帰還
覗いてくださりありがとうございます。
ギーヴくん視点です。
僕は別れの挨拶をして、メンテナンスしてもらった剣と頼んでいた木箱を受け取る。
そしてドワーフ鍛冶屋のドリューバの店から、少し離れて待機していた馬車に乗り込んだ。
「お待たせ!」
「坊っちゃん、それどんな防具っすか?」
ギッシュが木箱に気づいて目ざとく聞いてくる。
「防具?」
「手の平サイズっすね〜鈴っすか?」
「鈴?どうしてこれが鈴になるんだよ〜」
「え、だって野良魔物に鈴の音が有効だって、下働きのフューマが言ってました」
その途端、チャンクスの目が鋭く光る。
「鈴が効くのは吸血コウモリぐらいです」
「マジ?あいつ魔物に会ったら鈴を響かせれば大丈夫だってーー」
「嘘ですね」
チャンクスが断じる。
「坊っちゃんっ」
するとショックを受けたギッシュが僕にほんとっすか?と確認してくる。
「あ〜うん。たぶん余所者が目障りだったのかもね。僕だって冒険者には水袋切られたり、嘘の近道教えられたりしたし。どこにでもいるよね〜イジワルなヒト」
「私の言葉を信じない阿呆にも腹が立ちますが、主への危害を見逃した自分自身にも腹が立ちますね」
「ちょっと戻ってぶっ飛ばして来ます、フューマとその冒険者」と言う笑顔のチャンクスを、僕はギッシュと一緒になだめる。
僕達の乗った馬車は、すでに内隔の通用門まで来ていた。
外隔の待機場では、騎士団の小隊が僕達を送り届けるために魔獣馬と共に待っているはずだ。
「鈴!鈴じゃなければなんすか、ソレ。防具ですか武器ですかっ」
チャンクスの意識をそらそうと、ギッシュがしつこく聞いてくる。
「知りたい?仕方ないなぁ、特別に見せてあげるよ」
僕はもったいぶって木箱の上蓋をスライドさせると、くるまった布をめくると、白銀細工が光る。
「髪飾り、っすね」
「さすが職人さん。デザインはお任せだったからどうかと思ったけど・・・やっぱりドワーフだ。この細工の細やかさは、僕では真似出来ないや」
春と夏の紋章をまるで満開の桜のように緻密に彫り込んだデザインは、魔法や魔導具で、あるいは器用でしかない僕には到底彫れない物だ。角度を変えるたびにキラキラ光る。
留具のはまり具合もきっちりで、怪我をしないように細部まで丸みを持たせている部分には、こだわりを感じる。
「フランチャスカ侯爵令嬢へのプレゼントですか?」
「うん。ネックレスは手作りしたんだけどね、髪飾りはどうかなって思い直して」
リリィとのやり取りがあってから、手作りの限界について考えてしまったのだ。髪飾りも一応作ってあったが、ネックレスと違って、納得できる出来ではなかった。
僕の錬金術がいくらセミプロでも、総合的に見た時に令嬢にとって最高の代物を渡したい、やっぱりそう思った時、職人さんへ、オーダーメイドする選択肢が生まれたのだ。
ーー見劣りする物は渡したくないしね。
「手作りは気持ちがこもるけど、やっぱり本職さんが創った物の方が出来がいいかなぁと思って、一応僕が作ったネックレスとセットになるようにって、ドリューバに頼んだんだ。武器職人になんてもの頼むんだ、って怒られたんだけど、辺境で僕が尊敬できた鍛冶屋は、ドリューバだけだったしね。見る目があったなぁ、僕」
自画自賛してニンマリである。
「緻密ですねぇ・・・」
「出来上がりがいいと、すっごく付与魔法がしやすそう」
「この上、付与するんっすか」
「当たり前!エルバーラに渡す物だもん。最高の物にしなくっちゃ」
帰り道の馬車では時間がたっぷりある。
僕はなんの魔法を付与しようかなぁ、と色々考えを巡らせた。
◇◆◇◆
辺境から王都まで馬車で飛ばして25日、馬の早駆けで15日、魔獣馬早駆けで10日、転移魔法で一瞬というところか。
ただし、転移魔法は四辺境伯爵家にしかないし、使用時には王の特別許可がいるらしい。まぁそもそもが、魔術師数人が1年間、魔力を魔術道具に込めて込めて、ようやく3回使えるかどうか、の代物らしい。戦争など、本当の緊急用だろう。
辺境伯爵家の騎士団に途中まで送ってもらうことになった僕は、気心の知れた仲間と単純に楽しむ旅行気分だった。
エルバーラの髪飾りや自分の武器に付与魔法を刻む以外に、魔獣退治に参加したり、強盗の捕縛で囮を努めたり、通過する街を買い出しがてら散策したりした。
野宿では、薪を囲んで騎士仲間とくだらない話や、ためになる教訓話を聞かされたり、下品な流行歌を教えてもらったりした。
騎乗での手合わせも、通過する街のそれぞれの問題も、見て聞いて、僕は実社会を学ぶ時間を過ごした。
たぶんギーヴィストの人生で、1番自由に過ごさせてもらった、貴重な、意義のある時間だったのだろう。
そうして、20日を過ぎた頃、モーグ騎士団のお迎えが待つ街にたどり着いた。
「トビー、騎士団のみんなも、今まで本当にありがとう。無事に帰り着いて、お祖父様お祖母様にお礼を伝えてね」
僕は小隊長として付き添ってくれたトビーや、騎士団の仲間に名残り惜しくも別れを告げた。
ここで辺境伯爵家の馬車から、モーグ侯爵家の馬車に乗り換えるのだ。
モーグ騎士団に向き直った途端、空気が変わる。
同様に、モーグに戻るその瞬間、僕の中で何かが切り替わった。
「当主の帰還である」
チャンクスの低くよく通る声が響く。
「下れ!」
モーグ騎士団が一斉に片膝をつく。
「忠誠を捧げろ!」
一斉に剣を縦に持ち、顔の前まで持ち上げる。
「首を晒せ」
顎をあげ、首を晒すようにこちらを見つめる騎士たちの主への正式な挨拶に、僕は少しビビりながら歩いていく。
顔をあげた騎士たちの顔の前に、掲げられた剣の柄《グリップ》。
気に入らなければ、剣の柄を握り、剣を抜いてその首を斬って下さい、といわんばかりの恐ろしいプレッシャー。
ーーやだやだ・・・でもこれがモーグだったんだよねぇ。
「お帰りなさいませ、ギーヴィスト様」
小隊を率いてきた騎士団参謀長が、拳を胸に声をかけてくる。
「出迎えご苦労!」
声を張るのはチャンクスにお任せだ。
僕は普通の声で、決まり文句を告げる。
「ギーヴィスト=フィン=モーグ、ここから貴殿らにこの身を預ける。王都までの護衛任務の安全な遂行を望む」
「「「「はっ!」」」
終わった終わったとばかりに馬車に乗りながら、ちょっと振り返り、辺境伯爵家騎士団に手を振った。
ーーちょっと寂しい。辺境楽しかったなぁ〜。
スランプ(死語?)です。
鼻から卵出すぐらい、でした。
あんまり中身進まず、すみません。
気長にお付き合いくださいませ。




