波乱のあとでⅤ
お父様とお母様はお互いに顔を見合わせました。
「先ずは怪我を治すことだな。それから、事件が解決すれば邸に帰ってこれるとは思うが」
苦渋の決断でもするかのような渋い表情で告げるお父様。
レイ様とローズ様がおっしゃったことですものね。
「それにまた狙われたりしたらと思うと気が気ではないし、あなたの身の安全を思えば王城の方が安心だわ。事件の真相はわかっていないのでしょう? だったら余計に王妃陛下のおっしゃる通りにした方がいいわ」
お父様もうんうんと頷いています。
「そうですよね」
「どうしたの? レイニー殿下の宮では何か問題でもあるの?」
「いえ、そういうわけではないのですが、我が家の方が落ち着くかなと思って」
問題というか、レイ様と同じ屋根の下だと思うとドキドキして落ち着かなくて、どう過ごせばいいのかわからないわ。
「気持ちはわからないでもないけれど、王妃殿下のお言葉でもあるし、拒否することは難しいわね。早く帰ったとして、もしもあなたに何かあったとしたら、取り返しがつかないもの。それはフローラもよく考えて」
「それは、重々わかっています。ただ、ちょっと聞いただけです。ごめんなさい」
懇々と諭されるお母様を前に私は小さくなっていきました。なんだか小さな子が両親にわがままを言っているようだわ。
「この際だから聞いてみてもいいかしら?」
お母様の笑みが深くなりました。
「はい」
「フローラ、レイニー殿下へのあなたの気持ちを聞かせてほしいわ」
「え?」
思いもかけなかった質問に面食らってしまいました。しばし、お母様を見つめてお父様を見ると私と同様に驚いた顔をしています。私と目が合ったお父様はコホンと咳ばらいをして目を逸らしてしまいました。
「大事な事よ。あなたの返事次第でわたくしたちもいろいろ考えるわ。だから教えてほしいの」
穏やかな表情の中にも真剣な気持ちが伝わってきて、隠せるものではないと悟りました。王族との結婚は否が応でも周りを巻き込んでしまう。プロポーズをされた時に、すぐに相談すればよかったのかもしれないわ。
今頃、後悔してもだけれど。
先ほど目を逸らしたお父様も今は真面目な顔で私の事を見つめていました。
両親に恋心を告白するのはとても恥ずかしいけれど、避けては通れない。胸の鼓動が早くなって緊張してきたわ。
両親が注目する中、私は何度か呼吸を繰り返して息を整えました。
「私はレイニー殿下をお慕いしています」
意を決して一気に言うと火照った顔を隠すように目を伏せました。
「お慕いしている。それがフローラの気持ちなのね」
私は下を向いたままをこくりと頷きました。
「それで、レイニー殿下とはどのような感じになっているのかしら?」
「それは……」
さらに突っ込んだ問いに言葉が濁ります。お母様はすました顔で紅茶を飲んでいました。お父様は黙して語らず。私達のやり取りを見守っているようです。どちらにしても二人の視線が少々痛いわ。
かといって、隠すわけにはいかず、今までの経緯を話しました。
「そう。フローラの気持ちはわかったわ。あなたなりに考えた結論だったのね。それで、これからどうするの? どうしたいの?」
これから、どうしたいのか。
問われて言葉に詰まりました。
「これがいい機会なのかもしれないわね。フローラ、もう一度しっかりと自分の気持ちに向きあったらいいと思うわ。わたくしたちはあなたの決断を支持するわ。あまり悩み過ぎずに素直になったらいいと思うわよ」
私の気持ちを慮ってくれたのか、深く追求せずにいてくれました。
「はい」
両親の温かさに胸にくるものがありましたが、表に出さないようになんとか我慢しました。
このあとはたわいもない話をして時間を過ごしました。
♢♢♢♢♢♢
「ローラ、疲れたんじゃない?」
両親が帰った後、しばらく放心状態だったからでしょうか。少し気が抜けてしまっていました。
「大丈夫ですよ」
心配させまいと微笑んでみたのですが
「うーん。顔色があまりよくないよ。しばらくの間だけでも横になった方がいい」
そういって、私を抱きかかえてベッドへと運んでくれました。布団の中におさまると体が温まって心地よくなってきました。
ベッドに腰かけて私を見つめるレイ様の情愛のこもった瞳に胸がいっぱいになります。
二人だけの部屋。
レイ様は私の髪を梳いて頬にそっと手を触れました。
「ゆっくりお休み」
離れそうになる手に思わず自分の手を重ねました。レイ様の触れた手がピクッと震えて顔も微かに赤みがさしたように感じました。
「レイ様」
絡む視線に熱を感じて早くなる鼓動。二人の息遣いだけが聞こえる部屋。
「ローラ。怪我が治ったら、もう一度だけチャンスをくれないか?」
チャンス?
「あの日のやり直しをしたいんだ。その時にローラの気持ちを改めて聞かせてほしい」
「……はい」
レイ様の申し出に動揺した気持ちを何とか押さえ込んで返事をしましたが、心の中は動揺しまくりです。でも、よく考えると私もチャンスをもらったのかもしれません。
素直に正直に気持ちを伝えるチャンスを。
「ローラ、お休み」
レイ様の手が離れていくのが名残惜しくて、ずっと離してほしくなかったけれど。
今頃、睡魔が襲ってきたよう。瞼がとろんとしてきました。気丈にしていたけれど疲れていたのかもしれません。
最後に頭を撫でたレイ様に微笑みを返して、ぼんやりとした視界で背中を見送りました。それから、私は深い眠りへと落ちていきました。




