第35話「既視感」
三十階。
広間に、静寂が落ちていた。
リッチが、ゆっくりと手を上げる。
黒い魔力が渦巻く。
「来るぞ」
レオンが淡々と言う。
「……遅いね」
ミレイが一歩前へ出る。
杖を構える。
魔力が収束する。
光。
眩いほどの――純白。
「終わり」
放たれる。
光の奔流。
直撃。
瞬間。
リッチの身体が、音もなく消し飛ぶ。
「……」
一同、無言。
「……脆いな」
ガルドが肩をすくめる。
「相性ゲーだね」
ミレイが興味なさそうに言う。
「弱点が分かれば終わり」
「宝箱」
ルナが指差す。
「開けるか?」
ガルドが聞く。
「……開ける」
レオンが短く答える。
中身を確認。
そして――
転移。
「……以上だな」
地上で、レオンが言う。
「次はその先か」
「だね」
ミレイが頷く。
一方
「……行くぞ」
カインが言う。
再び三十階。
「光、準備できてる」
セリアが頷く。
「やるしかないね」
リナも集中する。
リッチ。
出現。
構え。
「今だ!」
光魔法。
直撃。
だが――
「……削れた!」
「でも一撃じゃない!」
「続けろ!」
光。
光。
光。
ゾンビが湧く。
「邪魔だ!」
カインが斬る。
押し返す。
また光。
「……くそっ、魔力が!」
「あと少し!」
十度目。
ようやく。
リッチが崩れる。
「……はぁ……」
全員が膝をつく。
「……きつ……」
「でも」
カインが笑う。
「倒せた」
「宝箱は?」
「……開けない」
カインが即答する。
「先に進む」
「了解」
その頃。
「……速いな」
アクアが石板を見る。
「うん」
ユウも頷く。
「Sクラス」
リッチ戦。
映像。
光。
消滅。
「……は?」
アクアの目が、止まる。
「……なんだ?」
胸の奥が、ざわつく。
見覚え。
違和感。
「……見たことある……」
レオンの姿。
その動き。
その目。
「……誰だ……?」
記憶の奥。
何かが引っかかる。
掴めそうで――
掴めない。
「……どこだ……?」
歯がゆい。
もどかしい。
「……くそっ」
アクアの眉間に皺が寄る。
胸がざわつく。
理由もなく――
「……イラつく……」
感情だけが、溢れる。
怒り。
苛立ち。
説明できない衝動。
「……なんでだよ」
拳を握る。
思い出せない。
なのに嫌悪だけが、はっきりしている。
「……アクア」
ユウが、そっと近づく。
「大丈夫?」
「……いや……」
答えながらも。
視線は離せない。
「……落ち着いて」
ユウが、手を伸ばす。
アクアの頭を、優しく撫でる。
「……」
一瞬、固まる。
「……ふぅ……」
息を吐く。
少しだけ、肩の力が抜ける。
「……悪い」
「いいよ」
ユウが笑う。
「なんか思い出しそうなんでしょ?」
「……ああ」
「無理に思い出さなくていいよ」
「……」
「そのうち来るって」
「……だな」
アクアが、小さく頷く。
だが。
視線は、まだ石板へ。
Sクラスの姿。
特にレオン。
「……絶対、どこかで……」
確信だけが残る。
そして。
わずかに滲む、怒り。
記憶はまだ、閉ざされたまま。
だが感情は、先に目を覚ます。




