第5話「配置された敵」
通路は、さらに下へと続いていた。
傾斜は少しずつきつくなり、歩くというより、滑り落ちる感覚に近い。
それでも足は止まらない。
止まる理由が、どこにもなかった。
光は、相変わらず奥へと続いている。
発光する苔はさらに密度を増し、もはや“導線”のように道を縁取っていた。
「……露骨だな」
思わず呟く。
ここまで来ると、偶然とは思えない。
だが――
その違和感を、確信に変える出来事が起きた。
カツ、カツ、カツ。
硬い音。
前方。
通路の曲がり角の先から、現れた。
「……またか」
カニの魔物。
だが、さっきとは違う。
一体ではない。
二体。
並ぶように、道を塞いでいる。
まるで――
「待ってたみたいだな」
自然発生では、こうはならない。
通路の幅にぴったり収まる位置。
逃げ場を塞ぐ配置。
考えすぎかとも思ったが――
そう思えないほど、整いすぎている。
カニたちは、同時にハサミを上げた。
息を合わせたように。
次の瞬間、同時に突進してくる。
「……やっぱりな」
俺は一歩踏み込んだ。
考えるより先に、体が動く。
左の個体の攻撃を紙一重でかわし、そのまま内側に入り込む。
死角。
関節。
刃を滑り込ませる。
一体目、崩れる。
すぐに振り返る。
二体目のハサミが振り下ろされる。
低く潜る。
足を払うように斬る。
体勢が崩れたところへ、追撃。
今度は迷いなく、核を断つ。
沈黙。
動かなくなる二体。
「……配置されてるな、これ」
はっきりと口に出す。
さっきの一体。
そして今の二体。
数が増えている。
しかも、道を塞ぐ形で。
これは偶然じゃない。
明らかに――
「“置かれてる”」
誰かが。
何かが。
この場所に、敵を。
配置している。
その考えに至った瞬間、背筋に冷たいものが走った。
ここは、ただの危険地帯じゃない。
意図がある。
仕組まれている。
まるで――
試されているみたいに。
「……なら」
刀を軽く振って血を払う。
視線を、さらに奥へ向ける。
「その先に、“何か”があるってことだな」
逃げるという選択肢は、浮かばなかった。
むしろ、逆だ。
知りたい。
この場所の正体を。
自分が、なぜここにいるのかを。
そのためには――
進むしかない。
俺は、再び歩き出した。
下へ。
さらに深く。
光に導かれるように。
通路は、なおも続く。
そして――
次第に、変化が現れ始めた。
壁。
床。
その形が、明らかに整ってきている。
自然の洞窟ではない。
削られている。
加工されている。
「……完全に人工物だな」
今度は、確信だった。
そして、それと同時に――
“終点”の気配が、近づいてくる。
空気が、変わる。
開けた空間の、予感。
俺は足を速めた。
理由は分からない。
だが――
そこに、何かがある。
そう、確信していた。
――まだ、自分が“管理する側”に立つとも知らずに。




