第110話 冬用タイヤとユニコーンレース
温泉街での滞在。
気づけば三日も経っていた。
毎日うまい飯。
広い部屋。
温泉。
完全に堕落生活である。
アクア。
「もうここ住みたい」
ユウ。
「わかる」
しかし。
旅は続く。
朝。
雪の街を歩き、馬車屋へ向かった。
店の前には、例の豪華馬車。
だが以前と少し違う。
タイヤ部分。
黒い樹脂で分厚く覆われていた。
五センチほどある。
さらに細かいクルミの殻がびっしり混ぜ込まれていた。
アクア。
「なんだこれ」
作業員。
「ガムってやつだ」
「ガム?」
「この茶色い樹脂だ。滑りにくいし、衝撃も吸収する」
アクア。
「へぇ~」
タイヤを触る。
ぷにっと少し弾力がある。
「不思議な素材だな」
作業員。
「雪国じゃ必須だ」
そして。
運転席中央。
新しいレバーがついていた。
かなり大きい。
前に倒す構造。
「これがブレーキだ」
店主が胸を張る。
「後輪を押さえつけて減速する。急坂でも安心だぞ」
アクア。
あの暴走下り坂を思い出す。
片輪走行。
死にかけた。
「あれは必要だな……」
店主。
「あと足回りな。サスペンションってやつ。泥と雪だらけだったから全部磨いといた」
アクア。
「ありがとう!」
ユウ。
「ぴかぴか!」
ミーちゃんまで馬車を見上げて。
ニャー。
満足そう。
その後。
馬房へ。
二頭のユニコーン。
白銀の毛並み。
美しい。
店員たちも見惚れていた。
店主。
「いい馬だなぁ……」
アクア。
「馬じゃなくてユニコーンだけどな」
「裏山に放牧してたが、こいつら相当速いぞ」
「そうなのか?」
「競馬でも勝てるかもしれねぇ」
ユウ。
「競馬?」
店主。
「あぁ。南のカーゴって街で大レースがあるんだ」
「へぇ」
「普通の馬だけじゃなく、ユニコーン部門もある」
アクア。
「ユニコーン部門!?」
店主。
「金も名誉もデカい。貴族が熱狂するイベントだ」
ユウ。
目を輝かせる。
「面白そう!」
アクア。
「いや絶対巻き込まれるやつだろそれ」
店主。
「もし行く機会あったら出てみるといい。こいつらなら優勝狙えるぞ」
ユニコーンたち。
ひひーん!
誇らしげ。
アクア。
「お前らわかってるのか?」
すると一頭が。
ぐいっとアクアを頭で押した。
早く走りたい。
そんな感じだった。
「元気だな……」
馬車へ繋ぐ。
カチャリ。
準備完了。
雪道。
白い息。
旅立ちの空気。
店主。
「気をつけてな!」
アクア。
「ありがとう!」
ユウ。
「また来るねー!」
ミーちゃん。
ニャー!
そして。
ユニコーンが走り出した。
新タイヤ。
まったく滑らない。
「おぉ!」
「すごい!」
雪道を滑るように進む。
しかも静か。
サスペンションも効いている。
快適すぎた。
アクア。
「文明ってすげぇな……」
ユウ。
「次はどんな街かな!」
白銀世界を。
馬車は北へ進んでいった。




