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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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110/147

第110話 冬用タイヤとユニコーンレース


 温泉街での滞在。

 気づけば三日も経っていた。

 毎日うまい飯。

 広い部屋。

 温泉。

 完全に堕落生活である。

 アクア。

「もうここ住みたい」

 ユウ。

「わかる」

 しかし。

 旅は続く。

 朝。

 雪の街を歩き、馬車屋へ向かった。

 店の前には、例の豪華馬車。

 だが以前と少し違う。

 タイヤ部分。

 黒い樹脂で分厚く覆われていた。

 五センチほどある。

 さらに細かいクルミの殻がびっしり混ぜ込まれていた。

 アクア。

「なんだこれ」

 作業員。

「ガムってやつだ」

「ガム?」

「この茶色い樹脂だ。滑りにくいし、衝撃も吸収する」

 アクア。

「へぇ~」

 タイヤを触る。

 ぷにっと少し弾力がある。

「不思議な素材だな」

 作業員。

「雪国じゃ必須だ」

 そして。

 運転席中央。

 新しいレバーがついていた。

 かなり大きい。

 前に倒す構造。

「これがブレーキだ」

 店主が胸を張る。

「後輪を押さえつけて減速する。急坂でも安心だぞ」

 アクア。

 あの暴走下り坂を思い出す。

 片輪走行。

 死にかけた。

「あれは必要だな……」

 店主。

「あと足回りな。サスペンションってやつ。泥と雪だらけだったから全部磨いといた」

 アクア。

「ありがとう!」

 ユウ。

「ぴかぴか!」

 ミーちゃんまで馬車を見上げて。

 ニャー。

 満足そう。

 その後。

 馬房へ。

 二頭のユニコーン。

 白銀の毛並み。

 美しい。

 店員たちも見惚れていた。

 店主。

「いい馬だなぁ……」

 アクア。

「馬じゃなくてユニコーンだけどな」

「裏山に放牧してたが、こいつら相当速いぞ」

「そうなのか?」

「競馬でも勝てるかもしれねぇ」

 ユウ。

「競馬?」

 店主。

「あぁ。南のカーゴって街で大レースがあるんだ」

「へぇ」

「普通の馬だけじゃなく、ユニコーン部門もある」

 アクア。

「ユニコーン部門!?」

 店主。

「金も名誉もデカい。貴族が熱狂するイベントだ」

 ユウ。

 目を輝かせる。

「面白そう!」

 アクア。

「いや絶対巻き込まれるやつだろそれ」

 店主。

「もし行く機会あったら出てみるといい。こいつらなら優勝狙えるぞ」

 ユニコーンたち。

 ひひーん!

 誇らしげ。

 アクア。

「お前らわかってるのか?」

 すると一頭が。

 ぐいっとアクアを頭で押した。

 早く走りたい。

 そんな感じだった。

「元気だな……」

 馬車へ繋ぐ。

 カチャリ。

 準備完了。

 雪道。

 白い息。

 旅立ちの空気。

 店主。

「気をつけてな!」

 アクア。

「ありがとう!」

 ユウ。

「また来るねー!」

 ミーちゃん。

 ニャー!

 そして。

 ユニコーンが走り出した。

 新タイヤ。

 まったく滑らない。

「おぉ!」

「すごい!」

 雪道を滑るように進む。

 しかも静か。

 サスペンションも効いている。

 快適すぎた。

 アクア。

「文明ってすげぇな……」

 ユウ。

「次はどんな街かな!」

 白銀世界を。

 馬車は北へ進んでいった。


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