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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
16章

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渇水の最中に

やる事のない2週間を、ぶちぶちと愚痴りながら過ごしておりました。

 鷹が嫌がる物には、共通項がある一方で、鷹の個性によって()()()()違いがあります。飛梟(とび)は、どういう訳か屋内に現れるゴキブリが嫌いで、海が近い所為(せい)で屋内に侵入してくる事のあるフナムシにも同様の反応を示します。夜中にカサコソ壁や床を歩いている、あの感じがどうにも許容出来ないらしいのです。いえ、中でも最悪な嫌がり方をしたのはムカデでした。しょうがないから、夜中に明かりを灯し、鷹に近付いて行き、嫌がる足元の()()を踏み潰し、余所に移した後で、移動しまくったボーパーチを戻し、再び明かりを落としたら、とにかく近くで鷹と一緒になってジッと壁を眺めていると、落ち付いたのか、自分から(ほこ)に戻って(くつろ)ぎ始めました。相も変わらず鷹の来院はあるものの、フクロウたちは時代の向こうに飛んでいったなと思う今日この頃、今日も鷹の仕事をしておりました。


 昔の話ですが、病院の入院室には出前(でまえ)が取れました。あの店屋物(てんやもの)の出前です。私が入院した時は既にそうでもなかったのですが、病院の食事というのは不味い物と相場が決まっていて、寿司だの親子丼だの()()蕎麦を「○○号室の○○まで頼む」とやっていた人たちが居たのです。今見たら驚きの光景になるのでしょうか、携帯電話もスマホもなかった時代に、病院の中にあった公衆電話から患者が自分で注文していたのです。やはり、今考えたら無駄な努力ですが、そういう人たちからして「寿司は()()()()()()()()()で」とかですね、いえ、当時は()()()()入院した祖父の見舞いだったんですから当然ですが、何か自分の病気を気にして調整を行った食べ物を口にしていたのを覚えております。もちろん、今の病院の食事はそこまで不味くはないですし、感染症対策の話がありますから出前なんか取れません。時代が違ったんですね。


 私の場合、食事の話は(もっぱ)ら糖尿病関連です。入院前までは数値的に大した事がなかった血糖値が、ステロイドの使用後に一気に増高を始めまして、インスリンの補充を必要とするレベルにまで到達します。これも、ステロイドの減薬が進むにつれて解消して行くのですが、血糖値を下げる努力自体は継続を余儀なくされました。雑にしていると、色々と他にも影響が現れる事を体験したからです。

 ひとつは体重管理です。いわゆるBMIから算出される「普通体重」の範囲内に収めておくと、あまり血糖値が上がらなくなります。これが「肥満」に片足を突っ込む様になると、まるでコントロールを受け付けなくなります。世の中にはもっと酷い人たちがいるみたいですが、私からして、そんな感じです。「適正体重」というのがありますが、これは死ぬ思いをしても辿り着けるか分からないくらい痩せないと辿り着けない体重になるので、「死にそう」な体重ではないのですが、ちょっと無理だと思います。私の場合、退院直後の体重が、この適正体重でした。すぐに元の体重まで戻ってしまいましたよ?いいえ、どうやら処方されている免疫抑制剤の量と体重には、()()()()()相関があるらしく、普通体重の範囲に留まっていないと、体調がおかしく成る事を知りました。つまり、血中濃度の監視も行っているので致命的な状態ではないらしいのですが、相対的に薬が()()成るのです。

 もうひとつは、糖質制限食ですね。血糖値が上がりやすかったり、しつこく高値が続く食べ物の摂り方に気を付けます。分かり易いのがチョコレートです。この食べ物は長い間血糖値が高い状態が続きます。私の場合、昼以降に食べると、翌朝の一番に最も低値を示すはずの食前血糖値が上昇するくらいです。実は納豆とか、カボチャやサツマイモでも、昼以降だとそういう事があります。夕飯に食べていいのは野菜と肉や魚のみ。なんやかやで「ひとくちだけ」とか言って食べる夜の麺類は、体重を増やすし、そちらの影響だと思うのですが血糖値も上げます。糖尿病の場合、神経障害によるものであるとされておりますが、「手足にしびれや痛み」が生じるのです。ええ、皮膚筋炎でもそういう症状がありますから、体感からは区別が出来ません。「血糖値下げるべし」、そこが結論に成るのです。特にチョコレートを避けて、カフェインも避けて、糖質を制限して、食べる量と時間に気を付けて、日々(ひび)生活します。毎日の事なので、結構辛く感じる事があります。単純な話、火を通してある/通してないだけの違いしかない、野菜炒めやお刺身みたいな物を食べ、水を飲み続ける食生活が主に成るからです。

――――――こういう努力を、意外なところから破壊してしまった事があります。


 特に犬の診療をしていると、飼い主の方から「軟膏を出してくれないか」と言われる事があります。この場合の軟膏というのはステロイド軟膏です。こういう処方は、人の皮膚科を受診すると普通に行われています。そういう薬を処方された経験のある飼い主の方が、自分の犬にもそういう薬を出してもらいたくて、聞いてくるというのが背景です。ところが、この「犬の皮膚病にステロイド軟膏」という治療は、獣医師の間でも意見がありまして、「絶対に使うな」と言う獣医師が居る程度に、「犬」という動物だと駄目なことがあります。種差と言います。つまり、本来なら局所にとどまるので比較的安全な使用になるはずの軟膏ですが、犬だと人体用の軟膏を「塗っただけで」強い全身性の副作用にみまわれる患者が現れるからです。

 こういう現象は、実は人間の患者でも時々ある話で、私の場合、以前に同じ軟膏を処方された時は効果も微妙だった代わりに何ともなかったのですが、長い間ステロイドを飲み続けた影響なのでしょうか、半年ほどしてから治療の補助としてステロイド軟膏を使用した途端、血糖値が上がり始めまして、回復に時間を要する事態に成りました。なんと、使用4日目の時点で血糖値が上がってしまい、使用を中断したのですが、それをきっかけに連日血糖値が上がり続けてしまい、結局内服していたステロイドまで減らして対応する事になります。もちろん、免疫抑制は膠原病管理の(かなめ)ですから、全部止める訳にも行かず、なまじ減らせば病気の再燃を招く事態にもなりかねません。むしろ、問題があったから補助としてステロイド軟膏が処方された経緯があったのですから、本末転倒です。私を診察していた医師が、血液検査の結果を見て陰鬱な顔をして入院の話を始める訳です。しかし、血糖値が下がらないでいた間中、手足の痛みをまるで感じること無く過ごせていたのも事実です。結局、たった3日軟膏を塗っただけで、私はその後11日間微妙な高血糖を体験しました。もちろん、こんな事を続けていたらどうか成ってしまいますから、その後膏薬の使用は控える様にしました。つまり、連続使用をしなくなりました。いえ、同じ医師が診察を続けていたら違うのですが、異動で医師が変わってしまうのです。私の方で薬の種類や使用方法を覚えていて、適切に対応するしかありません。


 食べ物については味覚異常の話があるんですが、あまりにも不満たらたらな内容で、一度記事を書いているんですが、どもならんので削除してしまいました。なにしろ、薬が続く限り()()()のです。努力はしておりますが、きっちりさっぱり「あきらめろ」「慣れろ」「なんとかしろ」とするしかありません。以前の味覚で醤油ラーメンを味わう日が来たら、死期が近いくらいのつもりでおります。

挿絵(By みてみん)

山藤。ゴールデンウィークの、少し前くらいに見かけます。

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