第73話「遺産と無灯の屋敷」
翌日。
街は騒然としていた。
ギルド前の掲示板。
新しい紙が張り出される。
「クーパー男爵殺害容疑:レオン他、Sクラスパーティ:指名手配」
ざわめきが広がる。
「マジかよ……」
「Sクラスが殺人犯……?」
一方。
ギルド奥。
静かな部屋。
テーブルの上に並べられた書類。
ギルドマスターが座る。
向かいに――ユウ。
そしてアクア。
「確認する」
ギルマスが低く言う。
「辺境伯家の相続人はユウ、お前で間違いないな」
ユウがこくっと頷く。
「うん」
書類を指でトントンと叩く。
「内容は」
一枚めくる。
「広大な土地一式」
さらに一枚。
「そして――金貨一万七千八百八十八枚」
空気が少しだけ変わる。
ユウがぽかんとする。
「……そんなに?」
ギルマスが苦笑する。
「桁が違う」
アクアが横で呟く。
「一生遊んで暮らせるな」
ユウが首を振る。
「使い道ないよ」
さらっと言う。
ギルマスが真顔に戻る。
「この相続には立会人が必要だ」
自分を指す。
「俺が同行する」
ユウがにこっと笑う。
「お願い」
だが。
アクアは立ち上がる。
「俺は行かない」
ギルマスが目を細める。
「……レオンか」
アクアが頷く。
「今日中に終わらせる」
ユウが立ち上がる。
「私も行く」
アクアが見る。
少しだけ間。
「……好きにしろ」
夜。
街の灯りが落ち始める。
レオンのSクラスパーティの屋敷。
静か。
不気味なほど。
明かりは一切ない。
「……いるかわからないな」
アクアが低く言う。
ユウが周囲を見回す。
「気配薄いね」
風が吹く。
カーテンも揺れない。
「明日には兵が来る」
アクアの声。
「今夜しかない」
ユウが頷く。
「行こ」
二人。
影になる。
外壁へ。
アクアが跳ぶ。
スッと二階へ。
音がない。
ユウも続く。
軽い。
まるで重さがない。
窓。
鍵は内側。
アクアが細い刃を差し込む。
カチ。
解除。
ゆっくり外す。
「入るぞ」
頷くユウ。
室内へ。
暗い。
空気が淀んでいる。
「……誰もいない?」
ユウが囁く。
アクアが床を見る。
しゃがむ。
「いや」
指でなぞる。
「最近の足跡がある」
一人分。
ユウの目が光る。
「いるね」
廊下。
音を殺して進む。
部屋を一つずつ開ける。
空。
また空。
寝室。
荒れている。
だが不在。
「逃げた後……?」
ユウが言う。
アクアが首を振る。
「違う」
指を立てる。
「上だ」
ユウも耳を澄ます。
……ギシ……
わずかな音。
三階。
二人の視線が合う。
アクアが笑う。
「いたな」
ユウもニヤリ。
「やっとだね」
階段へ。
一段ずつ。
静かに。
確実に。
上がる。
三階。
奥の一室。
扉の隙間。
わずかな光。
中から。
荒い呼吸。
「はぁ……はぁ……」
アクアが扉の前に立つ。
一瞬。
止まる。
そして――
開ける。
部屋。
荒れている。
酒瓶。
割れたガラス。
中央にレオン。
剣を握る。
目は狂気。
「……来たか」
震えた声。
だが笑う。
「来ると思ってたよ」
アクアが一歩踏み込む。
「逃げなかったのか」
レオンが息を吐く。
「逃げたさ」
ゆっくり構える。
「でもな」
目がギラつく。
「終わらせるならここだろ」
ユウが後ろから顔を出す。
「観念した?」
レオンがちらりと見る。
一瞬の違和感。
だが無視。
視線はアクアへ。
「……お前」
低く言う。
「死んだはずだ」
アクアが答える。
「死んださ」
冷たい目。
「お前らに殺されてな」
静寂。
張り詰める。
ユウが壁にもたれる。
「やっちゃえ」
軽い声。
レオンが叫ぶ。
「来いよ!!」
踏み込む。
アクアも消える。
影が交差する。
復讐。
決着の瞬間へ。




