第58話「対称の罠、非対称の一手」
ガキィン!!
同じ剣。
同じ速度。
同じ思考。
九十階。
ドッペルゲンガー戦。
「このままじゃ削り負ける!」
ミレイが叫ぶ。
「当たり前だ!」
レオンが歯を食いしばる。
「同じことしてる限り、同じ結果になる!」
その通りだった。
攻撃すれば。
同じ攻撃が返ってくる。
回復すれば。
同じ回復をされる。
完全な対称。
だが。
「なら崩す!」
レオンが叫ぶ。
「デバフを使え!」
「了解!」
ミレイが即座に詠唱。
鈍化。
衰弱。
命中。
だが――
「来るぞ!」
同時に。
ドッペルミレイも詠唱。
同じデバフ。
全員にかかる。
「ぐっ……!」
体が重くなる。
「くそ、意味ねぇ!」
「違う!」
レオンが叫ぶ。
「意味はある!」
「どういう――」
「“同じ条件”を維持してるだけだ!」
全員が一瞬止まる。
「ならどうすんだよ!」
ガルドが怒鳴る。
レオンの目が光る。
「集団戦だ」
一言。
「……は?」
「一点集中で崩す!」
次の瞬間。
レオンが動く。
「ルナを狙う!」
「え!?私!?」
ルナが驚く。
「違う!」
レオンが叫ぶ。
「“あっちの”ルナだ!」
一瞬の理解。
「そういうことか!」
ガルドが踏み込む。
全員で。
ドッペルルナへ。
集中攻撃。
「させるか!」
ドッペル側も同時に動く。
同じ判断。
こちらのルナへ集中。
「くっ……!」
ルナが被弾。
同時に。
ドッペルルナも被弾。
完全な鏡。
「このままじゃ――!」
ミレイが叫ぶ。
「相打ちになる!」
その通り。
削り合い。
先に倒れるのは。
ほぼ同時。
「……チッ!」
レオンが舌打ち。
踏み込む。
あえて。
深く。
「レオン!?」
ガルドが叫ぶ。
レオンの一撃。
ドッペルルナへ。
致命圏。
だが。
同時に。
ドッペルレオンも動く。
同じ軌道。
こちらのルナへ。
「まずい!」
ガルドが割り込む。
盾で受ける。
重い衝撃。
「ぐっ……!」
吹き飛ぶ。
ルナも膝をつく。
ドッペル側も同様。
崩れない。
「くそっ……!」
レオンが歯を噛む。
「このやり方じゃダメだ!」
完全対称。
誰かを落とせば。
こちらも落ちる。
「……いや」
一瞬の沈黙。
レオンの目が細くなる。
「そうか」
何かに気づく。
だが。
次の瞬間。
ドッペルレオンが踏み込む。
「チッ!」
受ける。
体力が削れる。
「時間がねぇ!」
ミレイが叫ぶ。
「このままだと全滅する!」
レオンが決断する。
「……撤退だ!」
「なに!?」
ガルドが振り向く。
「一度引く!」
「今は崩しきれねぇ!」
「ガルド!」
「ルナを連れて下がれ!」
「了解!」
ガルドがルナを抱える。
後退。
「ミレイ!」
「煙幕張れ!」
「任せて!」
詠唱。
視界を遮る霧。
一気に広がる。
「急げ!」
全員が後退。
ドッペルも同じ動きで追う。
だが。
視界が遮られる。
一瞬のズレ。
その隙に。
階段へ。
「戻るぞ!」
「八十一階だ!」
全員が駆ける。
息を切らしながら。
なんとか。
撤退成功。
九十階。
静寂が戻る。
ドッペルゲンガー達は。
元の位置へ戻る。
待機。
一方。
八十一階。
回復の泉。
「……はぁ……!」
全員が倒れ込む。
水に浸かる。
回復。
「くそ……」
ガルドが拳を握る。
「あと一歩だったのに」
「違う」
レオンが言う。
静かに。
「まだ足りねぇ」
だが。
その目は。
折れていない。
むしろ。
「……見えた」
小さく呟く。
「攻略法が」
ミレイが顔を上げる。
「本当か?」
「あぁ」
レオンが笑う。
「“完全に同じ”じゃねぇ」
「一箇所だけズレてる」
「そこを突く」
一方。
八十九階。
Aクラス。
「……今の音」
リーダーが呟く。
「戦ってるな」
九十階の向こう。
気配。
「Sクラスか」
戦士が言う。
「なら」
魔法使いが笑う。
「俺たちはどうする?」
リーダーが答える。
「行くに決まってる」
手を扉にかける。
そこでSクラスパーティが慌てて、逃げるように出てくる。
Aクラスを無視して走っていく。
「大丈夫か?・・先に越えるぞ」
その先へ。
一方。
コントロール室。
「おぉ」
ユウが楽しそうに言う。
「撤退したね」
「当然だ」
アクアが静かに言う。
「一発じゃ解けないようにしてる」
「でも」
ユウがニヤリとする。
「気づいたっぽいよ?」
アクアの口元がわずかに上がる。
「いいな」
「それでこそだ」
視線は九十階。
「来い」
そして。
九十九階へ。
「その先で」
低く呟く。
「終わらせる」




