第36話「格と断片」
三十一階
「ここからだな」
カインが静かに言う。
《紅蓮の牙》は回復の泉で体勢を整えていた。
「次は未知領域…」
セリアが小さく息を吐く。
「慎重に行こう」
リナが全員にバフをかける。
「行くぞ」
カインの一言で踏み出す。
三十二階
一歩入った瞬間、空気が変わる。
ぬるりとした気配。
「……何かいる」
グレンが呟いた次の瞬間。
床を這う影。
巨大なムカデが飛び出す。
「毒だ!距離取れ!」
さらに、壁の隙間からアリ型の魔物が溢れ出す。
「数が多い!」
「麻痺もある、触るな!」
一気に乱戦。
毒。
麻痺。
徐々に削られていく。
「回復!」
リナが必死に支える。
「火で焼け!」
セリアが火魔法を連発。
虫は焼けるが、その分魔力消費が激しい。
「長期戦になるぞ…」
カインが歯を食いしばる。
三十五階
「はぁ…はぁ…」
全員が消耗している。
「状態異常きつすぎる…」
「回復が追いつかない…」
それでも進む。
少しずつ、少しずつ。
攻略法を見つけながら。
「焼いて、距離取って、固める」
「パターンは見えた…!」
三十九階到達
「……なんとか…」
ほぼ限界。
その時。
後ろから足音。
振り返る。
「……遅いな」
Sクラス。
レオンたちが現れる。
空気が変わる。
「……来たか」
カインが構える。
だが。
Sクラスは興味なさそうに前へ。
四十階の入口へに進む。
そして。
ムカデ出現。
「……そこ」
ミレイが一言。
氷魔法。
瞬時に凍結。
動きが止まる。
「弱点は温度制御」
淡々と説明する。
さらにアント。
氷で鈍化。
ガルドが踏み潰す。
一瞬。
本当に一瞬で処理。
「……は?」
カインたちが固まる。
「毒も麻痺も、動きを止めれば意味がない」
ミレイが淡々と続ける。
「対策不足だね」
そのまま進む。
止まらない。
一切。
「行くぞ」
レオンが言う。
四人はそのまま奥へ消える。
「……くそっ」
カインが拳を握る。
「でも…」
セリアが言う。
「ヒントはもらった」
「氷…か」
カインが頷く。
「次は負けない」
一方その頃
アクアは石板を見ていた。
「……あいつら」
Sクラス。
その動き。
無駄がない。
迷いもない。
「……見たことある…」
胸がざわつく。
頭の奥が痛む。
「……誰だ…」
映るのはレオン。
その立ち姿。
その余裕。
その目。
瞬間。
フラッシュ。
落ちる感覚。
暗闇。
笑い声。
「悪いな」
誰かの声。
複数。
デバフをかけられた。
常態異常も。
裏切り。
突き落とされた。
「……っ!」
頭痛。
呼吸が乱れる。
「……くそ…」
言葉が漏れる。
「アクア?」
ユウが振り向く。
「……俺…」
断片が繋がる。
「……Sクラス…」
拳が震える。
「……やられた…」
「思い出した?」
「……まだ…全部じゃない…」
だが確信はある。
「……でも…」
視線は石板へ。
レオンたち。
「……あいつら」
低く呟く。
「……関係ある」
そして。
はっきりと。
「……許さない」
怒りが静かに燃える。
ユウがそっと頭をなでる。
「ゆっくりでいいよ」
「……ああ」
アクアは目を閉じる。
だがその奥で。
記憶は確実に、動き始めていた。




