「旅する気あるのか」
ユウが笑う。
「快適にする気はあるよ」
価格。
金貨千枚。
「買う」
即決。
さらに――
「馬も」
案内された厩舎。
そこにいたのは。
白。
光沢。
角。
「ユニコーンだ」
店主が誇らしげに言う。
「選ばれた者にしか懐かん」
ユウが近づく。
スッ。
一頭が頭を下げる。
もう一頭も。
寄ってくる。
アクアがぼそっと言う。
「選ばれてるな」
ユウが撫でる。
「かわいい」
購入。
二頭で金貨三千枚。
店主が震える。
「まいど……!」
次。
防寒具。
毛皮専門店。
分厚いコート。
触るだけで暖かい。
ユウが羽織る。
「うわ、これいい!」
アクアも試す。
「軽いな」
高級品。
だが。
迷わない。
「これも」
支払い。
さらに細かい装備。
食料。
酒。
調味料。
ナイフ。
寝具。
全部。
片っ端から積み込む。
気づけば。
馬車は満載。
夕方。
街の門。
ユニコーンが静かに立つ。
人々がざわつく。
「なんだあれ……」
「貴族か?」
ユウが御者台に乗る。
「いくよー!」
アクアが横に座る。
「まっすぐ北だ」
門が開く。
ゴトッ。
馬車が動く。
ユニコーンが走り出す。
速い。
静か。
振動が少ない。
街が遠ざかる。
ユウが風を受けて笑う。
「冒険だー!」
アクアが前を見る。
地平線。
「到着まで……二ヶ月か」
ユウが言う。
「長いね」
アクアが答える。
「だからいい」
未知へ。
まだ見ぬダンジョンへ。
金も。
時間も。
全部使って。
二人の新しい冒険が。
本当に始まった。




