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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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55/68

第55話「龍と温泉と理性」


 じゅううう……

 焼ける音。

 香ばしい匂いが雲の上に広がる。

「……いい匂い」

 アクアが肉をひっくり返す。

 その瞬間。

「わぁぁぁ!」

 バタバタと足音。

 振り向く。

「っておい!」

 ユウが。

 裸のまま。

 全力で走ってきた。

「丸見えだろ!!」

 アクアは慌てて顔を逸らす。

「いいよ?」

 ユウはきょとんとする。

「見ても」

「俺が気にするんだよ!!」

 即ツッコミ。

「ほら服!」

「あとでいいよー」

 肉をじっと見るユウ。

 完全にそっち優先。

「……ダメだこいつ」

 アクアはため息をつく。

「先に風呂入る」

 そう言って。

 温泉へ向かう。

「服着ろよ!」

 背中越しに叫ぶ。

「はーい」

 絶対着ない返事。

 アクアも観念して。

 服を脱ぐ。

 温泉へ。

 ざぶん。

「……はぁぁ……」

 思わず声が漏れる。

「気持ちいい……」

 体の力が抜ける。

 その時。

 ざぶーん!

「!?」

 目の前に水しぶき。

「何かいるのか!?」

 身構える。

 すると。

「ぷはっ」

 水面から顔。

 ユウ。

「お前かよ!」

 次の瞬間。

 ぎゅっ。

 抱きついてきた。

「おい!!」

 近い。

 柔らかい。

 近い。

「ちょっ、離れろ!」

「やだ」

 即答。

「なんでだよ!」

「落ち着く」

「俺が落ち着かねぇよ!!」

 全力ツッコミ。

「恥ずかしくないのか!?」

 ユウは不思議そうに言う。

「私は龍だよ?」

「……」

「服なんて着てなかったし」

「今は人間だろ!!」

「?」

 きょとん。

 通じてない。

「……はぁ」

 アクアが頭を抱える。

 その時。

 ユウがすっと立ち上がる。

「ん?」

 アクアの視線が。

 一瞬だけ。

 止まる。

「……」

(……意外とでかいな)

「ってそうじゃねぇ!!」

 自分で自分にツッコミ。

 ユウが首を傾げる。

「どうしたの?」

「なんでもない!!」

 アクアは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 ユウはくすっと笑う。

「変なの」

 そのまま。

 また湯に浸かる。

 平和な時間。

 だが。

 その裏で。

 Sクラスは。

 限界に近づき。

 Aクラスは。

 追い上げている。

 アクアは湯に沈みながら。

 ぼそっと呟く。

「……あと少しだな」

 ユウが横で言う。

「なにが?」

「全部だよ」

 静かな声。

 温泉の湯気の中で。

 復讐は。

 確実に近づいていた。



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