21.敗北の瞬間
翌日。
とうとう決戦の時が来た。
彼が消えてから、私達は様々な案を出した。
不法侵入をしても咎めがない、あるいわ緩い国へ行こうという案もあったり、この国のどこかに隠れようという案もあったり、やっぱり出来るだけのことはやって戦おうという案もあった。
しかし、最後の案以外は結局採用されることはなかった。
最初の案は、他の国も勇者と魔王対策として警備を整えているから不法侵入辞退
できないだろうという結論になり、二つ目の案、彼らの魔の手からは逃れられないだろうという結論だった。
結局、私達は戦うしかほかなかった。勝ち目は極めて薄いけど、いなくなった彼が残していった策と、教えてもらった技術を自分なりに駆使して戦うしかない。
正直、この大事に時期に自分の都合を言い訳に去っていった彼に憤りを感じていないといったら嘘になる。
しかし、私達は誰一人そのことは言えない。最初に自分の都合で彼をこの世界に召喚したのは私たちなのだから。
「とうとう……この時がきたか。震えるぜ」
「その震えは、武者ぶるなんかじゃないだろ……ああ、俺もブルっちまってる」
足を盛大に震わせているフォウズとフォウンヌに、私は言った。
「大丈夫よ……みんな死への瞬間が近づいているのをわかっているから、震えているわ」
私がしっかりしなくちゃいけないとは重々承知しているが、それでも恐怖には勝てない。本能が、逃げたいといっているのかもしれない。
「それでも、私は今日までの自分に逃げたくないから、勝つしかないのよ!」
遠くの方から、大きな角を持ったモンスターの群れが見えた。
その集団がこれから戦う魔王軍だと瞬時に気付く。
「私が囮になって山の方へあいつらをおびき寄せるわ。五千人全員ってのは無理でしょうけど、八割くらいは連れていってやる! みんな、家を捨てる準備をお願い」
一昨日練った策であいつらと戦うことは無謀でしかなかったが、新しい策を思い浮かべることはできなかった。
どうやっても、五千人相手に敵う方法などないのだから。
逃げたいが、仕方がない。パスポートを持っていない私達には、他の国に敵ではないですよといえる証拠もないし、逃げられる術がない。
死ぬ覚悟で、できるだけ抗うしかないのだ。
私はスイッチを押し、派手な轟音をまき散らしながら、地面からでてきた車に乗る。
街の地形は私の方が詳しい。あいつらがこの家に近づいていない今がチャンスなのだ。
「いくわよ! 私が通信機を使って合図を送るから、そのときにミサイルを発射させて! あと、数が大きいから私の挑発に乗らなかった奴らは遠くからでいいから攻撃して頂戴」
アクセルを思い切り踏む。ここから一気にノンストップでかけ、何千メートルも先にいる敵のところへと殴り込む。
そう息巻いている最中に、目前が急激に光った。
そのあとに、家の方から爆音が聞こえた。
「え……家が……壊れている?」
さっきの光は魔王軍の人間の攻撃だと理解するのに時間はかからなかった。
車に乗りながら、私は全身の力を抜かした。
ウンケル、フォウズとフォウンヌまでもが、腰の力を落とし、その場で膝を抱えている。
家の崩壊とは、ミサイルが撃てなくなったということである。
唯一奴らに勝利できる兵器が、完全に消えてしまった。
もう、勝つ術は、完全に断たれたのだ。
「終わった……」
フォウズがそんなことを呟く。
「まだです! 俺さんに教わった魔王軍の弱点である、魔力と五つのタンクの破壊がまだあります。可能性は薄いですが、みんなでそれをやれれば――」
震える足を必死に起き上がらせ、ウンケルは魔力を可視化できるサングラスと、超高性能のハンドガンを取り出す。
五キロ先の標的も打ち抜くこのハンドガンなら、魔王軍の一人や二人は打ち抜けるだろう。
銃声が目前で五回ほどなる。しかし、彼女の顔は、笑顔ではなく青色に染まっていた。
「……タンクの場所と、魔力のリズムが変わっています……練習していたものと全く違っています」
「え!?」
右肩、左肩、右足、左足、そして腹部。魔王軍の模型に配置されていた、魔力を補充するタンクはそれらの場所にあった。
それは今まで変っていなかったはずだが、いったいどうして今日に限って変わったのだろう。
「まさか……」
私はふと思いなおす。
レドワールと名乗る女は、あの時おかしなことを言っていた。
『俺井崎竜二郎さん私はあなたを地球に帰す方法をしっています』
どうして彼女が彼の名を知っているのか?
それは、ずっと彼を監視していたからじゃないのか?
だとしたら、真っ先に家を破壊したことと、魔力のリズムとタンクの場所を変えた理由にもなる。
奴らは圧倒的に有利な状況にも関わらず、私達のことを警戒していたのだ。
完璧な対策。私達を殺す準備は十全にできている。
「……もう、終わりね……」
最初から無理だとは思っていたが、それでも奇跡が起こると思っていた。
でも、その拙い望みももうない。
抵抗する気力もない。
ただ、死を待つのみだった。




