23.最後の下剋上
「――と、いうことなの。もう私達は終わりだわ」
これまでの戦闘の流れを説明された。どうやら切り札であった家のミサイルと、魔力を封じる術が全て通じないらしい。
確かに、状況は劣勢にもほどがあるだろという様だ。
こちらの作戦が全ておじゃんとなったのだ。打つ手はない。
「取りあえず、フォウズとフォウンヌの場所を教えてくれ。あいつらの傷を治してくる」
「二人なら、ここから二キロほど離れた街にいるはずです……街といっても、その原型はもうありませんが」
「マジかよ……街全部ぶっ壊したの?」
有り得ない力加減だ。こいつら、マジで容赦ないんだな。
「だから、俺さんも気を付けていってください。攻撃を喰らわなくても、歩いてるだけで瓦礫に埋もれてしまう場合もあるんで」
ウンケルの配慮をありがたく受け取り、俺は明朗に笑う。
「ありがとよ。でも、その心配はいらねえよ。こんな魔法が追加されてたから」
【魔法】の欄を覗くと、移動魔法の進化版である瞬間転移という魔法が記されていた。
これはあくまで推測だが、先刻、魔王軍のアジトでレドワールが見せた転移魔法が、瞬間転移の類だったのだろう。
その魔法を見たコントローラーが自動的にコピーしたんだ。
「よし。いくぞ。フォウズとフォウンヌのところへ!」
光が俺を覆い、目的地にまで移動させていった。
「……なんだよここ」
倒壊した建物が視界いっぱいに広がり、下を向けば瓦礫や破片がいくつも散らばっていた。
まともな足場がない。ほんの少しでバランスを崩せば、瓦礫に頭を打ち付け、大怪我をしてしまいそうだ。
「お、重くないかこれは? 誰か……上にいんのか!?」
瓦礫まみれの地面から野太い声が聞こえる。それに、なんだか足場が柔らかい。
「ああ、もしかして、フォウンヌ?」
「フォウズだ! え? お前もしかして竜二郎!?」
そうだぞと答えると、フォウズは勢いよく立ち上がり、俺を吹き飛ばした。その際にいくつかの瓦礫が俺の体に直撃する。
「テメエ、どの面下げてここにきやがった!」
胸倉を思い切り掴まれる。当たり前だが、彼はまだ怒っているようだった。
「ああ……本当にどの面すればいいかわからない。許されることじゃない。でも」
そこでいったん言葉を区切り、フォウズの手を思い切りはねのける。
負けじと瞳に力を込め、俺はフォウズに思いのたけをぶつける。
「俺がいれば、この勝負は勝てるんだ! そのための秘策はある。殴るのはその後にしろ。今は黙って俺に従え!」
廃人ゲーマーが出せるギリギリの剣幕で、フォウズに叫んだ。顔の筋肉が痛い。それに胸も心なしかドキドキしている。
人に命令するなんて、こんなにも勇気のいることだったのか。
「……本当だな?」
俺以上におっかない顔をしたフォウンズが再度問う。俺は当然首肯した。
「……わかった。フォウンヌを今から叩き起こす。もう一度五人で戦うぞ」
フォウズが手を差し伸べてきた。色々思うことはあるかもしれないが、今は俺に協力してくれるらしい。
「ああ。勝とうぜ!」
力いっぱい手を握る。
勝利の方程式は、もう見えている。
「で、竜ちゃん。策ってのはなによ?」
瓦礫で小さな防波堤を作り、俺達はどこか知らない街の隅っこでちぢこまっていた。
魔王軍の気配はない。たぶん、ここはもう既に破壊した場所だと割り切って、他のところで俺達を探しているのかもしれない。
「ああ。あいつらを一層する方法が、たった一つだけあるんだ」
「え? 本当に?」
俺の発言に、一同は目を見開いた。この苦戦中に、そんな逆転劇があるのなら、なにがなんでも欲しいだろう。
この作戦は実に見事な案だと自画自賛したくなる。
俺は快活に笑って見せたあと、自信満々に言ってやった。
「魔王軍のアジトに直接行くんだよ」
直後、みんなは俺の顔面を全力で殴り掛かった。ウンケルまでもが涙目になって俺の顔面にこぶしを入れてきている。
違うよ。ふざけてなんかねえよ。真面目な案だっての。
「で、ちゃんとした案は?」
蛇のような鋭い眼でアイルンは俺を睨んだ。今度は拳だけじゃなく、細剣までも取り出しでいる。やめろよ。脅しだろうけど怖いよ!
「バカ、ちゃんと考えてみろ。俺達に武器はどれだけある?」
「そんなもの、ほとんどゼロに決まっているじゃない。だから?」
「まあ、落ち着け。いいか? 俺はさっきまで魔王軍のところにいた。そこにあった武器は全部異常な武器で、その気になればこの国ごと消し去れそうなものまであった」
国ごと。という部分を強調する。四人の顔はだんだん険しくなっていった。
「あいつらがその武器を使わないで、ちまちま攻撃している理由は、たぶん俺達がたった四人しかいないからだと思う。四人しかいない虫けら相手に大きな武器を使う必要はない。あのおっかねえ武器は、多分次に襲う国用のものだろう」
「そうなのか。だったらチャンスじゃねえか! 竜二郎、お前はあの不思議な力で沢山武器を作れるんだろ? そいつで先に攻撃すれば……」
「それもダメだ」
フォウンズにそう答え、理由を付け加える。
「俺はその気になれば七千個の武器を復元させることができるが、五千人を同時に蹴散らすほどの武器は持っていないし、一国を消し去るレベルの大きな攻撃を封じる盾もない。俺がそこそこ強い武器を復元すれば、そりゃ敵の八割は消せるかもしれない。でも、そのせいで焦った魔王軍が切り札の武器を投入したらどうする? 俺達に防げる人間はいない。あの武器を使われたら終わりなんだよ。できるだけあいつらが有利なままで戦闘を続けていた方がいい」
あいつらが大きな攻撃をしてこない訳は、俺達にそれだけの攻撃をする価値がないと油断しているからだ。
しかし、俺等があいつらの予想を上回る攻撃をしたら話は別だ。
敗北を恐れ、きっと躊躇なく切り札の武器を仕掛けるだろう。
そして、俺等にはその必殺の技をどうにかできる術はない。
あいつらに油断させたまま、寝首を掻くしかない。
「そうか……それと魔王軍に乗り込むって何の関係があるんだ?」
フォウンヌの質問に、俺は答えた。
「俺達にとって不安要素でしかないその大きな武器を手中に収めるためだよ。今魔王軍は俺達を潰すために外へ散らばっていて、アジトは手薄だった。ということは、やることは一つ。アジ潜入して、あいつらが隠している武器を全て見ればいい」
「見るだけでいいんですか?」
首を傾げるウンケルに、俺は得意げに答えた。
「見るだけどころか、お前らはそこで立っているだけでいい。あとは俺がこのコントローラーでお前らを操作し、より安全なルートでそこらじゅうに置かれている武器を見てやるさ。操っている時だけみんなの視界は俺と共有できる。一通り武器を見れば後は簡単さ。俺がそれを復元し、魔王軍よりも先に攻撃すればいい」
実はさっきもアジトでいくつか武器を見てきたのだが、母親と、こいつらのことを考えていてじっくり見ていなかった。復元させるためには武器を鮮明に覚えていないといけない。
俺の案を聞いた四人は、口をポカンと開けていた。なんかマズったか?
「凄いです! そこまで考えていたなんて」
ウンケルが手放しで絶賛してくれた。嬉しい。
「まあ……ぶっ飛んでいるけどそれしかなさそうね」
溜息を吐きながら、アイルンも賛同してくれた。これで主導権は完全にもらった。
「しょうがねえ。ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやる」
「そうだな」
フォウズとフォウンヌも了承してくれた。
「ありがとう。お前ら。じゃあ、早速行くぞ! アジトへ」
俺は再び瞬間転移を使用する。さっきよりも大きな光が五人を包み込んだ。
俺等は最後の戦いへ挑む




