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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第5章
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〈妖精王〉の権能

覗いていただきありがとうございます。

「はっ!」

 雷魔法の火花が散ると同時に、受け止めたはずの剣が消える。

 

 ヤバイっ、と思った次の瞬間には、黒騎士の剣が左際から水平に滑り込んでくる。


 ガキッギッ!


 寸前で防いだ自分を褒めてやりたい。


「くっそ、重いんだよっ」

 黒騎士の剣を十字で防いだまま、押し負けそうになり、僕は黒騎士の膝に蹴りを入れようとする。が、ふっと力を抜いて下がられ、僕はバランスを崩した。


「甘いぞっ」

 態勢を崩したせいで、首の後ろを狙われる。万が一に張っていた防御の魔法が間髪、起動する。


 5重の魔法の盾だーーだが、たった一撃で割られて粉々に飛び散る。


 その粉々になった魔法陣が別の魔法陣を描いて、仕込んでおいた目くらましの光魔法を起動する。


「くっ・・・隠し魔法かっ!」

「連続魔法だよっ!」

 僕は続けて仕込んでおいた魔法陣に魔力を送る。


 だが、その魔法陣は起動と同時に真っ二つに切り捨てられ、ついでに僕も背中から切られて、地面に転がった。流れた血が床に模様を描く。


「シュウリョウ、シュウリョウ!ギーヴの負けナノサ〜」

 妖精が飛び込んできて、黒騎士が剣を納める。

 僕は痛みをこらえながら起き上がり、あぐらを組んで座り込むと背中に白魔法をかけた。


「未熟!〈我ガ君〉の床ヲ汚す愚カ者!マダマダなのサ〜」

「・・・はぁ」

「掃除するノサ〜」


ーー負けた・・・。


 僕はひっくり返って息を整える。上から降ってくる言葉は容赦がない。

「この間より弱いぞ」

「・・・ちょっと調子が悪かっただけだよっ」

 言い返すと黒騎士が剣を鞘に戻しながら、ニヤリと笑う。息一つ乱れていなかった。


「・・・ムカつく〜」

 僕は口を尖らせた。

 やはりお祖母様にも勝てない僕が、黒騎士を倒すにはまだまだ修行が必要なようだ。


 またひと太刀ぐらいなら、入れられそうだと思ったのだが、今回は甘くはなかった。悔しいが、目的は黒騎士打倒に切り替わっていたので、これからも長期戦で挑むことにする。


「そなた、また来たのかえ」

 そこに白髪の女性が現れる。呆れた声に、慌てて立ち上がる。

 血に汚れた床や僕の衣服が、真っ白になる。妖精の女性の仕業だろうか。


「あ、お邪魔してます。アドバイスのおかげで、侍従見習いと騎士たちも意識を取り戻したので、お礼がてら郎君をやっつけに参りました」


 僕は収納から、マカロンやケーキの盛り付けられた、3段のケーキスタンドを取り出す。


「これはお礼です。どこに置きましょう?」

 聞いている間に、クリーム色の丸テーブルと椅子が現れる。


「なんじゃ?人間の食べ物かえ?」

 言葉の素っ気なさとは裏腹に、興味津々で覗き込む白髪の女性と妖精の女性。


 高位の〈王〉である存在に、お礼をすると考えた時、やっぱり女性にはデザートだよね、と考えモーグの料理チームに頑張って作ってもらった。気分的には願掛けして、成就したからお礼参りにお酒を奉納する感覚だ。


 やっぱり多少でもお礼を返しておかないと〈借り〉が大きくなりそうでコワイしね。


 前世でいうところの、アフタヌーンティーのお茶会で供される、デザートのスタンドごと持ってきたのだが、この世界では見た目が珍しく、無事興味を引けたようだった。


「一番下段が、卵樹とマヨネーズのふわふわサンドイッチとモーグ特製、燻製ハムのスパイシーサンドイッチで、中段のこれがチコの種と実を練り混んだ、歯ごたえのいいスコーンで、こっちが高級チーズのプイスコーン、この緑がセイユの香草スコーンです。で、上段が一口ケーキとマカロンですね」


「この花が付いたのも、食べ物かえ?」

『飴デス!我が君、アマーイ』

 妖精の女性が、説明する前に飾りを折って食べてしまった。


「甘いのかえ?」

「スコーンはそんなに甘くないですよ。こっちのジャムやクリームを付けて食べると味が変わります」


 別皿の柑橘系ジャムやサワークリームも、テーブル上に出して説明していると、黒騎士がどこからともなく、ワゴンを押してきた。

 慣れた手つきで紅茶を入れ始める。


「ーーなんだ?」

「えっと、意外だなぁ、と」

 魔法騎士であるチャンクスがお茶を入れるのはアリでも、上背のあるガチムチの大柄黒騎士が茶器を持つと、笑えるほど小さく見える。まるで玩具のようだ。アンバランスさが際立つ。


「〈我が君〉のためだ。人間の真似事など造作もない」

「さようですか、、、」

 人間の真似ごとね、いいけど。


「うむ。美味しいぞ!」

「アマーイ!ウマーイ!ジャムもっと〜」

 お皿の上に、スコーンがふわふわ浮いて着地する。ケーキはスタンドの上で、直接消えていく。


 人間のお茶会のようでいて、やっぱり違うようだ。


「それで、そなたは〈妖精王〉の力は使えたのかえ?」

「5日かかりました。使い慣れた白魔法を無理やりレベル上げした感じでーーやっぱり自由には使えなくて」


「キャハハ!アタリマエなのダ!ギーヴは人間」

 妖精の女性がいつものように甲高く笑う。僕は素直に頷いておいた。


「僕、人間やめる気ないんで。でも〈妖精王〉の力がもっと使えると便利かな〜と」


 日記で心を整理した翌日、僕はギッシュや騎士たちの意識を戻す方法を尋ねに、〈白の王〉を再び訪ねた。


 〈遠見〉の魔導具の使用頻度があがったせいか、魔力の充填感覚も〈白の王〉への到達地点へ意識を集中させるのも、容易くなり、転移の成功率が上がった。もちろん転移先は限定的だ。


 だけど、再び会いに来た〈白の王〉には「対価が必要じゃ」と冷たく言われて、黒騎士と対決することになったのだ。


 無事ひと太刀、黒騎士の手の甲に傷を付けて、対価として教えてもらうことができた。

 もっともその方法は、自力解決法する簡単なやり方だったのだが。


ーー本当はエルバーラのネックレスを外してもらうはずだったひと太刀の対価なんだけどね。ほら、事情を聞くとエルバーラの意見を尊重した方が嫌われないっていうか、〈白の王〉との契約に僕がこっそり介入するのも良くないかなって、いうか。


ーーそれにエルバーラの命の危険については、僕がこれから潰していくことにして。


「この間、僕が面白い状況になっていて、〈妖精王〉の力が使えると教えて頂きましたけど、どういう仕組みなのかもう少し詳しく教えていただけたらなぁと」


 自分でも胡散臭いと分かる、愛想笑いを浮かべる。

 もちろん内心はビクビクだが。


「したたかじゃの」

「ケーキ、下ゴコロ」

「嫌だなぁ〜これは純粋にお礼ですって。ただ、この間の説明をもう少し追加でおまけしていただけないかなぁ、と」


 すぐに妖精の女性や黒騎士に睨まれる。

「図々しい〜畏れ多いぞ」

「ソウダ〜敬エ敬エ!」


「敬ってますよ。人間からしたら〈白の王〉は神話そのもので神様ですから」

 ニッコリ笑って殊勝に頭を下げる。

 これはホントの気持ちだ。


「ふむ。この間とはかなり違うの」

「この間は妄想妄言暴走ノハテ、自滅シナシナだったサ」


「ぁ・・はい。色々教えていただいたことで、〈神の遊戯〉に参加する者としての覚悟ができたんです」

 痛いトコロをつつかれて、苦笑ばかりだ。


「・・・なんぞ、企みのにおいがするの」

「駄目ですか?」

「妾が止めることでもなかろうよ・・・」

「僕、人間として〈進歩と失敗の機会(チャンス)〉をいただきたいと思って来ました」


「都合の良いものよ。人間族の言葉なぞに妾の本質は決められぬ」

「僕もです。だから詳しく知っておきたい」

 僕がそう言うと、白髪の女性はすくっと立ち上がった。


「サシュ」

「ハーイ」

「妾が動くと影響が大きい」

「説明シテオキマース」

 立ち上がった白髪の女性の姿が一瞬で消える。同時にテーブルの上のケーキスタンドも、まるっと消えていた。黒騎士と共に。


「・・・もうナイ?」

 僕はもちろん笑顔で、妖精の女性ーーサッシュさんのためにケーキの大皿を出した。



◆◇◆◆


「つまり今の僕はーー人間としての(そんざい)の一部分が切れて、中身の魂が出てる状態っていうこと?」


「簡単ニ言エバね!」

 妖精の女性はそう言うと、羽でちょっと浮いて、新たに出した果物のホールケーキを、嬉しそうに頬張っている。


 整理すると僕は、中心が〈妖精王の魂〉で外側人間の(そんざい)、その(そんざい)を護るように、〈人王〉の赤や青の鎖が巻き付いている状態だったらしい。


 それが胸の上辺りからお腹にかけて、切り込みが入っており、〈人王〉の鎖の一部が切れ人間の皮も破れ、〈妖精王の魂〉が出ている状態らしい。


ーーえ、ナニ、その内臓がはみ出てる感じ。ホラーだよ・・・。


 しかも人間の皮はそんな状態になれば破裂するところを、〈人王〉の鎖の加護と人間の皮自体に〈妖精王〉の血筋が混じっていること、そして〈7番目の王〉が権能で応急措置(いんぺい)したことーーなどが奇跡的に面白く(・・・)絡まって、人間でありながら〈妖精王〉の権能を使える特殊な状態になっているらしい。


「絶妙ノバランス。神ノイタズラ!」

「イタズラって・・・」

 この世界の創造神は僕の考える神様より、余程フッワークが軽くユニークらしい。


「〈妖精王〉の権能って、〈識る能力〉と〈封印の力〉ですよね?」

「キャハハ!人間ラシイ!〈王の権能〉人間ゴトキガ、言葉ニ当てはめラレナイ!」


「それもそうかーーじゃあやっぱり自分で試してみるしかないのかな。何ができるのかーー」

「ソウソウ。ホトンド人間ダモノ」


「サシュさんは僕の妖精たちと違って、人間やめて〈妖精王〉に戻れとは言わないんだね」

「一緒ニスルナ。不愉快ッよ」


 思った以上に激しい反応が返ってきた。すぐに謝ると、目を細められた。顔が美女だけに、圧がある。


「な、なんでしょう?」

「〈我ガ君〉ニ、迷惑カケタラ、許さナイゾ」

 〈妖精王〉ノヨウニ、という文言が語尾に聞こえた気がした。


「・・・肝に銘じます」

 脅されてウンウンと首を縦にふる。


ーー〈妖精王〉どんだけやらかしてるんだ!?


 間違っても人間やめないでいよう、と僕は思う。


「気ヲツケロ。人間ニ〈妖精王〉ノ〈力〉ハ過分ダヨ」

 それは甲高い声の、嫌なアドバイスだった。



次から学園編です。さくっといく予定。

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