エルバーラと黒蜥蜴
覗いていただきありがとうございます。
引き続きギーヴ視点です。修正してます。すみません。
侯爵当主補佐の勉強(業務とも言う)を終えた夜、僕はベットを抜け出し、〈日記の部屋〉へこもる。
『人を貶める場合、その人物の弱点にまつわる事柄でなければ、与える打撃は少ない』
『というのも貶められても評判を気にしない人物は金で回復しようとし、』
『評判を気にする人物は怒りをためる。また、その矛先を他者に向け、なんとか回復させようとする者と、自分自身に怒りを向け、あがこうと短絡的な行動を選ぶ者との差は、見逃し難く注意が必要だ』
『集団で他者を貶める場合は、一定の影響力を持つリーダーが必要である。リーダーは裏表がなく、直情型の方が操りやすい』
『ただし、集団が理想とするカリスマ性か共感を生む正義感か集団を統率しうる畏怖か、リーダーの性向を見極める必要がある。』
『貶める行為が習慣化した場合、それは一つの仕組みとなり必要とする社会的価値感が根底に作用する。制度化に似たその仕組み、機構を打破するには、仕組みそのものを打破する衝撃、すなわち強制力を持つ上位権力からの働きかけが最も有効である。打破する衝撃をもって暗躍する場合、予想外の範囲まで権力失墜を予測すべきである。』
改めて初代の日記を見ると、異世界封建社会の哲学を味わされる。
前世の世界はーー少なくとも〈俺〉の住んでいた日本は、他者を貶める行為については「してはいけない」の一義的な認識だった。
だがこの異世界では普通にその方法や影響を論じられ、貴族の教養として教えられる。その上で、初代の日記を読むと、いつも「する側」の視点になるのだ。
「復讐の一環なだよね・・・これぞ暗躍。僕の行為も暗躍になるのかなぁ」
僕は日記を閉じると、続き部屋に向かう。
慣れた手順で〈遠見〉の魔導具を起動して目を開けると、周囲の景色は一変し、僕の身体は針山黒蜥蜴に姿を変えていた。
いつもの荒れた中庭で、いつもの噴水の側でーー僕のエルバーラは空を見上げていた。
短い手足を必死に動かして、草むらの間から、よたよたとレンガの地面にたどり着く。黒い針が揺れて微かな音をたて夜の明かりに浮き上がる頃、僕は愛しい人の視線を独占できる。
「トカゲさん、今日も来てくれたの?」
涼やかなエルバーラの声が、夜の空気にふわりと溶けていく。
首を精一杯のばして、僕はエルバーラを見上げた。
ーー好きだ。
ーーひと目見るだけで、こんなに好きだという気持ちが溢れてくる。
その気持ちのまま、エルバーラを見つめたままーー近づいていくと蜥蜴の身体はバランスを崩して、右に左にひっくり返りそうになる。
「トカゲさんは歩くのがいつも下手ね。でもそれがカワイイんだけどね」
膝の上に両腕をついて、手の上に顎を載せた姿勢で、僕がノロノロと近づいていくのを見ていてくれるエルバーラ。
ーースキ。エルバーラの笑顔カワイイ。
僕は胸いっぱいになりながら、噴水の縁にたどり着き、手足の吸盤を使って、するすると壁を登りエルバーラの横にたどりつく。
「噴水に落ちないようにね、トカゲさん」
うんうんと首を振ると、身体ごと傾いで、噴水の中に落ちそうになる。
「あっ、ほらっ!言った端から危ないわ」
手の平で針の根本近くを軽く押し戻されて、身体の平衡を立て直す。
ーーエルバーラに注意されちゃった。
ーーエルバーラの手の平、やわらか〜い。
頭の中が桃色一色になる。幸せいっぱいで僕はぽやーんとエルバーラを見上げ続ける。
「ふふ。トカゲさんを見てると癒やされるわ〜今日はね、ちょっと色々上手くいかなかったの・・・」
ーーエルバーラ?
エルバーラの表情がくもり、重い吐息が聞こえる。
「・・・信頼を失うって、簡単なのねーーみんな、フランチャスカの名前で判断するの。私は何もしてないのに・・・噂だけでーーあのドクズせいでっ」
最後だけ、声が低い。
ーー・・・もしもし、エルバーラさん?
「いつかーーいつか殴り倒してやるわ!ええっ必ずっ!」
そう言って、ボクシングの練習のように、アッパーをシャドーイングするエルバーラ。
ーー怒ったエルバーラも素敵!って、何があったの!?
彼女に何があったのか、すべて残らず把握したい。が、果たしてそれが〈識る能力〉で可能なのか。彼女の現在の行動が、どのくらい〈神の遊戯〉に関係しているのか、その区別が分からないため、〈識る能力〉も限界があるのだ。
気持ちとしては〈識る能力〉で、エルバーラのすべてを詳しく調べたくなるものの、でもそこはかろうじてまだ我慢することにしている。
エルバーラを識る時は〈神の遊戯〉が始まってから。
ーーそう言いつつも、王都に戻ってすぐ、覗いちゃったんだけど。
『名前 エルバーラ=フランチャスカ(*)
属性 9歳 人間族 女性 〈侯爵家元男爵家〉(元***、***)
弱点 ***、〈周囲への危害〉、〈閉所暗所〉、〈ジェムニールの突発的暴力〉、シャルモン殿下からの疑惑、〈フランチャスカ侯爵家〉の疑惑、****
特記 『***』『運命に〈あらがおうとあがく者〉』『〈第二王子の婚約者〉』『生贄』『悪役令嬢キャラ1』『〈白の王との契約者〉』
運命の轍 『〈乙女ゲーム〉の〈悪役令嬢キャラ1〉
乙女ゲームのタイトル 真実の愛なんて信じません。成り上がりの私がすべて決めます
通称 ワタ決め
〈男爵令嬢〉の婚外子として生まれたものの、養女として血の繋がった父親である〈フランチャスカ侯爵〉に、引き取られる。
〈養母〉、〈異母兄弟〉に〈虐げられ〉、5歳の時に〈第二王子の婚約者〉となる。しかし、〈王子妃教育〉で通った〈王宮〉では、〈上級侍女〉や〈家庭教師〉から〈陰湿ないじめ〉を受け、婚約者である〈第二王子〉は、初めは気遣ってくれたものの、〈学園〉に入園の頃からすれ違いが始まり、次第に冷たく遇されいく。
〈学院〉の入学後、〈編入してきた子爵令嬢である主人公〉に、〈第二王子〉が心を奪われ、孤独感と嫉妬を抑えられなくなる。
〈側近〉たちまでもが、主人公に心惹かれていくことを察し、〈取り巻き令嬢たちをそそのかして主人公をいじめ〉、〈主人公への暴行を指示し〉、〈主人公を消し去りたい〉と思いつめる。
そして〈学院卒業時〉に、〈主人公をいじめた〉として〈第二王子と側近たち〉に〈断罪〉される。
断罪後、第二王子との婚約は〈破棄〉され侯爵家と〈絶縁〉される。家を放り出された後、*の集団に拉致され、***復活のための**とされる。
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』
なぜかエルバーラだけ識ることができない部分が多く、〈乙女ゲーム〉のタイトルと通称だけが分かる、謎設定の〈識る能力〉。
これも〈精霊王〉の魂が、ちょっとしかはみ出てないからだろうか。
「よっし、元気出た!トカゲさんに会えたし、明日も王子妃教育頑張れるわ」
ーーエルバーラ。
「それにちょっとぐらいやり返してもいいわよね、やられっぱなしはストレスがたまるもの!こまめの発散、こまめのやり返しよ」
拳を握りしめ、可愛く企むエルバーラもイイ・・・と、僕はうっとりしてしまう。
きっと人形のような大人しい令嬢なら、ここまで僕の心を奪えないんじゃないかと思う。
ーーエルバーラだけ、エルバーラ最上!エルバーラきらきら。
もはや僕の言語中枢も破壊する生エルバーラ。ブラックとなった体が震える。それでもエルバーラに不審に思われないのは行幸だ。ブラックの姿じゃなければ、悶て悶て知られたくない醜態を晒していたかもしれない僕。
蜥蜴相手に、ひとり語りしてくれるエルバーラとの幸せな時間を、僕は心ゆくまで味わう。
星空を背景に夜の女王のような美しいエルバーラ。
ーー願わくば、エルバーラ。僕をずっとずっと嫌わないで。
哲学的な記述や録音の魔導具の構造などすべてフィクションです。
ツッコむ隙間多数ですが、読み流していただけると助かります。




