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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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第41話「対自分」


「ねぇ」

 ユウがふと呟く。

「戦ってみたいな~」

「……は?」

 アクアが振り向く。

「誰とだよ」

「自分」

「……やめとけ」

 即答だった。

「九十階のボス」

「だからだよ」

 アクアが眉をひそめる。

「死ぬぞ、普通に」

「大丈夫だよ」

 ユウはあっさり言う。

「ねぇ」

 ぐいっと手を引く。

「行ってみない?下から」

「……いや待て」

「行こうよ」

 そのまま強引に引っ張られる。

「おいって……!」

 抵抗する間もなく。

 二人は階段を登っていく。

 九十階。

 裏側の通路から侵入する。

「ほんとに来ちまった……」

 アクアが小さく呟く。

「わくわくするね」

 ユウは楽しそうに笑う。

 部屋に足を踏み入れる。

 その瞬間。

 空気が張り詰める。

 ぞわりとした気配。

 目の前に。

 現れる。

 アクアとユウ。

 そのままの姿。

「……マジかよ」

 アクアの目が細くなる。

「完全コピーだね」

 ユウが嬉しそうに言う。

「自分対自分ね」

 一歩前に出る。

「助太刀無用で」

「……ああ」

 アクアも刀を抜く。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間。

 消える。

 同時に動いた。

 キィン!!

 刃がぶつかる。

 まったく同じ速度。

 同じ力。

「……くっ!」

 弾かれる。

 速い。

 同じ反応。

 斬る。

 避ける。

 読む。

 読まれる。

「全部見えてる……!」

 自分の癖。

 間合い。

 全部通じない。

 蹴り。

 カウンター。

 完全一致。

 距離を取る。

 だが詰められる。

 同じ判断。

「どうやって勝つんだよ……!」

 思考が追いつかない。

 一方。

 ユウは笑っていた。

「ふふっ」

 楽しそうに。

 目の前の“自分”と打ち合う。

 完全な拮抗。

 だが。

 ほんのわずか。

 動きが変わる。

 リズムを崩す。

 遊ぶような動き。

 一瞬のズレ。

 ドン!

 分身のユウが吹き飛ぶ。

「……あれ?」

 アクアが目を見開く。

「同じじゃないよ」

 ユウが笑う。

 さらに踏み込む。

「完全コピーでも」

 連撃。

「今の私には追いつけない」

 分身が崩れる。

「……なるほど」

 アクアが息を吐く。

 理解する。

 コピーは最適解。

 だが。

 変化はない。

「だったら」

 構え直す。

「変えればいい」

 あえて崩す。

 リズムを。

 型を。

 予測を外す。

 一瞬のズレ。

 斬る。

 ガキン!

 弾かれる。

 だが。

「今のは通った」

 確かな手応え。

 さらに崩す。

 さらに変える。

「……おもしれぇ」

 アクアが笑う。

 完全コピーでは勝てない。

 だが。

 進化すれば勝てる。

 戦闘はさらに加速する。

 九十階。

 そこは。

 自分を超える者だけが進める領域。



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