第20話「ポンコツ元管理者」
鍋は、きれいに空になっていた。
「……食ったな」
「うん」
ユウが満足そうに頷く。
口元にまだソースがついている。
「……ついてるぞ」
「え?」
指で拭ってやると、ぺろっと舐めた。
「もったいないでしょ」
「……まあな」
苦笑する。
そのまま、ユウがベッドにごろんと転がる。
「でさ」
「……あ?」
「ダンジョン、どうするの?」
急に真面目な顔になる。
「どうするって?」
「もっと面白くしないと、来ないよ?」
その言葉は、的確だった。
「……まあな」
アクアも腕を組む。
確かに、今はまだ不完全だ。
「じゃあ教えてやるよ」
ユウが、得意げに起き上がる。
「元管理者だからね!」
「おう、頼むわ」
少し期待する。
だが
「まずね」
指を一本立てる。
「一階からドラゴン置こう」
「却下」
即答だった。
「え!?なんで!?」
「誰も入らねぇよ!」
「えー……」
不満そうに頬を膨らませる。
「じゃあ次!」
めげない。
「全部の階に宝箱置く!」
「中身は?」
「石」
「却下」
「なんで!?」
「二度と来ねぇよ!」
「えー……」
再び撃沈。
だが、まだ終わらない。
「じゃあさ!」
今度は目を輝かせる。
「ランダムで床抜けて99階直通!」
「誰が来るんだよそんな罠!!」
「スリルあって楽しいじゃん!」
「命かかってんだよ!」
完全にポンコツだった。
「……お前ほんとに管理者だったのか?」
「だったよ!」
胸を張る。
「人気なかっただけで!」
「致命的だろそれ!」
思わずツッコむ。
だが。
ユウは、少しだけ真面目な顔になった。
「でもね」
「……ん?」
「変化とご褒美」
指で机をトントン叩く。
「それは本当」
「……ああ」
そこは、正しい。
「あと」
少し考えて。
「“ちょっと無理そう”くらいが一番燃える」
「……なるほどな」
それも、分かる。
さっきのウルフみたいなやつだ。
「でしょ?」
にやりと笑う。
「……そこは使えるな」
「そこは?」
「そこ“だけ”な」
「ひどくない!?」
ベッドの上でバタバタする。
その様子に、思わず笑う。
「……で」
アクアが立ち上がる。
「やるか」
「何を?」
「ダンジョン改造だよ」
石板のある部屋へ向かう。
ユウもついてくる。
「まずはな」
石板に手を置く。
「エナジーの効率化だ」
「おおー」
ユウが感心したように声を上げる。
「無駄な配置は削る」
「うんうん」
「意味のある場所に集中させる」
「うんうん」
「強さの波を作る」
「……それいいね」
初めて、まともに乗ってきた。
「だろ」
「じゃあさ!」
ユウが手を上げる。
「途中に回復できる部屋置こうよ」
「……お」
少し驚く。
「ただし」
ユウがニヤリと笑う。
「回復したら、その後めっちゃ強い敵ね」
「……いいな、それ」
リスクとリターン。
これは使える。
「でしょ?」
得意げに笑う。
「……やっとまともなの来たな」
「やっとって何よ!」
また怒る。
だが――
悪くない。
ポンコツだが。
アイデアは、光る。
「……で、だ」
アクアが少し真面目な声になる。
「お前、どうするんだ?」
「何が?」
「ここにいるのか?」
ユウは、少しだけ考えて――
にっこり笑った。
「一緒にやる?」
「……は?」
「ダンジョン運営」
さらっと言う。
「私、元管理者」
胸を張る。
「で、あんた今の管理者」
指差す。
「二人でやれば最強じゃん?」
「……いやお前」
さっきの案を思い出す。
「不安しかねぇんだけど」
「ひど!」
だが。
ユウは笑っている。
楽しそうに。
「でもさ」
少しだけ、真面目な目になる。
「一人より、いいよ?」
「……」
その言葉に。
少しだけ、考える。
確かに。
一人でやるには、この迷宮は広すぎる。
「……給料出ねぇぞ?」
「ご飯でいい」
「安いな」
「さっきのまた食べたい」
「……それは分かる」
小さく笑う。
そして。
「……まあ、いいか」
肩をすくめる。
「よろしくな、ポンコツ元管理者」
「ポンコツ言うな!」
ユウが抗議する。
だが、嬉しそうだ。
こうして。
ダンジョンに――
二人の管理者が誕生した。




