第56話「ご褒美と罠」
ふわふわの感触。
「……ん」
アクアが目を開ける。
雲のベッド。
「寝てたのか……」
温泉のあと、そのまま倒れたらしい。
そして。
「……」
腕の中に重み。
見ると。
ユウが抱きついて眠っている。
規則正しい寝息。
無防備な顔。
「……」
少しだけ。
時間が止まる。
アクアは小さく息を吐く。
そっと。
ユウの頭を撫でる。
さらさらの髪。
「かわいいな……」
思わず口に出る。
だが。
すぐに視線を逸らす。
「……落ち着け俺」
軽く頬を叩く。
理性を戻す。
ゆっくりと体を離し。
立ち上がる。
服を着る。
そして。
ユウの服を持ってきて。
そっと体にかけてやる。
「風邪ひくぞ」
小さく呟く。
そのまま。
バーベキューの場所へ。
「……肉、残ってるな」
火を起こす。
静かに焼く。
ジュウ、と音がする。
香ばしい匂い。
しばらくして。
「……ん」
ユウが目を覚ます。
「いい匂い……」
目をこすりながら歩いてくる。
「おはよう」
「おはよ」
「よく寝た?」
「うん」
にへっと笑う。
「……じゃ、戻るか」
「うん」
二人は扉へ向かう。
コントロール室。
戻る。
石板を見る。
「……あれ?」
ユウが首を傾げる。
「いないね」
アクアも確認する。
Sクラス。
Aクラス。
どちらも。
いない。
「帰ったのか……?」
少しだけ間。
だが。
すぐにアクアの目が変わる。
「……ちょうどいい」
石板に手をかざす。
「仕込む」
ユウがにやっとする。
「悪い顔してる」
「当然だ」
九十階。
ボス部屋。
その奥。
宝箱。
アクアが設定していく。
「伝説級の剣」
光が灯る。
「伝説級の盾」
重厚な気配。
「伝説級の杖」
魔力が満ちる。
「伝説級の回復薬」
生命力が溢れる。
四つ。
並ぶ。
明らかに。
“破格”。
「うわぁ……」
ユウが引く。
「やりすぎじゃない?」
「いいんだよ」
アクアが冷たく言う。
「上げて」
一拍。
「落とす」
ユウが吹き出す。
「うわー性格わる~」
「褒め言葉だ」
アクアは笑う。
その目は。
完全に狩る側の目だった。
「来るぞ」
静かに言う。
「必ずな」
九十階。
ドッペルゲンガー。
そして。
罠の宝。
全てが揃った。
復讐の舞台は。
完成した。




