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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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第14話「最速の侵入者」


 石板を見ていて、違和感に気づくのが遅れた。

「……ん?」

 点が、一つ。

 異様な動きをしている。

 十階。

 通過。

 十一階。

 通過。

「……は?」

 視点を合わせる。

 だが――

 追えない。

「……速すぎる」

 映像が、追いつかない。

 一瞬映る。

 次の瞬間には、もういない。

「……十二階……もう?」

 ありえない速度。

 罠も、魔物も。

 まるで存在しないかのように、抜けていく。

「……なんだ、これ」

 石板を操作する。

 拡大。

 追尾。

 それでも――

 ブレる。

「……十三……十五……?」

 飛んでいる。

 階層を、飛び越えているように見える。

 いや、違う。

 速すぎて、認識が間に合っていない。

「……化け物かよ」

 思わず呟く。

 そして。

 一瞬だけ。

 映った。

「……子供?」

 小さい。

 細い。

 長い髪。

 ――女の子に見えた。

「……いや、そんなわけ……」

 あるはずがない。

 こんな速度。

 こんな突破力。

 普通じゃない。

 思考が追いつかないまま――

「……もう五十階?」

 背筋が冷える。

 ありえない。

 中層を、完全に無視している。

「……中ボス……」

 設置を考える。

 だが――

 エナジーが足りない。

 残りでは、まともな個体は置けない。

「……くそ」

 判断が遅れた。

 いや、想定外すぎる。

 そして――

「……突破、した……」

 五十階。

 何もできないまま、通過される。

 さらに下へ。

 六十。

 七十。

「……スライムしかいねぇぞ、そこ……」

 自分で削った結果。

 空白に近い。

 そして――

「……カニ、か」

 七十階以降。

 だが、意味がない。

 当たらない。

 追いつかない。

 すり抜けていく。

「……なんなんだよ、こいつ」

 恐怖に近い感覚。

 制御不能。

 完全に、想定外。

「……最後は俺、か」

 ぽつりと呟く。

 このままなら。

 最下層。

 九十九階。

 ここに来る。

 そして――

 自分が、ボス。

「……いいだろ」

 ゆっくりと息を吐く。

 石板から手を離す。

「……やるしかねぇな」

 コントロールルームを出る。

 広間へ。

 静かな空間。

 あの竜がいた場所。

 今は、何もない。

 だが――

 ここが、最終地点。

竜を殺したころで上がったレべル。

「……レベル2999だぞ」

 自分に言い聞かせる。

 ここまでの経験。

 力。

 普通の相手なら、負けるはずがない。

 だが――

 胸の奥に、わずかな違和感が残る。

「……来る」

 空気が、変わる。

 気配。

 いや――

 “到達”。

 次の瞬間。

 そこに、立っていた。

 音もなく。

 気配もなく。

 ただ、そこに。

「……」

 小さい。

 華奢な体。

 長い髪。

 そして――

 顔。

「……女の子……?」

 思わず呟く。

 年は、どう見ても幼い。

 だが――

 その目。

 まっすぐに、こちらを見ている。

 迷いがない。

 恐れもない。

「……ここが、一番下?」

 静かな声。

 普通の、少女の声。

 だが――

 その存在は、まるで普通じゃない。

「……そうだ」

 短く答える。

 距離を測る。

 隙を探る。

 だが――

 分からない。

 何も。

「……あなたが、ボス?」

「……まぁな」

 少女は、じっとこちらを見つめる。

 その視線に、妙な圧がある。

「……じゃあ」

 一歩、踏み出す。

 音が、しない。

「倒せば、終わりだね」

 無邪気に。

 そう言った。

 その瞬間。

 空気が、張り詰める。

 戦いが――

 始まる。


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