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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第5章
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エルバーラの奮闘5〈絶望〉

読んでいただきありがとうございます。

まだエルバーラ視点です。

少々血なまぐさい表現があります。ご注意ください。

 魔導具のエスカレーターというより、段差のない動く道が斜めになって、足の下を磁石で吸い付けられて移動する不思議な感じの魔法?魔導具?に運ばれて、私達女子3人は庭園に降り立った。


 綺麗に均された土、整えられた植木、計算されて咲き乱れる花々ーーその全てが人の手ーーつまり魔力もしくは魔導具によって整えられていることを意味する。


ーー日本の有料公園みたい。道に落ち葉1つ落ちてない。


「これが侯爵家の庭園ですのね・・・」

 イリーナ嬢がしみじみと呟く。


「さすがですわ。我が家の庭師何人いれば、これほど広大な庭園を、こんなに完璧に手入れできるのかしらっ」

 ブリジット嬢もため息を付きつつ、感想を述べる。


「我が家なんて、小さな裏庭は必要がなければ手入れもしませんのに、モーグ家はどんな場所もきっちり整備されていそうですわね」


 私もフランチャスカ侯爵家のぷち悪口を披露してみせる。


 実際、私が住んでいる別館の、あの中庭なんて噴水は壊れているし、庭の植木は藪になりかけよ、と愚痴りたくなる。


 二人は私の暴露に、まぁと頷いて上品に笑っている。


 どこの家も内情は同じようなものだろう。家の隅々にまできっちりと支配が及ぶのはそれなりの財力がある家格だけだ。公爵とか王家のような。


 つまりモーグ一族にとっては、ここが実質的な公爵家(ほんきょち)なのだ、きっと。


 同じように上のテラスから降りてきて、庭園を散策するいくつものグループに混じりながら、私達はまるで観光のような気分で、迷路に向かってゆっくりと歩いて向かった。


 そして迷宮庭園に入るか東屋に直接向かうか迷って、迷宮庭園の入り口ををちょっとだけ覗いた時だった。


「エヴァ」

 植木の影から声をかけられ、ビクリとする。そこに隠れるように立っていたのは、パーティの主役であるギーヴだ。


「ギーヴ?お兄様は?」

「先に行っちゃった。絶対に一番に攻略したいんだって」


「攻略!?」

 過剰反応して、大きな声が出てしまった。


 隠れ攻略対象が「攻略」なんて文言を口にしたので、思わず反応してしまったのだ。


 そんな私の様子に一瞬、訝しげな表情を浮かべつつも、ギーヴはスルーして言葉を続けてくれた。


「うん。迷路の攻略なんて、めったにできないからってさ」

「そうーー」


 その時、ギーヴの頭の上で、水色と緑色と黄色の光がくるくると回りーーその後、私を誘うように迷宮の奥へ入っていく。


ーーいつもの妖精(ちくりや)達とは違う妖精。偉い妖精!?


 目線で追っていると、側にいたブリジット嬢に服の端を引っ張られる。

 彼女を見ると、ギーヴを意識した視線で合図を送られた。


「あ・・・こちら、トリット伯爵家のブリジット嬢とヨハン子爵家のイリーナ嬢よ。さっきお友達になったの。お二人とも同じ年で、同じ学園に通うんですって」


 すると二人がドレスをつまんで、軽く腰を落とす。ギーヴも軽く挨拶を返した。


「じゃあ、僕とも同学年だね。ーーそうだ、迷路を入ってすぐ左に4つ曲がると、珍しい薔薇を植えているエリアに着くと思うから、ぜひ見ていって」


「まぁ、珍しい薔薇ですの!」

 ブリジット嬢がそう言って、顔を輝かす。


「どんな薔薇ですか?」

 控えめな調子で、イリーナ嬢も興味を示した。


「それは見てからのお楽しみかな。お客様にもめったに公開しない種類だから」

「それは楽しみですわ」

 これは迷宮庭園の散策に、参加することになりそうだ。


「エヴァ、道が分からなくなったら、近くの使用人にちゃんと声をかけて」

「ええ」

 私が頷くと、ギーヴは手を振って、先に迷路に入って行った。


 お兄様達を追いかけるのかもしれない。


「素敵ですね〜ギーヴィスト様っ」

「気さくに話しかけていただけるとは驚きましたわ。エルバーラ様はギーヴィスト様と親しいのですね」


「ジェムニールお兄様と仲が良いのよ。そのおかげでーー幼馴染?のような感じなの」


「羨ましいですわ」

「本当に!」

 顔を輝かせる二人に、私は首を傾げる。


 私の中では、ギーヴはお兄様と同じカテゴリーだ。


 いわゆる前世の〈ワルガキ〉である。小学校の時にいた、消しゴムを背中に投げて付けてくる同級生と同じである。やめてと言っても、先生の見えないところで笑いながらちょっかいをかけてくる、あの感じだ。


 侍女を助けてくれたり、(マール)を助けてくれたりしたが、基本はジェムニールとつるんで、何度か泣かされたりイジワルを言われたりしている。


 時々、こっそり傷を治してくれる優しさも頼もしさもあるが、まぁ良くも悪くも普通の幼馴染だった。


「わっ、見て!紫の薔薇よ」

 ギーヴに言われた通り進んだ先には、見たことのないーー牡丹よりも大きい、大ぶりの紫の薔薇が、生け垣を埋め尽くしていた。


「紫の薔薇なんて初めて」

「薔薇はピンクや赤、黄色と白ぐらいしか見たことありませんわ」

「私も」

「ええ。私も初めて見たわ」

 強く甘い香りが立ち込めていることに気づく。


「品種改良してるのかしら。普通の薔薇より馨しく感じませんこと?」

「ほんとう。甘い香り」

「香水が造れそうですわね」

 ブリジット嬢やイリーナ嬢が扇を開いて、鼻先に薔薇の香りを運ぶ仕草をする。


 私も扇を出そうとした時だった。

 首にチリリと電気が走る。


ーー熱い!?えっ、ネックレスが・・・。


 無意識に胸元のネックレスを握り込んだ途端、熱さに手を離す。見れば、首元の〈契約のネックレス〉が波打つように持ち上がり、金色の魔力をまとっている。


ーーどういうこと!?いったい何が・・・。


 戸惑った次の瞬間には、〈契約のネックレス〉が見覚えのある、闇の魔力に覆い尽くされる。


『〈我が君〉の命約を遮ることは許されぬ』

 頭の中に響いた声は、いつかの男の声だ。


ーー郎君(ろうくん)が居る!?


 どこ!?どこにいるの!?と視線を四方に走らせた時、空間が歪んだ。


 そして、はじき出されるように吹っ飛んで来たのは、白銀髪の少年ーー血まみれのギーヴだった。


「ギーヴ!?」

「エルバーラっ、逃げろっ」

 ブリジット嬢とイリーナ嬢が悲鳴を上げる。


 私は息をのみーー忘れたことのない記憶を思い出す。

 

ーーふっ飛ばされて横たわるビーツくんに、黒髪の男が近づいて、剣を振り下ろした。


ーー剣がビーツくんのお腹に刺さって、気を失っていたビーツくんが、悲鳴のような呼吸音を響かせて、目を見開いた。


ーーそれなのに、無慈悲に引き抜かれた剣から、大量の血が出て・・・。


 それはきっと前世で言う、トラウマかパニック症状だったのだろう。


 今目の前でーー抜身の剣を下げて、ゆっくりと近づいてくる黒髪の男が、あの時のビーツくんを刺した黒髪の男に重なる。


 ガンガンと頭痛が響き、視界が白くなる。

 自分の気持ちが大きく膨らんで、心臓やこめかみや手首の血管まで膨張して破裂しそうだった。


ーー許さない、許さない、許さないっ!


ーーもう二度とビーツくんを殺させないっ!


 目の前に壁のように立つギーヴが邪魔だった。

 ギーヴをギーヴと認識できなくて、でもビーツくんのように護らなきゃいけないと強く思う。


ーー今度こそっ!私も皆を護るの!


 夢に見た。

 何度も見た、後悔の記憶。

 何もできなかった〈私〉が今度こそっ!


「ダメッ。殺さないでっ」

 気がつけば、飛び出していた。


「エルバーラっ危ないっ」

 ギーヴの静止は聞こえなかった。


 ただただ、夢の中で繰り返し体験したとおりに、早口で魔法を唱える。


 すると周りを囲むいくつもの緑の枝が、棘を持つ鞭のように長く伸び、黒騎士へ襲いかかった。


ーービーツくんっ!バフコさん!スーシャさん!逃げてっ!


ーーお願い、今度こそっ、私も戦うからっ!


 だが、伸ばした緑の枝を、黒騎士はたやすく斬り伏せ、反対に湧き出た黒の靄が襲い掛かってきた。


ーーああ・・・やっぱり、〈私〉はまた見てるだけなの!?


 息が苦しくなってくる。


「エルバーラっ」

「だめっ・・・もう、イヤな、のっ・・・!」

 必死にもがいた。

 必死に魔力を送った。

 それなのに、また倒れた私の頬を、地面の石が刺す。


ーービーツくんっ!バフコさん!スーシャさん!


ーー死なないで!お願いっ、殺さないでっ!


 霞む意識の中で、何度も何度も悪夢を繰り返す。


ーー〈私〉はやっぱり誰も助けられないの・・・。


 遠いどこかで、血を流すギーヴの姿を見て、私の絶望はどんどん深く、大きくなっていった。


エルバーラのトラウマ回です。

平和な凡々の日本人が、いきなり目の前でテロリストに恩人を襲われたら?と思ったら、精神的に傷になるのではと思った次第です。


異世界ではきっと、精神耐性とか状態異常無効とか付くんでしょうが、エルバーラは普通のステータスということで。

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