第134話 異空間バッグ
百階層の戦いは、さらに激しさを増していた。
阿修羅アスラの六本の腕が、まるで別々の生き物のように動き続ける。
上段の腕からは凄まじい剣撃。
中段の盾は隙を見せず、近づけば殴り飛ばされる。
下段の杖は絶え間なく魔法を放ち、炎、氷、雷が空間を埋め尽くしていた。
普通なら、一瞬で押し潰される。
だがユウだけは違った。
「わははっ!」
笑いながら避けている。
床を蹴り、壁を走り、時にはアスラの腕を踏み台にして空中へ跳ぶ。
その動きは軽く、自由で、まるで重力が存在しないみたいだった。
だが、さすがに相手も百階の主。
一撃一撃が重い。
ユウの腕に剣が掠める。
ガキィッ!
衝撃だけで身体が吹き飛んだ。
「いたたたっ!」
壁に激突しながらも、ユウは楽しそうに笑う。
アクアがコントロール室からマイクで話す。
「お前、遊んでるだろ」
「楽しいんだもん!」
その瞬間だった。
阿修羅アスラの中央の顔が大きく口を開く。
轟音。
超高密度の魔力砲が一直線に放たれた。
空気そのものが焼ける。
避けるには遅い。
だがユウは、真正面から突っ込んだ。
「え?」
ユキが固まる。
次の瞬間。
ユウは魔力砲の中心をぶち抜いていた。
爆風の中を突っ切り、一気にアスラの懐へ飛び込む。
「それ、邪魔!」
ユウの剣が閃く。
まず一本。
杖を持っていた腕が飛ぶ。
続いて回転しながら二本目。
盾を持っていた腕の筋を切断。
アスラが初めて大きく後退した。
三つの顔が同時に吠える。
空間が震えた。
すると残った四本の腕が、今度は同時に拳を叩き込んできた。
速い。
重い。
まるで巨大な岩山が四つ同時に落ちてくるようだった。
しかしユウは、その拳の上を走った。
「遅い!」
ぴょん、と軽く飛ぶ。
そのままアスラの肩へ着地。
三つの顔が一斉にユウを見る。
「近い近い!」
ユウが笑いながら、顔面を蹴った。
中央の顔が大きく仰け反る。
その隙。
アクアがぽつりと言った。
「今だな」
ユウの目が光る。
一瞬で加速。
空中で身体をひねりながら、刀を交差させる。
凄まじい斬撃が十字に走った。
静寂。
次の瞬間。
阿修羅アスラの六本の腕が、一斉にずるりと落ちた。
遅れて胴体に巨大な亀裂が走る。
三つの顔が、信じられないというようにユウを見た。
そして。
轟音と共に、巨体が崩れ落ちた。
床が揺れる。
百階層全体が震動した。
しばらく静まり返るボス部屋。
そして中央に、黄金の宝箱が現れた。
「やったぁぁぁ!!」
ユウが全力疾走する。
宝箱へ飛びつき、そのまま勢いよく開けた。
中には、黒を基調にした高級感あるバッグ。
金細工が美しく、宝石まで埋め込まれている。
「かわいい!」
ユウは即座に肩へかけた。
すると。
バッグの口が、ありえないほど広がった。
「ん?」
中を覗く。
真っ暗。
しかし底が見えない。
ユウは腕を突っ込んだ。
まだ入る。
もっと入る。
肩まで入った。
「深っ!」
アクアも近づいてくる。
「どれどれ」
近くにあった巨大な瓦礫を持ち上げ、バッグへ入れる。
すぽん。
消えた。
「は?」
さらに机。
椅子。
武器。
全部入る。
「すごーい!」
ユウが喜び始めた。
その辺の物を片っ端から収納していく。
ボス部屋の瓦礫。
アスラの剣。
盾。
腕。
全部入る。
「待て待て待て!後で整理できなくなるぞ!」
「大丈夫大丈夫!」
全然大丈夫じゃない。




