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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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第44話「思い出した雨」


「よし」

 アクアが肉を手に取る。

「これ、焼くだけじゃもったいねぇな」

「え?」

 ユウが首をかしげる。

「どうするの?」

「ローストビーフにする」

「ろーすと……なにそれ?」

「うまいやつだ」

 アクアが笑う。

 調味料を取り出す。

 見たことのない粉や液体。

 それを肉に揉み込んでいく。

「こうやって下味をつけて……」

「へぇ~」

 ユウが興味津々で覗き込む。

「じっくり火を通すんだ」

「焼くのと違うの?」

「全然違う」

 アクアが手際よく準備する。

 火加減を調整しながら、じっくりと焼き始める。

 香りがゆっくりと広がる。

「やば……」

 ユウがうっとりする。

「絶対うまいやつじゃん」

「まぁな」

 アクアが満足そうに頷く。

 ビールを手に取る。

 ゴクッと飲む。

「……っ」

 思わず笑う。

「最高だな」

「それちょうだい!」

 ユウもビールを飲む。

「にがっ!でもなんかいい!」

 二人で笑う。

 いい時間。

 だったはずなのに。

「……なぁ」

 アクアがふと立ち上がる。

「ん?」

「馬、乗ってみるか」

「いいね!」

 ユウが笑う。

「行こ!」

 アクアはふらふらと歩き出す。

 少し酔っている。

 草原を歩く。

 近くにいた一頭の馬。

「おー」

 後ろから近づく。

「大人しそうだな」

 手を伸ばす。

 その瞬間。

 ドゴッ!!

「ぐぁっ!」

 後ろ足が炸裂。

 直撃。

 アクアの体が吹っ飛ぶ。

 ゴロゴロと転がる。

「……」

 空を見上げる。

 星が見えた。

「アクア!?」

 ユウが駆け寄る。

「大丈夫!?」

「……あぁ」

 アクアがゆっくり起き上がる。

「大丈夫だ……」

 頭を押さえる。

 ズキン、と痛む。

 その瞬間。

 何かが。

 はじける。

「……っ」

 視界が揺れる。

 流れ込む。

 記憶。

「……おれは」

 声が震える。

「レオンの……」

 息が止まる。

「殺人を……見てしまったんだ……」

 ユウが黙る。

 静かに隣にいる。

 アクアの視界が変わる。

 雨。

 冷たい夜。

 あの日。

「……あれは」

 ゆっくりと言葉が出る。

「雨の日だった」

 バーベキューの炎が揺れる。

 だがアクアの意識は過去へ沈む。

「その日……俺だけ」

 ビールを一口飲む。

 手が震える。

「遠くの街で出た吸血蝙蝠を討伐してこいって言われた」

 夜の森。

 洞窟。

「五十匹くらいだったな」

 火魔法。

 一掃。

「すぐ終わった」

 簡単な依頼だった。

「夜までには戻れると思ってた」

 だが。

 街に着いたのは。

 深夜。

 雨が降っていた。

 静かな街。

 その中で。

「……悲鳴が聞こえた気がした」

 ふと、振り向く。

 屋敷。

 男爵の家。

「気のせいかと思った」

 でも。

 目を向けた。

 その瞬間。

 扉が開く。

 中から。

 出てきた。

「……レオン」

 雨の中。

 リーダーの姿。

「俺は普通に」

 そのまま声をかけた。

「あ、レオン」

 レオンがビクッとする。

 明らかに。

 動揺していた。

「……今帰りか?」

「そうだよ」

 近づく。

 レオンが肩に手を回す。

 妙に強い力。

「……なぁ」

 低い声。

「俺がここにいたことは」

 一瞬の間。

「内緒にしてくれないか?」

「……?」

 意味が分からなかった。

 だが。

「……あぁ」

 軽く頷いた。

 それだけだった。

 翌日。

 街が騒ぎになる。

「男爵が殺された」

 ざわめき。

 騒動。

「……まさか」

 頭をよぎる。

 だが。

 振り払った。

「レオンが……そんなことするわけない」

 信頼していた。

 リーダーだった。

「疑うのはやめよう」

 そう思った。

 だが。

 その日から。

 変わった。

「……あいつの態度が」

 明らかに。

 俺に対してだけ。

 厳しくなった。

 冷たくなった。

 そして。

 嫌なものに変わった。

 現在。

 アクアが静かに座っている。

 火が揺れる。

 肉の香りがする。

 だが。

 空気は変わっていた。

「……思い出した」

 低い声。

「全部じゃないけどな」

 ユウが隣に座る。

 何も言わず。

 ただ聞く。

「でも」

 アクアが空を見上げる。

「これで確信した」

 拳を握る。

「アイツは……黒だ」

 炎が揺れる。

 静かな怒りが燃え始める。



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