学園初登校
お読みいだだきありがとうございます。
ちょっとだけ加筆修正してます。すみません。
王都に帰還して半年ーー。
とうとうその日が来た。
僕は侯爵家の家紋が付いた馬車で、学園の正門を通過する。5分ほど走った先で馬車が止まり、外から扉が開く。
「予定通り30分前の到着でございます」
先にギッシュが馬車を降り、御者台にいたチャンクスと共に脇に控える。
「ありがとう。帰りは定刻で」
「かしこまりました」
チャンクスがそう言う横で、ギッシュが顔を上げる。
「坊っちゃん、やっぱり初日ぐらい侍従の俺っちが付き添った方がいいっすよ」
「侍従見習いを連れて行くぐらいなら、護衛騎士兼侍従のチャンクス連れて行くって言ってるでしょ」
「でもぉ〜心配っす」
「そこは主の成長のために、あえて突き放すトコだよね」
「でもぉ、坊っちゃん面倒事に好かれてるっす。学園は最初のカマシが大事なんで、やっぱり俺っちが一緒に・・・痛いぃ!」
馬車の中からずっとぐちぐち言っていったギッシュは、僕が飽きたと言う前に、チャンクスに頬を思いっきり引っ張っられて、ワーワー言っている。しっかり摘まれているので、きっとしばらくは赤いままだろう。
ーー帰りにも赤いままだったら治してあげようかな。
ギッシュの心配を呆れながらも、煩わしく感じないのは、初登校で僕自身も多少緊張しているからかもしれない。
それにギッシュが意識を取り戻してから、チャンクスはギッシュに当たりが強くなり、ギッシュは周囲に対しての心配性がひどくなった。
ーーそれぞれ色々感じた結果なんだろうけどね。
そろそろ守衛の目線が気になり出した僕は、話を切り上げることにする。
「それじゃあ、僕行くね!チャンクス、後よろしく」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
背後でどたばた音がしたが、気にせずに学園門へ歩いて向かった。守衛に手首に巻いた学生証のような身分証を見せる。
顔を覚えて貰えれば、顔(魔力)パスになるらしいが、初日の僕は立ち止まって確認される。
「ギーヴィスト=フィン=モーグ卿ですね。ご案内に担任が来ているはずですので、広場までまっすぐ行ってください」
守衛に促され門を通ると、円形の広場の中央に日よけの大木が植えられている。その足元にベンチが点在していた。
その1つに座っていた女性教師が、僕に気づいてこちらにやってくる。
「・・・ベニス先生!?」
「ご入学おめでとうございます」
かつて家庭教師をしてくれていた女性である。そして〈律〉で繋がるモーグ一族の者でもある。
「ご無沙汰してます。ベニス先生が担任ですか?」
「僭越ながら、学園長を拝命しております」
「え・・・」
「学院の方はディーダーが学院長をしております」
「ディーダー先生が学院長!?」
こちらも家庭教師をしてくれていたおじいちゃん先生である。もちろんモーグ一族だ。
「教育部門の半分はモーグでございます。何かあれば速やかにご相談ください」
うわぁ〜、しか言葉が出ない僕。
「えっと、それで僕の担任は・・・?」
せめてモーグじゃない人がいいーーと考え、でも今後を考えると融通がきく人間の方がいいのか、とぐるぐる考えていると、「学園長室で待たせております」と言われる。
ーーお迎えのためだけに、学園長のベニス先生自ら迎えに来てくれたってこと!?
特別待遇にビビる僕に、ベニス先生はにっこり笑う。
「ギーヴィスト様の学力は既に学園卒業レベルでございます。ご希望であれば、試験ののち在宅のまま3ヶ月で卒園資格を取得できますが、いかがいたしますか?」
ベニス先生はどうやらお祖父様と同じく、学園に通わなくてもいいと考えていそうだ。
「いえ。学力だけでなく社交も重要です。目立たないよう普通で行くつもりですので、ベニス先生もそのつもりでいてください」
「ですが、侯爵を引き継ぐ準備もおろそかにできませんでしょう」
「その辺はぼちぼちお祖父様の考えに従います。それに社交や顔つなぎなど、学園でしかできないことも多いと思われませんか、学園長?」
「まぁ、大人な考えですこと。ですがその口実は一族には通じませんよ。モーグ一族の〈病み〉は私も存じております」
「・・・そうですか」
「私にとっても衝撃的な日々でございました。ある日突然、無表情無関心、冷静冷淡だったテオドール様が人が変わったように、ある方ただひとりを追いかけて、暴走なさるようになりました。その変質は驚く程突然で、行動が予測不能でございましたもの。フォローが大変でございました」
ベニス先生はテドさんより年上だが、3年ほど通学は重なったらしい。
「テドさんがご迷惑をお掛けしたんですね。・・・相手はクリス母さまですよね?」
テドさんとクリス母さまは幼馴染だったという。そしてハナさんはクリス母さまの同級生だったはず。
「学園ではハナスティア様と本気で張り合って、何かあれば対決なさっていました。特に学校中を巻き込んだ〈魔法対剣〉による決闘は、職員の間でも語り継がれております」
「あはは。被害が大きそう・・・」
「ご想像のとおりですわ。ですので、ギーヴィストさま」
立ち止まってこちらを見たベニス先生の顔を見ただけで、言いたいことが理解できた。
「ーーなるべく穏便に、一族に迷惑をかけないようにしますね」
でっかい釘を刺される前に、僕は営業中のサラリーマンのように爽やかに伝えた。
その後、学園長室で担任のジェシー先生に引き合わされ、教室に向かった。
編入生というと、黒板に名前を書かれ、教室の前方で担任に紹介されるーーそんな前世のイメージでいたのだが、もっとフランクだった。
挨拶も紹介もなく空いた席に座り教本を開く。
教室はサロンのような椅子やソファーカウチがありーーフリーアドレスで、自由にどこにでも座れるスタイルだった。
教師の方が生徒の間を回って質問に答えたり、説明をしたりする。
生徒は決められた教本の範囲を勉強し、分からなければ教師に尋ねたり調べたりして年に8回試験を受けるのだ。
というのも、上級貴族同士、下級貴族同士を比べても、爵位の問題だけでなく、家庭教師を雇える家と雇えない家で学力差が大きいらしい。
まして上級貴族と下級貴族での学習環境の差は大きく、学園の間は、魔法やマナーを含め基礎学力をそれぞれの進度で学み、卒園時を目標に均していく。
もちろん自由度が多いスタイルだからこそ、社交性のない子供は孤立するし、学習しない子供は落ちこぼれて学院には上がれないーー学園はある意味シビアな貴族社会の間引きシステムだった。
「お久しぶりです、モーグ卿。今日から学園に通われますの?」
昼時間になった途端に、見知った双子が声をかけて来た。第二王子の側近を選ぶお茶会や7歳のパーティーでも挨拶した、積極的な姉妹だ。
「ツィード伯爵家が長女、ラインスですわ」
「ツィード伯爵家が次女、マランスですわ」
同じ髪型でドレスだけが赤とピンクで違う令嬢たちだ。わざと似せているのかと、勘ぐりたくなる装いである。
「ええ。途中編入となりますが、よろしくお願いしますね」
笑顔で愛想笑いを浮かべていると、女の子達の返事が大きく響く。
他にもパーティで顔合わせをした事のある生徒が、ちらほら興味津々でこちらに寄って来ようとしている。囲まれる前に、モーグの寄子であるアレクが、割って入ってくれた。
「ギーヴィスト、良ければこれから学園の案内をします」
「助かるよ、アレク」
話そうと集まってきていたクラスメイトたちを笑顔で交わし、僕はさっさと教室を出る。
「良いタイミングだったよ、アレク。質問攻めは勘弁して欲しい」
「ツィード家の双子に、ひと通り答えておけば勝手に広めてくれるので、沈静化が早いです。注意は必要ですが」
「いい事聞いた。なるべく早く日常に紛れてしまいたいからね。で、案内はどこから?」
エルバーラのクラスはどこだろう、とキョロキョロする。
「ご希望の場所はどこでもご案内しますが、その前に隣のクラスにレイン嬢がおりますので」
「そうだったーーあ、学園ではギーヴでいいよ。仲の良さをアピールしておかないとね。大変だろうけど、しばらく2人には盾役をお願いするよ」
「はっ」
生真面目に腰を折るアレクは、モーグ領地の執政官の1人、男爵家の次男になる。そしてアレクの婚約者であるレインは、影であるスクナの妹分に当たり、この任務のためにモーグの分家の養女になり、アレクの婚約者となっている。
僕とアレクは予定どおり、隣のクラスでレイン嬢を誘い、学園内を案内してもらいつつ、とりあえず生徒の流れに乗って、食堂へと向かっていた。
「ギーヴ、モーグ侯爵家のギーヴか?」
その時、聞き覚えのある声が、僕を呼ぶ。
「ジェム」
通路の反対側を見ると、身長が伸びて幾分鋭利な雰囲気になったジェムニールが、取り巻きを引き連れて、こちらを見ていた。
世間で流行り?の座席のフリーアドレス制。
おしゃれに取り入れている外資系の会社や学校は多そうですが、毎朝自由に席を選ぶ=毎朝決定する作業、が地味にストレスになりそう。。。と勝手に想像してしまいます。
大学のように、慣れるんだろうか?でも聴講と学習は違うし、嫌いな人間が隣に座ったら移動するんだろうか?上司や先生が隣に座ると嫌じゃん、などなど。子供の頃の世界って小さいですし、騒動が起きそう、とか。色々考えてしまいますね。
子供の頃から、アメリカみたいに小さな意思決定が日常化されていたら、距離のとり方を学んで負担にならないのかなぁ、とか思ったりもします。
日本では子供の頃ほど、周囲が決めてくれますもんねぇ。
まぁ管理がしやすいほど安全ですし。
教室の席1つで、色々考えてしまいますが
あくまで、勝手ないち感想です!




