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26.勇者と魔王

 部屋でのんびり読書をしていると、コンコンというノックオンが聞こえた。

 誰だろうか? と俺は思考する。本が大好きな俺は魔王軍きっての知的キャラだ。その気品あふれるキャラらしく、右手を顎に置き、思考をめぐらす。


「ノックするマナーの良い奴がこのアジトにいたっけ?」

 頭のいい答えがでてきた。こんな的確な推測を導き出せるのは俺くらいだろう。

 魔王軍は本部ならともかく、俺のような傘下に属している野郎はとにかく頭が悪い。脳筋ばかりだ。レドワールさんを覗いて――レドワールさん大好きです――


「てことは、もしかしてレドワールさん!?」

 思わず盛り上がってしまった。上半身も下半身も。


 四階の武器倉庫を守り続けて一五年。未だに鍵を死守し続けている俺の強さと頭のよさ。そして顔のハンサムさにようやく気付いたのか?

「ひひひ。レドワールさんですか?」

「そうよ……レドワールきて、もう我慢できないの」


 甘い声が聞こえてきた。その言葉は俺の脳を隅々まで刺激した。やばい。鼻血か出そうだ。

 落ち着け。俺、冷静になるんだジャン・マックス。


 まあ、このアジトの中では断トツのイケメンの俺だ。レドワールさんも多忙で男が欲しくなったんだろう。このジャンの魔力を彼女にぶっかけてもいいと思う。紳士らしくな。


「はい! 今行きます!!」

 心を高鳴らせ、俺は猛スピードで扉を開ける。待っててレドワールさん。

「は?」


 扉の向こうには、一人の黒髪の少年がたっているだけだった。なんだこいつ?

「誰だテメエ! レドワールさんは――ぶぎゃあああ」

 得体のしれない棒状の何かが俺の顔面に炸裂する。激しい痛みが全身に廻り、その場で意識を失った。



「ふう……こいつ何者だよ」

 五作目にプレイしたゲーム【ルーズレス伝説】で使った武器、木刀をブンブンと振り回しながら、俺は奇襲をかけた魔物の服を弄り、鍵をゲットした。


「酷いことするわね……でも、レドワールの声をいつ盗んだの?」

 アイルンが訊ねてきた。

「ああ、前やったゲームで相手の声をコピーして改造する武器があるんだ。それを復元したってこと」


 ゲームといわれてもわからないだろう。世界全体かは知らないが、この国にはテレビゲームという文化はなさそうだ。倒れていた店にもゲーム屋っぽいものなかったし。


「あと一人は……すぐ隣の部屋? マジか」

 マップを見て俺は安堵する。これ以上走ったりするのっは体力的にも限界だったため、これは十分な朗報といえよう。


「また同じ手で行くのか? この魔物が馬鹿なだけで、普通はあんなうまくいかんぞ」

 フォウズが苦笑を浮かべて、間抜けな顔をしている魔物の頬をひっぱる。 


「奇襲はかけてみよう。それでダメなら、戦うしかない」

 はーっと肩を深く落とす。俺はなんかい戦えばいいんだ。

 見えないゴールに途方に暮れていると、さらに信じがたい出来事が起こった。

「青色のアイコンが、一階付近で急速に増えてきている? どういうことだ?」


 青色のアイコンは、敵を示すものである。さっきまで合計で百人いるかいないかだろうという小規模な人数だったのに、どうしていきなり。

「敵が外での探索をやめていったんここへ戻ってきたんじゃないの? マズいわね……」


「それか、二階で足止めした奴らが連絡を取ったかのどちらかだろう。はやくしないと」

 ゴクリと唾をのみ、俺達は急いで隣の部屋へと移動する。


「レドワールです。開けてください」

 先程と同じ手口で、まずは敵を油断させる。


 無防備なままこの扉を開けてくれたら嬉しいんだが。果たして今回の敵はどうだろうか。

 ガチャリと扉が開かれる。瞬間、俺達は一斉に顔をこわばらせた。


「あら? その声はいつ取ったのかしら」

 レドワール本人だった。魔王軍の人間にしては恐ろしいくらいに整った顔立ちが、少しだけ震えている。憤っているのだろうか。


「三階の研究室から連絡が入ってきたから何事かと思ってきたら……まさか君が懲りずにこの世界に残っていたなんてね。せっかくチャンスを与えたのに……馬鹿な男。五人もろとも死になさい」


 十ある両手の爪を鋭利に伸ばし、そこから紫色のオーラを纏わぜる。

 紫? 闇魔法か?

「ハアア!!」


 爪が俺を襲う。素早いその奇襲に紙一重で反応し、木刀で己を守る。

 瞬間、木刀がシュウウと煙を上げながら、徐々に溶けていった。この溶け方は炎の類いではない。まさか……。


「毒よ」

 再度、俺の眼の前に五つの爪が現れる。

「冗談じゃない。一発アウトな武器じゃねえか」


 ヒイイイと、俺は咄嗟にアクセラテッドシューズを起動し、小ブーストをかけて攻撃から逃れた。


「別に私は貴方達を殺す気はないわ。外の走査から帰ってきた三千人くらいの同胞がここへ来る予定だし、放っておいてもあなた達は死ぬのよ」


「俺等がお前を倒して、先に強力な武器を手に入れれば問題ねえ」

 新しい武器を復元させる。今度はもう少し耐久度のある剣を復元させた。


「折角チャンスを上げたのに……お母様が不憫でならないわ」

 翳りのある表情を見せた。その憂いのある顔は、まるで俺のかあさんを心底心配しているような表情だった。


 悪の象徴である魔王サイドの人間が? 


「まあ、いいわ。お母様には気の毒だろうけど、あなたはここで死んで貰う。もう直ぐ三千人の戦闘員がここへ来るわ。ご愁傷様。貴方達はこのアジトのボスに会うこともなく息絶えるのよ」


「くっそ……」

 優雅に笑うレドワールに歯を軋ませ、俺は策を練る。

 しかし、でてこない。

 こんな圧倒的に不利なゲームを。俺は今までやったことがない。

 当たり前だ。そんなゲームは駄作だ。


「詰んだか……」

 脱力させ、独りでに呟く。抜け道が見えない。三千人超の兵力に、まだいる強敵、そしていくつもある武器。

 こんなチート要素がそろった相手に、俺等はどうやって勝てばいい。

 わかっていたことだったが、完全にゲームオーバーだ。

 戦意をほとんど失いかけていたその時、場違いなのどかな音が天井から聞こえてきた。


「この音楽は……ボスしか使えないアナウンス? いったいどうして」


 怪訝な顔をするレドワール。アナウンスということは、なにか緊急な知らせがあったのだろうか。その緊急は俺達のことか、それとも他の何かかは存じないいが、それでこの状況が変わるはずがない。


 次の瞬間、アナウンスしているボスは、はとんでもないことを発言した。

「みんな……すまない。『大変』な状況が起こった。『あの計画』の実行のために、今から超兵器オブリビオンを投入する……我々の命とともに、この国を殺す」


「え?」


 俺は目を丸くし、アイルン、フォウズとフォウンヌ、ウンケルも面を喰らいながらそれぞれの顔を見つめている。


「……まさか、あのクジを引いたのは……私達だったの」

 顔面が青ざめ、力尽きたように腰を落とすレドワール。先程までの余裕たっぷりの笑みは欠片もない。


「あの計画? 大変なことだって? いったいどういうことだ? 何が起きてるんだよ!」


 気が動転し、俺は泣き崩れるレドワールに駆けよる。状況が理解できないと、対策も取れない。どうして有利な立場にいる魔王サイドが自滅なんて選択を選んだんだ。

 両目に涙を溜め、慄然とする彼女は、微かな声で呟いた。

「私達は……もうお終いよ」

【あの計画】というのは、どこかでレドワールが話した勇者と魔王が共闘してひそかに企んでいる計画のことです。

それにしても、変な流れになってきました。無事に着地できればいいです

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