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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第6章
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エルバーラと第二王子

覗いていただきありがとうございます。



 〈遠見〉の魔導具の魔力を切断して、僕は自分の身体の感触を確認する。

 鬱陶しい前髪を書き上げて、座り込んだまま声を出した。


「それで?」

『主、声コワイ』

『主、震えちゃうよ?』

『主、優しく言って?』


 僕の頭の周りを賑やかに飛び回る3妖精たちに呆れつつも、声色を和らげる。


「それで、エルバーラに何が起こったの?」

『うーんとぉ、王宮で』

『メイドに水かけられた』

「エルバーラが!?」

 僕が声を荒らげると、ディーネがまぁまぁと手で宥めようとしてくる。


ーー人間的しぐさ・・・最近、へんに人間っぽいんだけど。


『大丈夫、濡れたのは』

『服の裾の先』

『エルバーラ、メイドに言葉で慈悲かけた』


『でもその後、侍女にぬるくてマズイお茶出されたんだよね〜』

『でもエルバーラ笑顔だった』


『家庭教師にも習ってない勉強の質問されて困ってたじゃない?』

『アレは意地悪じゃないよ〜』

『え〜でも、エルバーラ困ってた』

『うん困ってたわ』


『でもきっと意地悪される原因は、侯爵が手を出したメイドよ〜』

『ああ、王宮泥沼劇ね』

『王宮メイドや上級侍女の間では共通の悪評になっちゃったもんね』


 妖精たちが語るままに、聞き役に徹していたら、だんだん不穏な言葉が出てくる。

「侯爵って、フランチャスカ侯爵?メイドに手を出したって・・・」

『そうそう。フランチャスカドクズ侯爵がメイドに手を出したの!』


「ドクズーーエルバーラも言ってたね・・・」

『でもドクズ侯爵は王妃付き上級侍女と長年の愛人関係で』


「それで王宮泥沼劇?でもその場合、メイドとその上級侍女、侯爵の問題だよね?エルバーラ関係ないでしょ」


『主、女ゴコロ分かってなーい』

『主、失格』

『主、そう単純じゃないの』

 3妖精に好き勝手にダメ出しをくらい、口を閉じる。


『そのメイド』

『愛人侍女の妹』

「えっ!?」

『意地悪メイドと愛人侍女姉妹!しかも侯爵、姉妹以外の他にも王宮の使用人に手を出してはお金や弱みで脅して口を塞いでいたのよね』

『それが姉妹の喧嘩をきっかけに使用人間にバレて、広く共有されちゃった』

『だから使用人みんな、エルバーラ憎い。〈神父憎けりゃ、吐息もくさい〉って感じでしょ?』


ーー初めて聞いた。それ異世界ことわざ?それとも妖精ことわざ?!


「・・・つまり水をかけたメイド筆頭に王宮の使用人達が、侯爵への憎しみを、エルバーラへ向けているってこと?」

『正解!』

『その数、十人以上』

「・・・エルバーラが心配だ」


ーー〈識る能力〉でも、エルバーラは王宮でいじめられるって書いてあったよね。


ーーこれは〈神の遊戯〉の範囲内?


ーーでもこういうのはエスカレートして、最悪な結果を招く場合もあるし。


 僕は前世の記憶の断片を思い出した。


 具体的な名前や場所は思い出せないが、裁判の傍聴をした時の1例にーー長年の近隣トラブルで、家の出入りのたび、隣人が大きな音を立てたり、夜中にラジオを大音量で流したり、窓の開け閉めにわざと大きな音を立てたりされて、我慢の限界に達した隣人犯人が放火してしまう、という事件が起こった。


 後の裁判で明らかにされたことには、そもそもの発端は放火した家へたまにしか泊まりにこない祖父母だった。その祖父母が大きな音を立てて嫌がらせをしていたのだ。いつ現れるか分からない祖父母への憂さ晴らしとして、代わりに犯人は隣人一家へ恨みをつのらせ、放火した事が発覚する。


 隣人一家は、火をつけられた我々家族には罪がないのに、誤解で火をつけられ殺されそうになった、と怒りを顕にしていた。


 だが犯人にとっては、燃やした隣人一家と祖父母は同じ存在で、嫌がらせされたことのみが事実で、隣人一家まとめて恨みを募らせた。

 その過程で、誰が嫌がらせしたのか、などの区別をもはやしないのだ。


 いわゆる坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、の状態で、隣人一家という大きなカテゴリーに恨みをつのらせ、その結果が隣家への放火だったのだ。


 巻き込まれ隣人一家は放火で死にかけ、お金も家財も思い出も、原因である祖父母との関係も失った。


 対して犯人は、いつも嫌がらせをして来た、隣人全部が悪いと言った。


 家族としてのつながりをどこまで求めるのか、切り離すのか。責任をどこまで負うのか、恨みをどこまで広げるのか。


 隣人一家のように、親族の行為で結果的に巻き込まれ、知らぬうちに向けられる悪意がエスカレートする事はとても怖いのだ、と傍聴の際に思ったものだ。


「ーー王宮に誰か潜入してたっけ。エルバーラを守ってもらわなくっちゃ!明日にでもアンナに確認してーー」

 僕が本気で心配しているのに、3妖精は僕にとっては辛いお知らせを告げる。


『ん〜でもぉ。主〜』

『エルバーラには第二王子がいるよ』

『うん。今日も第二王子がエルバーラかばった』


『第二王子が、エルバーラがお茶マズそうにしてるの気づいて、入れ替えさせていたわ』


『家庭教師についても、問題があれば相談してほしいって優しく言っていたの』


『主、出番ないね』


ーーデバンガナイ。ハイソウデスカ・・・っ!


 辺境にいた時から、報告書でエルバーラと第二王子の様子は知らされていた。


 政略的な婚約でも、仲が良さそうな二人ーーいまだに学園では二人を目撃する勇気を持てずに、僕は回避しまくっている。


『エルバーラには第二王子がいるよ』


ーーなんて威力のある、殺傷能力高めな言葉を、軽く投げかけてきてくれることか。


ーー僕だけ、頼りにされたいっ!

ーー僕こそが、守ってあげたいっ!


 遠く離れた辺境では仕方ないと折り合いがつけられたことでも、王都に戻って、エルバーラと学園で会おうと思えば会える距離になると、その欲求は際限がない。


 でも現状では、エルバーラは婚約者と、仲の良い関係を作り上げていて、僕は王女との婚約白紙の交渉が止まっている状況だ。


ーーああ、ままならない。辺境ではなんでも単純だったのに。


 僕はため息をついて、もどかしさを逃しつつ、落ち着くために日記を開いて現状を整理する。


 ソルベルト=イジル

 ジルベルト=イジル

 ハリス=メイソン

 そして

 エルバーラ=フランチャスカ


 彼らを見て識った事は〈神の遊戯〉=乙女ゲームだ、ということ。


 そのゲームでエルバーラが〈悪役令嬢〉だということ。


 学園に編入してくる主人公に第二王子とジルベルト、ハリスが惹かれること。


 エルバーラがその主人公を嫉妬していじめること。


 エルバーラが第二王子とジルベルト、ハリスに断罪されて婚約破棄されること。


 婚約破棄された後、フランチャスカ侯爵家を追い出されること。


 その後、エルバーラに何かが起こること。


ーー第二王子と主人公とやらを識らべてみないと、このゲームがどう進んでいくか、詳細が不確定すぎる。


 だが、このゲームのどこかで、エルバーラは確実に害される。

 もっと調べて、もっと準備して。


ーー僕こそが、エルバーラを守るんだ。



学園編、あと数話です。

さくっとさくっと!

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