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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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第42話「自分を超える者」


 激突は続いていた。

 アクアと“アクア”。

 ユウと“ユウ”。

 どちらも一瞬の隙もない。

 完全な均衡。

 だが。

「ふふっ」

 ユウだけが、笑っていた。

「楽しいね」

 分身のユウが同じ言葉を返す。

 だが次の瞬間。

 ユウの動きが変わる。

 踏み込みの角度。

 リズム。

 呼吸。

 ほんのわずかにズレる。

 そのズレが。

 致命的な差になる。

「え?」

 分身の動きが遅れる。

「同じじゃつまらないよ」

 ユウが軽く言う。

 一気に距離を詰める。

 連撃。

 速い。

 さらに速い。

 さっきまでと明らかに違う。

 ドン!

 分身が吹き飛ぶ。

「……まだやる?」

 ユウが首をかしげる。

 次の瞬間。

 姿が消える。

 視界から消えた。

 分身のユウが反応する前に。

 背後。

 一撃。

 首元に手刀。

「終わり」

 分身が崩れる。

 完全な勝利。

「……ふぅ」

 ユウが伸びをする。

「いい運動だった」

 振り返る。

「アクアは?」

 一方。

 アクアはまだ戦っていた。

 互角。

 完全な拮抗。

「くそっ……!」

 斬る。

 防がれる。

 読む。

 読まれる。

 同じ動き。

 同じ思考。

 終わらない。

「どうやって……」

 息が荒くなる。

 その時。

 ユウの言葉がよぎる。

 同じじゃつまらない。

「……そうか」

 止まる。

 一瞬だけ。

 分身も同じく止まる。

 完全に一致。

「それが答えかよ」

 アクアが笑う。

「じゃあ」

 構えを崩す。

 型を捨てる。

「こっからは俺のやり方だ」

 踏み込む。

 わざと隙を作る。

 分身がそれを突く。

 だが。

 その動きすら読んでいる。

 さらに一手先。

 変則。

 予測外。

 刃が滑り込む。

 初めて。

 当たる。

「入った……!」

 だが浅い。

 まだ終わらない。

 なら。

 もう一度。

 崩す。

 変える。

 更新する。

 戦いながら進化する。

「おもしれぇじゃねぇか……!」

 速度が上がる。

 反応が上がる。

 限界を超える。

 分身の動きが、ほんのわずかに遅れる。

「追いついてねぇぞ」

 踏み込む。

 連撃。

 連撃。

 連撃。

 ついに。

 防御を崩す。

 一閃。

 深く入る。

 分身が揺れる。

「終わりだ」

 最後の一撃。

 崩壊。

 静寂。

 アクアがその場に立つ。

「……勝った」

 息が荒い。

 体が震える。

 だが。

 確かな実感。

「超えた……」

 自分自身を。

「やるじゃん」

 ユウが隣に立つ。

「遅かったね」

「うるせぇ」

 アクアが苦笑する。

「お前がヒント出すからだろ」

「サービスだよ」

 ユウが笑う。

 二人並ぶ。

 九十階のボス部屋。

 そこに残るのは。

 “自分を超えた者”だけ。

「これ、やばいな」

 アクアが呟く。

「冒険者来たら詰むぞ」

「いいじゃん」

 ユウが肩をすくめる。

「超えればいいんだし」

「簡単に言うな」

「簡単じゃないから面白いんでしょ?」

 アクアは少し黙る。

 そして。

 笑う。

「……確かにな」

 迷宮は進化する。

 そして試す。

 お前は、自分を超えられるか。



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