第26話「恐怖の館」
「……風、追加した」
ユウがぽそっと言う。
「風?」
アクアが画面を見る。
二十一階。
薄暗い通路。
そして――
ゆらり、と空気が揺れる。
「……生暖かい風か?」
「うん」
ユウが頷く。
「なんか嫌な感じするやつ」
「……いいな」
アクアがにやりと笑う。
「完璧に“それっぽい”」
「でしょでしょ」
少し誇らしげ。
だがその直後。
「でも怖い」
「お前が言うな」
即ツッコミ。
「……来たぞ」
石板の表示。
あのパーティ。
「……ランク」
「Bになってる」
二人同時に言う。
「上がったな」
「上がったね」
成長。
このダンジョンで。
「……いいねぇ」
アクアが、少し悪い顔になる。
「さぁ」
小さく呟く。
「恐怖の館へようこそ」
「悪い顔してる」
「褒めてる?」
「うん」
二十一階。
パーティが足を踏み入れる。
「……なんか、空気違わないか?」
「暖かい……?」
違和感。
視界も悪い。
コケの光が、弱い。
「……静かすぎる」
その時。
角から――
“何か”が動く。
「っ!?」
血まみれの人影。
ゆらりと揺れる。
「……人?」
「違う!来るぞ!」
とにかく動きが気持ち悪いゾンビが、不規則に迫る。
「うわっ!」
攻撃。
倒れる。
だが――
「……なんだこれ……」
「気味悪すぎる……」
精神が削られる。
「いいねぇ」
ユウが楽しそうに笑う。
「嫌がってる嫌がってる」
「……性格悪いな」
「褒めてる?」
「だから違う」
だが。
アクアも、満足そうだ。
「戦闘じゃなくて、“雰囲気”で削る」
「これもありだね」
二十三階。
パーティの足が止まる。
「……もう無理だ」
「精神的にきつい……」
HPはまだ余裕がある。
だが――
心が限界。
「戻るぞ」
「賛成」
撤退。
二十一階。
回復の泉。
「……生き返った気分だ」
「ほんとそれ……」
全員が安堵する。
そして。
「……どうする?」
「宝箱だけ回収して帰ろう」
冷静な判断。
戻る。
二十階。
宝箱を開ける。
報酬回収。
転移。
「……いい判断だ」
アクアが頷く。
「無理しない」
「ちゃんと強くなるタイプだね」
ユウも同意する。
「で」
ユウが画面を切り替える。
「他は?」
「……十七階が最高だな」
「まだチョリキ前」
「だな」
だが――
「時間の問題だな」
「うん」
二人の視線が、二十階へ向く。
「三十階は?」
ユウが聞く。
「もう決めてる」
アクアが答える。
「リッチだ」
「おお、王道」
「ただし」
指を一本立てる。
「物理ほぼ無効」
「うんうん」
「魔法もほぼ無効」
「え?」
「弱点は光魔法のみ」
「……え?」
「火はちょい効く」
「……ヒントだね」
「そうだ」
気づけば勝てる。
気づかなければ詰む。
「で、さらに」
アクアが続ける。
「ゾンビを十秒に一体生成」
「うわぁ……」
「長引くほど不利」
「いいねぇ」
ユウが笑う。
「いやらしい」
「褒めてる?」
「うん」
「……まあ」
アクアが肩をすくめる。
「まだ来ねぇけどな」
「だね」
二十三階で止まっている。
今はまだ。
だが――
「いずれ来る」
「絶対来る」
その時。
三十階の“壁”が試される。
「……楽しみだな」
「うん」
ユウが笑う。
「泣きそうな顔するの」
「ほんと性格悪いな」
「褒めてる?」
「もうそれでいいわ」
ダンジョンは、進化する。
恐怖と、知恵と、挑戦で。
次の壁へ――




