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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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106/144

第106話 氷の街の高級宿


 それから十日。

 北へ。

 北へ。

 馬車を走らせ続けた。

 アクアは地図を広げる。

「ようやく六割くらいか」

 ユウ。

「まだ半分以上ある感じする」

「北って広いねぇ」

 ミーちゃんは、アクアの膝の上で丸くなっていた。

 街道は完全に冬景色。

 白い息。

 凍った地面。

 馬車の車輪が、時折ズルッと滑る。

 特にカーブが危険だった。

「うわっ」

 馬車が大きく外へ膨らむ。

 ユウが窓から外を見る。

「滑ってる!」

 アクア。

「このタイヤ駄目だな」

「鍛冶屋で滑りにくいやつに替えたい」

 やがて。

 大きな街が見えてきた。

 雪と氷の街。

 石造りの建物。

 白い煙。

 大勢の人。

 厚着をした住人たち。

「今日はここで泊まるか」

「賛成!」

 二人は街へ入った。

 そして。

 一番立派な宿を見つける。

 巨大。

 五階建て。

 入口には氷の彫刻。

 どう見ても高級宿。

 アクア。

「……高そう」

 ユウ。

「入ろ!」

 中へ。

 暖かい。

 暖炉。

 赤い絨毯。

 ふかふか。

 受付嬢が頭を下げる。

「ご予約でしょうか?」

 アクア。

「いや。飛び込みで」

 受付嬢。

「一部屋のみ空いておりますが、よろしいでしょうか?」

 アクア。

 もう毎日ユウと寝ている。

 今さらである。

「問題ありません」

 受付嬢。

「一泊金貨十枚になります」

「高っ!?」

 思わず叫ぶ。

 だが。

 アクア。

 袋から普通に金貨を出す。

 ユウ。

「最近アクア、お金出す時ドヤ顔するよね」

「うるさい」

 案内されたのは――

 最上階。

 五階。

 扉が開く。

 アクア。

「……おぉ」

 ユウ。

「すごーい!」

 広い。

 リビングだけで宿一部屋分ある。

 巨大なソファー。

 高級そうな机。

 暖炉。

 さらに。

 ベランダ付き。

 外へ出る。

 冷たい風。

 目の前には。

 壮大な雪山。

 どこまでも続く白銀世界。

 夕日が雪山を赤く染めている。

 ユウ。

「きれい……」

 アクア。

「これは金貨十枚するな」

 ミーちゃん。

 ニャー。

 部屋へ戻る。

 風呂場。

 広い。

 しかも。

 部屋風呂だけじゃない。

 露天風呂までついている。

 アクア。

「高級すぎるだろ」

 ユウ。

「入ろ入ろ!」

 さらに寝室へ。

 扉を開ける。

 ベッド。

 二つ。

 巨大。

 ふかふか。

 アクア。

「あ、別々か」

 思わず呟く。

 ユウ。

「一緒がよかった?」

 アクア。

「違う!」

 即答。

 ユウ。

 ニヤニヤ。

「顔赤い」

「赤くない!」

 その時。

 ミーちゃん。

 ぽすっ。

 一番高そうなベッドの中央へ飛び乗る。

 そして。

 丸くなる。

 完全に。

「ここが私の場所です」

 みたいな顔。

 ユウ。

「ミーちゃんそこなの?」

 アクア。

「一番いい場所わかってんな……」

 すると。

 コンコン。

 扉が鳴る。

 従業員。

「本日の夕食でございます」

 豪華な料理が次々と運ばれてきた。

 巨大な肉。

 魚料理。

 温かいスープ。

 パン。

 果物。

 ユウ。

 目を輝かせる。

「これ全部食べていいの!?」

アクア。

「金貨十枚だからな!」

 その夜。

 二人と一匹は、暖かい高級宿で久しぶりにゆっくり過ごした。

 外では静かに雪が降り続いていた。



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