第29話「七十階迷宮」
「……増えすぎだろ」
石板を見て、アクアが呟く。
一階から上層まで――
人、人、人。
「完全にバブルだね」
ユウが笑う。
「止まらない」
「……エナジーも」
バーを見る。
今までにない速度で溜まっていく。
「……やるか」
アクアが静かに言う。
「一気に広げる」
「どこまで?」
「七十階」
「……え?」
「まとめて作る」
「は?」
そこからは、早かった。
アクアとユウは、ひたすら設計する。
「三十一階、回復」
「四十一も」
「五十一、六十一も入れとく」
「定期ポイントだね」
「三十二から三十九」
「昆虫ゾーン」
「うわ、嫌なやつ」
「毒ムカデ」
「やめて」
「麻痺アント」
「もっとやめて」
「状態異常特化だ」
「いやらしっ」
「四十階ボス」
「巨大ムカデ」
「……来た」
「速い、硬い、毒、酸」
「全部盛りじゃん」
「対策しないと詰む」
「いいね」
「四十二から四十九」
「熊ゾーン」
「急にパワー系」
「グリズリー」
「うん」
「ムーンベアー」
「夜強そう」
「ファイアーベア」
「燃えてる!?」
「燃えてる」
「怖いって!」
「五十階ボス」
「ファイアーベア」
「単体強化か」
「力と火力」
「分かりやすい壁だね」
「五十二から五十九」
「小部屋大量」
「迷わせるやつ」
「モンスターハウスあり」
「うわ出た」
「宝箱部屋も混ぜる」
「当たりと地獄の差」
「そういうこと」
「六十階ボス」
「宝箱」
「……はい?」
「近づくと噛む」
「最低」
「宝箱型魔物」
「性格悪すぎ」
「褒めてる?」
「うん」
「六十二から六十九」
「アスレチックゾーン」
「え、急に楽しそう」
「罠メイン」
「いいね」
「落ちると?」
「六十三階のモンスターハウス」
「地獄じゃん!!」
「戻るのもありだな」
「いやらしい!」
「七十階」
アクアが少しだけ真剣な顔になる。
「ボス」
「何?」
「ダークエルフ」
「おお」
「七人編成」
「多いな」
「遠距離特化」
「なるほど」
「マグマの沼の向こうから矢を撃つ」
「近づけないやつだ」
「そう」
「どうやって倒すの?」
「考えろってことだ」
「出た」
「宝箱は?」
ユウが聞く。
「全部、帰還転移付き」
「統一だね」
「深層は持ち帰りリスク無し」
「その代わり――」
「突破が難しい」
「そういうこと」
すべての配置が終わる。
「……できた」
アクアが息を吐く。
「七十階迷宮」
ユウが、じっと見る。
「……すご」
素直な声だった。
石板には。
未知の領域。
三十一階以降。
まだ誰も踏み入れていない世界。
「……来るかな」
「来るよ」
ユウが即答する。
「絶対来る」
「……楽しみだな」
「うん」
二人は並んで座る。
静かなコントロール室。
だが外では。
百人以上の冒険者が、迷宮に挑んでいる。
「……これ」
ユウがぽつりと言う。
「もう“遊び”じゃないね」
「……ああ」
アクアも頷く。
「“世界”だ」
恐怖。
罠。
戦略。
成長。
すべてを飲み込む迷宮。
七十階。
その全てが、牙を剥く。




