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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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35/47

第35話「既視感」


 三十階。

 広間に、静寂が落ちていた。

 リッチが、ゆっくりと手を上げる。

 黒い魔力が渦巻く。

「来るぞ」

 レオンが淡々と言う。

「……遅いね」

 ミレイが一歩前へ出る。

 杖を構える。

 魔力が収束する。

 光。

 眩いほどの――純白。

「終わり」

 放たれる。

 光の奔流。

 直撃。

 瞬間。

 リッチの身体が、音もなく消し飛ぶ。

「……」

 一同、無言。

「……脆いな」

 ガルドが肩をすくめる。

「相性ゲーだね」

 ミレイが興味なさそうに言う。

「弱点が分かれば終わり」


「宝箱」

 ルナが指差す。

「開けるか?」

 ガルドが聞く。

「……開ける」

 レオンが短く答える。


 中身を確認。

 そして――

 転移。


「……以上だな」

 地上で、レオンが言う。

「次はその先か」

「だね」

 ミレイが頷く。

 

一方

「……行くぞ」

 カインが言う。

 再び三十階。

「光、準備できてる」

 セリアが頷く。

「やるしかないね」

 リナも集中する。

 リッチ。

 出現。

 構え。

「今だ!」

 光魔法。

 直撃。

 だが――

「……削れた!」

「でも一撃じゃない!」

「続けろ!」

 光。

 光。

 光。

 ゾンビが湧く。

「邪魔だ!」

 カインが斬る。

 押し返す。

 また光。

「……くそっ、魔力が!」

「あと少し!」

 十度目。

 ようやく。

 リッチが崩れる。

「……はぁ……」

 全員が膝をつく。

「……きつ……」

「でも」

 カインが笑う。

「倒せた」

「宝箱は?」

「……開けない」

 カインが即答する。

「先に進む」

「了解」

 その頃。

「……速いな」

 アクアが石板を見る。

「うん」

 ユウも頷く。

「Sクラス」

 リッチ戦。

 映像。

 光。

 消滅。

「……は?」

 アクアの目が、止まる。

「……なんだ?」

 胸の奥が、ざわつく。

 見覚え。

 違和感。

「……見たことある……」

 レオンの姿。

 その動き。

 その目。

「……誰だ……?」

 記憶の奥。

 何かが引っかかる。

 掴めそうで――

 掴めない。

「……どこだ……?」

 歯がゆい。

 もどかしい。

「……くそっ」

 アクアの眉間に皺が寄る。

 胸がざわつく。

 理由もなく――

「……イラつく……」

 感情だけが、溢れる。

 怒り。

 苛立ち。

 説明できない衝動。

「……なんでだよ」

 拳を握る。

 思い出せない。

 なのに嫌悪だけが、はっきりしている。

「……アクア」

 ユウが、そっと近づく。

「大丈夫?」

「……いや……」

 答えながらも。

 視線は離せない。

「……落ち着いて」

 ユウが、手を伸ばす。

 アクアの頭を、優しく撫でる。

「……」

 一瞬、固まる。

「……ふぅ……」

 息を吐く。

 少しだけ、肩の力が抜ける。

「……悪い」

「いいよ」

 ユウが笑う。

「なんか思い出しそうなんでしょ?」

「……ああ」

「無理に思い出さなくていいよ」

「……」

「そのうち来るって」

「……だな」

 アクアが、小さく頷く。

 だが。

 視線は、まだ石板へ。

 Sクラスの姿。

 特にレオン。

「……絶対、どこかで……」

 確信だけが残る。

 そして。

 わずかに滲む、怒り。

 記憶はまだ、閉ざされたまま。

 だが感情は、先に目を覚ます。



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