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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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第54話「雲上の休息」


「……腹減ったな」

 アクアがぼそっと言う。

 石板から目を離す。

「もうずっと見てたもんね」

 ユウが伸びをする。

「10時間くらいか?」

「それくらいだね」

「アイツら、いつ寝てんだよ……」

 ぼやきながら立ち上がる。

「休憩するか」

「さんせーい!」

 二人はコントロール室を出て。

 百階へ。

 そして。

 奥の扉を開く。

「……なんだここ」

 真っ白。

 足元は雲。

 ふわふわとした大地。

「うわぁ!」

 ユウが駆け出す。

「雲だよ!雲!」

 ぴょん。

 軽く跳ねる。

 そのまま。

 ぐん、と高く舞い上がる。

「えっ!?」

 二十メートルほど。

 軽々と。

「すごーい!」

 そのまま空中でくるりと回る。

 着地。

 ふわり。

「面白い!」

 また跳ぶ。

 アクアも試す。

「……お」

 軽く跳ぶ。

 浮く。

「おお……」

 思った以上に飛ぶ。

 体が軽い。

 そのまま回転。

 空中で一回転。

 二回転。

「ははっ」

 思わず笑う。

 そのまま。

 ドサッと落ちる。

 痛くない。

 柔らかい。

「いいなここ」

 しばらく。

 子供みたいに遊ぶ。

 跳んで。

 回って。

 転がって。

 ようやく落ち着く。

「……」

 歩く。

 すると。

 足元から湯気。

「なんだ?」

 近づく。

「……温泉か?」

 白い地面の中に。

 湯が湧いている。

「ほんとだ!」

 ユウが目を輝かせる。

「入る!」

「え、おい――」

 止める間もなく。

 ユウが服を脱ぎ始める。

「ちょっ……!」

 アクアが慌てて後ろを向く。

「アクアも来なよー」

「あとで入る!」

「気持ちいいよー」

 ざぶん。

 湯に浸かる音。

「はぁぁ……」

 心底気持ちよさそうな声。

 アクアは頭をかく。

「……自由すぎるだろ」

 小さく呟く。

 そのまま。

 冷蔵箱へ。

 開ける。

 ひんやりした空気。

「……お」

 中には。

 分厚い肉。

 霜が美しい。

 魚介。

 見たことのない果物。

 そして。

 瓶。

「……なんだこれ」

 取り出す。

 香り。

 甘い。

 だが深い。

「酒か?」

 グラスに注ぐ。

 一口。

「……うまいな」

 静かに息を吐く。

 その間にも。

 後ろから。

「ふぅ~……」

 ユウの声。

「極楽~」

「……」

 アクアは振り返らない。

「出たら呼べ」

「はーい」

 のんびりした返事。

 アクアは肉を手に取る。

「今日は……焼くか」

 火を起こす。

 雲の上で。

 ゆっくりと。

 時間が流れる。

 だが。

 その裏で。

 石板の向こうでは。

 SクラスとAクラスが。

 命を削っている。

 アクアは空を見上げる。

 白い世界。

「……待ってろよ」

 小さく呟く。

「もうすぐだ」

 その目は。

 休んでいても。

 戦いのままだった。


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