第55話「龍と温泉と理性」
じゅううう……
焼ける音。
香ばしい匂いが雲の上に広がる。
「……いい匂い」
アクアが肉をひっくり返す。
その瞬間。
「わぁぁぁ!」
バタバタと足音。
振り向く。
「っておい!」
ユウが。
裸のまま。
全力で走ってきた。
「丸見えだろ!!」
アクアは慌てて顔を逸らす。
「いいよ?」
ユウはきょとんとする。
「見ても」
「俺が気にするんだよ!!」
即ツッコミ。
「ほら服!」
「あとでいいよー」
肉をじっと見るユウ。
完全にそっち優先。
「……ダメだこいつ」
アクアはため息をつく。
「先に風呂入る」
そう言って。
温泉へ向かう。
「服着ろよ!」
背中越しに叫ぶ。
「はーい」
絶対着ない返事。
アクアも観念して。
服を脱ぐ。
温泉へ。
ざぶん。
「……はぁぁ……」
思わず声が漏れる。
「気持ちいい……」
体の力が抜ける。
その時。
ざぶーん!
「!?」
目の前に水しぶき。
「何かいるのか!?」
身構える。
すると。
「ぷはっ」
水面から顔。
ユウ。
「お前かよ!」
次の瞬間。
ぎゅっ。
抱きついてきた。
「おい!!」
近い。
柔らかい。
近い。
「ちょっ、離れろ!」
「やだ」
即答。
「なんでだよ!」
「落ち着く」
「俺が落ち着かねぇよ!!」
全力ツッコミ。
「恥ずかしくないのか!?」
ユウは不思議そうに言う。
「私は龍だよ?」
「……」
「服なんて着てなかったし」
「今は人間だろ!!」
「?」
きょとん。
通じてない。
「……はぁ」
アクアが頭を抱える。
その時。
ユウがすっと立ち上がる。
「ん?」
アクアの視線が。
一瞬だけ。
止まる。
「……」
(……意外とでかいな)
「ってそうじゃねぇ!!」
自分で自分にツッコミ。
ユウが首を傾げる。
「どうしたの?」
「なんでもない!!」
アクアは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
ユウはくすっと笑う。
「変なの」
そのまま。
また湯に浸かる。
平和な時間。
だが。
その裏で。
Sクラスは。
限界に近づき。
Aクラスは。
追い上げている。
アクアは湯に沈みながら。
ぼそっと呟く。
「……あと少しだな」
ユウが横で言う。
「なにが?」
「全部だよ」
静かな声。
温泉の湯気の中で。
復讐は。
確実に近づいていた。




