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22.母親との接触。そして――

なんか怪しい方向に進んでいますが、突き進みます

「信じていたわ、俺井崎君。地球へ帰る準備は出来ているかしら?」

「ああ……できてるよ」


 ニコリと笑うレドワール。一日経て俺が出した結論は、やはり変わらず地球への帰還だった。


 それは、この時でも変わらない。周囲には、見たこともない武器がずらりと並べられていた。


 鋭利に尖った超巨大な刃物から、光を常に放っている杖のようなもの、宙に浮かんで、漆黒の稲妻を放つ球状の物体。


 どれもが俺の想像を超えるものばかりだった。

 そんな兵器と、あいつら四人は戦っているのか。

 苦しんで、泣き叫んで力を失っていく四人の姿を思い浮かべる。

 とても胸が痛んだ。


「……後悔はしないでください。あなたは自分で選んで四人の仲間よりお母さんを選んだんです」


 レドワールが優しく微笑む。とてもいい感じの印象を与える人だが、彼女も敵なのだ。


「レドワール様! 四人の家を無事に破壊しました。車を使って暴走している女がいるんですがどうしますか?」


 部下らしき人間の言葉に、全身から鳥肌がたった。その女性は間違いなくアイルンだ。唯一の切り札である家を未然に防がれて、論理的な思考ができなくなっているのだろうか? いつもなら、そんな無茶はしない。


「今、戦況はどうなっている!」

 俺が塔が、レドワールがそれを許してはくれなかった。


「あなたはもう関係のない人間です。自分自身でそう決めたんでしょう」

 そう言った後、先程の笑顔からは想像もできない声色で、彼女は部下に告げた。


「殺せ」

 迷いのない一言に、俺は愕然とする。このままでは、彼女は、四人は確実に殺されてしまう。


 俺が……殺したんだ。

 罪悪感に胸が締め付けられ、胃袋がキュンとする。激しい嘔吐感が襲い掛かってきた。


 でも、仕方がないことだ。これ以上俺がこの世界にいたら、母親だって危ない。

「では、帰る準備をしましょう」


 レドワールは右手から大きな光を飛ばす。

 光は形を変えていき、大きな扉に変わった。


「この扉を開ければ貴方のお母様がいる病室へといけます。地球の空間に一瞬でも触れると二度とここへは戻ってこれません。扉は一分ほどで消えてしまうので、早目に潜ることをお勧めします。では、私はこれから戦場へ向かうので」


 そう言ってから、彼女は指をパチンと鳴らし、姿を消す。これは転移魔法なのだろうか。


「……さあ、行くか」

 扉を開ける。ギイイと軋む音が、部屋全体に響いたような感じがした。


 視線の先には、殺風景な白い空間に、無機質なベッド、萎れた花が置かれてある花瓶。そして、安らかに眠っている母親の姿が映っていた。

「……母さん」


 扉の向こうへは行かず、俺は呟く。その声に気付いたにか、母さんは俺の方へと顔を向ける。


「竜二郎……? 竜二郎なの!?」

 途端に、声を張る母さん。しばらく声を出していなかったのか、とても乾いた声だった。


「ゴメン。今まで自分勝手なことして。これからは、ゲームも成るべく控えて、勉強もする。現実と、人間と向き合おうと思う」


「あなたは……どこにいるの? その扉は何」

 微かに聞こえた声に、俺はしっかりと答えた。


「今、信じられんばいかもしれないけど、他の世界にいるんだ。そこには、勇者と魔王が手を組んで一般市民を滅ぼそうとしているところで、俺はそれを防ぐための救世主としてっ召喚されたんだ」


「あなたが勇者?」

「……ああ、でも俺はそこそこ頑張ったんだ。この世界で初めて戦ったし、初めて人を守った。そしてやっと友達ができた……」


 裏切りもしたが、俺は敢えて言わなかった。変な心配をかけたくなかったのだ。

「その友達は、大丈夫なの? 勇者と魔王って人が襲っている世界なんでしょ?」


 ああ、無事であるはずがない。今にも傷を負っているし、もしかしたら死んでいるかもしれない。


「ああ、きっと大丈夫さ。あいつらなら」

 涙があふれ出そうになるのを堪え、俺は無理に笑って見せる。そして、完全に忘れ去るために地球への空間に足を踏み入れようとした。


「待ちなさい、竜二郎」

 しかし、その優しい声に制され、足をピタリと止めた。


「どうして嘘をつくの?」

 内心でドキリとするが、平静を保つ。ここでボロを出すわけにはいかない。

「貴方は昔から嘘が顔に出やすい子だから、直ぐに分かるわ。心配なんでしょ?」


「そんなわけないだろ? 俺だって成長する。子供のころの話だろ?」

 全身から流れる汗を、俺は気にとどめない。崩れそうになる顔を必死に調整し、笑顔を固定した。


「それに、俺が母さんの所にいないと、誰も母さんを支えられない。父さんも仕事ばかりだ。兄も姉も、弟も妹もいない。俺がやるしかないだろ! 地球へ戻るしかないじゃんか」


 直後、外から大きな爆音が聞こえた。魔王軍の容赦ない攻撃が、とうとう開始されたのだ。


「ウンケル! アイルン! フォウズ、フォウンヌ!」

 思わず振り向き、名を叫んでしまう。心配する資格は俺にはないが、体が勝手に反応してしまった。


 あの音からして、かなりの規模の攻撃だ。直撃は勿論、その余波ですらただではすまないだろう。

「……行きなさい」


 母親が、静かにだが、はっきりと呟いた。

「始めてできた友達なんでしょ? 私のことはいいから、行ってきなさい」


 無理をしていると直ぐに分かる。体は痩せていて、疲労のせいで顔もげっそりとしている母さんが、健康なはずがない。


「嘘をつくなよ! 俺は大丈夫だ。あいつらのことなんて心配してない。無理をするなよ」

「子供のために無茶をするのが母親でしょ……」


 強い声が返ってきた。その迫力に圧せられ、口を閉ざしてしまう。


「私は……貴方が消えて、初めて貴方のことがわかった気がする。いつの間にかゲームにはまり、現実と、私達と距離を置いていたあなたに、今まで私はちゃんと向き合えてこなかったわ。でも、今なら向き合える。あなたはまだ帰ってくるべきではないわ」


 弱弱しくなっていく声で、それでも俺の耳には最初から最後まで届いていた。


「始めてできた友達なんでしょ? だったら、大切にしないとだめよ。行ってきなさい。助けてあげなさい」


 扉が目前で急速に消えていく。時間の一分が過ぎようとしているのだ。

 母親の姿もどんどん俺の視界から薄くなっていく。

 扉が消える最後まで、母さんは笑っていた。

 俺の幸せを願って。


「……」

 もう迷う必要はなかった。


 ポケットには、慣れ親しんだ、俺が地球でも、この世界でも武器として持っているコントローラーがある。


 立ち上がる時だ。



「キャアアア」

 目の前で、ウンケルが悲鳴を上げていた。

 さっきの魔王の余波を受け、車は使い物にならなくなってしまった。


 膝と右肩から鮮血が溢れるが、それよりも心の方が痛かった。

 私だけではない。泣いているウンケルも顔にかすり傷を負い、フォウズとフォウンヌも背中に魔法が直撃してその場で悶えている。


 家が破壊されてから、私は車を使って暴走した。その間、フォウズとフォウンヌは私とは真逆の場所に散り、戦うことから、できるだけ逃げ続けようという作戦に変わっていった。


 幸いにも姿を眩ませるだけの森も、建物もまだあったからだ。

 しかし、その計画は無残にも壊された。

 魔王軍続けて放つ魔法によって、木々も建物も残らず粉砕されたのだ。

 隙だらけの土地で、私達になにができるだろうか。


「ぐひいいい」

 二百人ほどの魔物が一歩ずつ私とウンケルに近付いてきた。

 両手から光を放っている。

 魔法だろう。


 数百もの魔法を一斉に放たれれば、今度こそ死んでしまう。

「ああ……ああ」

 恐怖が限界をきたしたのか、ウンケルは歯をがちがちと鳴らしていた。体も震えている。そのまま失禁してしまうかもしれない。


 もうダメだと、情けなく目を瞑ったその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「うおおおおおおお!!」

 その男は、数百もの魔法を一瞬で掻き消した。

 そして、もう一振りで接近してくる全ての魔物を吹き飛ばした。

 大きな剣を両手で掴み、その細い背中で私達を守っている少年がは、振り向くとこう言った。


「大丈夫か……」

「な、なんで……」

 話がかみ合わない返答をしてしまったが、それしか思い浮かばなかった。

 昨日見せた迷いのある表情が完全になくなっている。今はとても穏やかな表情だ。


「……母さんに怒られちまった。友達くらい救って来いって」

 照れくさそうに鼻をさすると、少年は私とウンケルに頭を下げた。


「今までゴメン。俺はずいぶん迷っちまったけど、最低なことをしたけど、俺は今度こそお前らを守りたいと思う」

「誰だてめえええええ!」


 彼の背後から、突然魔物が攻撃を仕掛けてきた。

 その魔法は、先程大きな爆発を起こした魔法だ。この至近距離で喰らえば、彼もただではすまない。


「耳を塞いでてくれ。アイルンとウンケル」

「え? 何をする気なの?」

 彼はコントローラーを動かして私達の両手を操り、無理やり耳をふさがせる。


「地球で生まれた武器。【天空の剣】俺が初めてプレイしたゲームの、一番レアな武器だ。その威力は――」


 大きな剣が七色の光を纏い、大きな斬撃を巻き起こした。

 魔法もろとも消え、バラバラになる魔物、その爆風でさらに数百人の敵が空の彼方へと消える。

「全ゲームナンバーワンだ! さあ、始めようぜ! 魔王軍」


こういう展開やってみたかったんです! はい

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