第59話「偶然が穿つ、完全の壁」
九十階。
重い扉が開く。
Aクラスパーティが足を踏み入れる。
リーダーの剣士、ディーン。
盾役、ガルス。
魔法使い、エルミナ。
回復役、フィオラ。
「……なんだこれ」
ディーンが呟く。
視界の奥。
四つの影。
そして。
その手前。
激しい戦闘の痕。
「Sクラス……?」
ガルスが周囲を見る。
血。
削れた床。
だが姿はない。
「戦って……退いたのか?」
エルミナが低く言う。
その瞬間。
――ぐにゃり
空間が歪む。
「来るぞ!」
フィオラが叫ぶ。
現れる。
四人。
いや――
“自分たち”。
「は……?」
ディーンが固まる。
「俺……?」
ガルスも息を呑む。
完全に同じ。
装備も。
構えも。
視線も。
「自分たちと戦うのかよ……!」
エルミナが歯を食いしばる。
「……やるしかない」
ディーンが剣を構える。
「行くぞ!」
激突。
ガキィン!!
同じ動き。
同じ攻撃。
完全な対称。
「くそっ……!」
ガルスの盾が弾かれる。
「重さまで同じか!」
エルミナの魔法。
放つ。
だが。
同時に。
ドッペルエルミナも詠唱。
衝突。
爆発。
相殺。
「やっぱり無理かよ……!」
焦りが走る。
フィオラが回復する。
だが。
相手も回復。
終わらない。
「……チッ!」
ディーンが舌打ちする。
「Sクラスが引いた理由、これか……!」
押され始める。
じわじわと。
体力が削れる。
「このままじゃ負ける!」
その時。
ガルスの足が。
石の欠片に引っかかる。
「うおっ!?」
バランスを崩す。
一瞬。
動きが遅れる。
だが。
ドッペルガルスは。
“同じ動き”で来る。
同じタイミング。
だが――
ほんのわずか。
ズレる。
その瞬間。
ディーンの目が見開かれる。
「今だ!!」
踏み込む。
予定より早く。
剣を振るう。
ドッペルディーンは。
“本来のタイミング”で動く。
ズレ。
一瞬。
防御が間に合わない。
ザンッ!!
深く斬り裂く。
「当たった!?」
エルミナが叫ぶ。
ドッペルディーン。
致命傷。
崩れる。
「いける!!」
ディーンが叫ぶ。
「ズレを作れ!」
「わざと崩せ!」
理解が走る。
「なるほどね……!」
エルミナが笑う。
詠唱タイミングをずらす。
フェイント。
遅延。
ドッペルが追いつかない。
直撃。
「効いてる!」
フィオラも。
回復タイミングを変える。
持久戦にシフト。
ガルスも。
わざと踏み込みを乱す。
完全対称が。
崩れる。
「一人落とした!」
ディーンが叫ぶ。
四対三。
その瞬間。
ドッペル側の連携が乱れる。
「バランス崩れた!」
一気に押す。
「行くぞ!!」
集中攻撃。
一人ずつ。
確実に。
崩していく。
「終わりだ!」
最後の一体。
叩き斬る。
静寂。
九十階。
勝った。
「……はぁ……!」
全員が膝をつく。
「マジかよ……」
ガルスが笑う。
「俺たち……勝ったのか」
フィオラが涙ぐむ。
「Sクラスが無理だった相手に……」
エルミナが息を整える。
ディーンが立ち上がる。
前を見る。
そこに。
宝箱。
「……行くぞ」
ゆっくりと近づく。
開ける。
光。
中には――
伝説級の装備。
剣。
盾。
杖。
回復薬。
「……はは」
ディーンが笑う。
「やったな」
帰還。
ダンジョン外。
ギルド。
掲示板。
最高到達記録。
書き換えられる。
「九十階到達……Aクラス!?」
ざわめき。
歓声。
「マジかよ!!」
「Sクラス抜いたぞ!!」
ギルドマスターが立ち上がる。
「おぉぉぉ!!」
満面の笑み。
「やりやがったな!!」
拳を叩きつける。
「これはもう――」
ニヤリと笑う。
「Sクラス昇進、考えなきゃな!!」
歓声が爆発する。
ディーン達が囲まれる。
「すげぇ!!」
「伝説装備だぞ!!」
胴上げ。
宙に舞う。
笑い声。
祝福。
その夜。
盛大な祝勝パーティ。
酒。
料理。
武勇伝と歓声。
誰もが讃える。
新たな英雄。
その頃。
誰も知らない。
ダンジョンの奥。
コントロール室。
アクアが静かに見ている。
「……へぇ」
ユウが目を輝かせる。
「やるじゃん」
アクアの口元がわずかに上がる。
「いいな」
だが。
その目は冷たい。
「だが――」
視線はさらに奥。
九十九階。
「そこまでだ」
小さく呟く。
「本番はここからだ」
一方。
八十一階。
回復の泉。
Sクラス。
ようやく回復し、再チャレンジに挑む。




