第15話「三度の命と元管理者」
視界が、揺れている。
いや――
揺れているのは、自分だ。
「……ぐっ……」
膝をつく。
息が荒い。
体が、重い。
目の前。
少女が、立っている。
無傷。
息一つ乱していない。
「……なんだよ……それ」
かろうじて、声を絞り出す。
戦った。
全力で。
だが――
当たらない。
見えない。
反応できない。
そして――
削られる。
一方的に。
「……もう、終わり?」
少女が首を傾げる。
軽い。
あまりにも。
「……まだ……」
立とうとする。
だが、その瞬間。
視界が、消えた。
――闇。
音も、感覚も、消える。
完全な無。
そして――
「……はっ!?」
息を吸い込む。
視界が戻る。
体がある。
立っている。
「……なんだ……今の……」
「一回目」
目の前で、少女が指を一本立てる。
にこりと笑っている。
「……は?」
理解が追いつかない。
「さっき、死んだよ?」
軽く言う。
まるで、どうでもいいことのように。
「……いや……」
ありえない。
だが。
確かに。
今、何かが“途切れた”。
「もう一回」
少女が踏み込む。
速い。
――見えない。
次の瞬間。
衝撃。
体が、吹き飛ぶ。
「がっ……!」
地面に叩きつけられる。
骨が軋む。
内臓が揺れる。
そして――
また、闇。
――無。
「……っ!?」
戻る。
立っている。
また。
「二回目」
少女が、指を二本立てる。
「……なんだよ……これ」
息が荒れる。
理解できない。
死んだ。
確実に。
それなのに――
「大丈夫、あなた死なないよ」
少女が、優しく言う。
「……は?」
「だって」
少しだけ、楽しそうに笑う。
「私の肉、食べたでしょ?」
――その言葉で。
思考が止まる。
「……お前……誰だ?」
ゆっくりと問う。
少女は、くすりと笑った。
「もう、鈍いね~」
軽く肩をすくめる。
「私は、元管理者」
さらりと、言う。
「……は?」
「このダンジョン、前に管理してたの」
当然のように。
そして。
「私の肉、食べたでしょ?」
もう一度、言う。
「……肉……?」
一瞬、脳裏に浮かぶ。
あの感触。
とろりとした――
「……カニか!?」
「違うわ!!」
即座にツッコミが飛ぶ。
「馬鹿なの!?なんでカニになるのよ!」
「いやだって一番最初に……」
「龍よ!!」
びしっと指を突きつけられる。
「あなたが止め刺したでしょ!あの赤い龍!」
「……あ」
思い出す。
あの巨体。
あの肉。
「……あれ、お前……?」
「そう」
にっこりと笑う。
「あなたが止めを刺してくれたおかげで、転生できたの」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「ありがとう」
優しく、言った。
その一言だけは――
本心だと分かる。
「……いや、ちょっと待て」
頭が追いつかない。
「なんでそんな……子供に」
「転生ってそういうもんでしょ」
あっさり返される。
「で」
再び、にやりと笑う。
「私の肉食べたからね」
指を三本立てる。
「三回、死んでも復活できるよ」
「……」
「さっき、二回死んだから」
一本、折る。
「あと一回」
にこり。
「サービス終了前ね」
「……軽いな、おい」
思わず突っ込む。
だが、冗談じゃない。
本当に死んでいる。
なのに、生きている。
「……で」
一番大事なことを、聞く。
「なんで、こんなボコボコにする必要があったんだよ」
睨む。
少女は、一瞬きょとんとしたあと――
満面の笑みで言った。
「それはね」
一歩、近づく。
「マウント取るためよ」
「……は?」
「新しい管理者でしょ?」
くるりと回る。
「だったら、最初に上下関係はっきりさせとかないと」
楽しそうに笑う。
「あとでめんどくさいじゃん?」
「……」
言葉が出ない。
あまりにも、理不尽で。
あまりにも、納得できる。
「……じゃあ」
少女が、軽く手を振る。
「一回分、どうする?」
にやりと笑う。
「本気で来る?」
空気が、変わる。
さっきまでとは違う。
試しじゃない。
“選択”だ。
「……」
息を整える。
残り、一回。
次、死ねば――終わり。
だが。
「……やるしかねぇだろ」
刀を構える。
逃げる選択は、ない。
少女は、嬉しそうに笑った。
「いいね」
一歩、踏み出す。
今度は――
本当の戦いが始まる。
※私の多くの作品はアルファポリスにあります。作者名:忍絵 奉公 です。




