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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第6章
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〈律〉とエルバーラ

覗いていただいてありがとうございます。

 〈日記の部屋〉から侯爵家の執務室に移動した僕は、そこで控えていたチャンクスとギッシュに命じる。


「〈調律〉は中止だ。待機してっ」

「ですがーー」

「エルバーラだからっ!〈律〉の違反者はエルバーラだからっ、危害を加えることは許さないっ、当主の僕が禁じる!」

 息をのむ二人を置いて、アンナを呼ぶ。


「坊っちゃま、それではモーグの掟に反します」

「それでも、だ。排除以外で解決するから、少しの時間が欲しいっ」

「排除の鎖図が共有されなければ、一族の末端が動くかもしれませぬ」

「分かってる!1日、1日待機しててっ。お願いだよアンナ」

 僕は必死に頭を下げた。


「坊っちゃまのわがままは、初めてでございますね。・・・かしこまりました、1日だけ影をとどめ置きましょう。ですがそれ以外は」

「うん。お祖父様にお願いしてくるっ」

 僕は執務棟へと急ぐ。


 この時間ならまだぎりぎりいらっしゃると思ったとおり、公爵邸へ戻るお祖父様を、エントランスで捕まえることができた。

「お祖父様っ!」

「ギーヴくん?・・・晩餐に来るかい?」

 のんきなお祖父様にイラっとくる僕。


「違いますっ!これっ」

 僕は胸から飛び出る赤い鎖を指差す。もちろんお祖父様の胸からの鎖も、僕の鎖に繋がっている。


「〈律〉の違反者かな?王都では10年ぶりかの。前は紛れ込んだヴァンパイアだったが、我らの敵ではなかった。心配せずとも、すでに排除に向かっておろう」


「それについてお願いがございます」

「・・・〈調律〉の件で?」

 不審そうなお祖父様の表情に、感情をぐっと落ち着かせる。


「はい。猶予が欲しくてっ」

「猶予?〈調律〉の?」

「はい。保留にして、僕に預からせて下さい」


「・・・取り敢えず、馬車で聞こうかの。トリッシュとの晩餐の時間に遅れてはいけない」

 もごもごと小さい声で告げると、お祖父様は馬車に乗ってしまった。


 僕も慌てて馬車に乗り込む。

 すぐに走り出した馬車の中で、僕はとにかく「調律を保留して欲しい」を繰り返した。


「掟だ。〈人王〉との契約でもある。一族が長い歴史の中〈人王〉の言葉に従い、守ってきた大切な使命を、一族当主となったギーヴくん自ら、ここで破ると言うのかい?それは良くないことだとわかるね?ひとりの問題ではないからこそ、簡単に了承できない」


 穏やかな口調に拍車がかかったお祖父様を、説得するのは難しい。


 理詰めと正論で返されると、反論がしにくくなる。それに元々が、僕の感情から出た説明できない保留だ。保留の理由も対策も今の時点ではないのだ。


ーー〈神の遊戯〉のためだって言うわけにもいかないし、〈識る能力〉でなんとかできるかもしれないとあやふやな事を言っても、そもそも僕だけが使える能力じゃ説得力がない。奥の手の〈白の王〉に相談しても、下手をしたら、黒騎士にばっさり斬り捨てられる公算のほうが大きい。


「〈律〉に違反する者は、人間の存在に害を及ぼす者であると〈人王〉は定められた。違反者が特定されれば排除するーーこの一族の流れを、ギーヴくんが止めるべきではない」


ーーいやでもっエルバーラを排除させるわけにはいかないんだって!


ーーそもそも『乙女ゲームの悪役令嬢逸脱違反』って何だよっ!ゲームを逸脱したからって、なんでエルバーラが人間に害を及ぼす存在になるんだ!


ーーそりゃ、光魔法で解除された第二王子は物騒すぎたけど、ジルベルトやハリス、ドリィギアからの情報から、〈神の遊戯〉ではエルバーラは婚約破棄されて、断罪されるんだろ?それなのに、この時点でモーグに排除されたりしたら、もっと逸脱違反になっちゃうよっ!


 血が頭に上っているのか、文句ばかりが浮かんでくる。モーグ一族が、僕のエルバーラの命を脅かす、最初の存在だなんて最悪だ。


ーーなにか・・・なにか・・・お祖父様を説得する理由がないのか。


 必死に説得材料を探す中、突然耳元で声が響く。


『主、たいへん!』

『エルバーラと第二王子、逃げてるっ』

『捕まっちゃう捕まっちゃう!』

『あの危ない侍従が、エルバーラ攻撃してる』


「シル、ディーネ、ノル!実体化して!」

 僕の声と同時に3妖精が実体化する。


「お祖父様、エルバーラは妖精に護られています!一族が手をだして良い、気安い存在ではありませんっ!」

 ハッタリだ。それでも、僕は利用できるなら何でも利用する。


「妖精・・・族!?」

 驚くお祖父様を確認して、僕は3妖精に尋ねる。

「エルバーラと第二王子はどこ!?案内してっ」



◆◇◆◆


 馬車から降りて、護衛として付いてきていたチャンクス他2人の騎士と共に、僕は3妖精の後を追う。


 向かった先は、王都を挟んでモーグ侯爵家がある場所の反対側の郊外だ。


 王城の狩猟場に続く山林の中に、王家の秘密の通路からの出口があるらしい。


 そこに、王城から脱出した第二王子とエルバーラがいるという。


 山林の中に、数人モーグ一族の者が様子を伺っている。行動に出ていなくて良かったと安堵する前に、彼らが様子見するしかなかったことに気づく。


 エルバーラ達のすぐ近くに王宮の魔術師と騎士達が何人もいて、取り囲み、その包囲網をだんだん縮めていた。

 追い込んでいるのかもしれない。


 モーグの介入を知られずにどう二人を助けるか。

 もしくはどう倒そうかーー。


 そう考えていた時、エルバーラがひとり包囲網から突破する。同時に第二王子も別方向へ逃げ出ようと駆け出している。

 どちらに行くかーー。


「ーー考えるまでもないよねっ」

 僕はエルバーラが包囲網の外に出た後、追いかける魔術師や騎士たちを土魔法で作った穴へ落としていく。


 そしてエルバーラを急いで追った。



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