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波乱のあとでⅣ

 アンジェラ様が退出されると室内が静かになりました。

 ベッドに体を起

こしてクッションに背を預けている格好。

 何がどうということは無いのですが、レイ様と二人きりというのも気恥ずかしくて言葉少なになってしまい、どこに視線を持っていけばいいのか迷ってしまいます。


 部屋着も普段のものよりも薄手ですし、お化粧もほとんどしていなくてすっぴんに近い状態。痛み止めが効いてきたのか痛みもだいぶ薄れてきたよう。


「義姉上も意外と熱血漢だったんだな。あんなに怒っているのは初めて見たよ」


「そうなのですね。確かに、嫋やかなアンジェラにあんな激しい一面がおありだったとは思いませんでした」


 数時間前にレイ様の事で励ましてもらったばかり。いつも朗らかで優しくて、心細やかに気遣ってくださる姿からは想像もできません。


「義姉上の気持ちもわかるよ。今回の事件は由々しき事態。俺も徹底的に調査をして欲しいと思っているから、義姉上が積極的になってくれるのは有難い」


「レイ様」


「ローラの事は俺が守るからね。だから、ここで何も考えず治療に専念してほしいんだ」


 ベッドに腰かけたレイ様は私の手を取るとまっすぐな眼差しを向けました。真摯でいて情愛のこもった瞳にキュッと胸が切なくなり締めつけられます。


「守って下さるのですか?」


「うん。ローラが許してくれるのなら一生。生涯をかけて」


 それほど意味があって聞き返したわけではなかったのに、返ってきたのは思いもかけなかった重い言葉でした。 

 こんな時にどんな風に答えればいいのか戸惑いながらも、レイ様の気持ちが嬉しくて。今でも私の事が心にあるのだと思えるのが嬉しくて、涙腺にうるっときてしまいました。


「レイ様。ありがとうございます」


 そういうのがやっと。けれども、その先に進まないと始まらない。

 私は何も伝えていないもの。本当の気持ちも何もかも。


「それは、許してもらったって、受け取ってもいいのかな?」


 レイ様の手に力がこもって、より一層包み込まれた両手。温かなレイ様の体温が体の中に染み渡っていくような多幸感に胸がいっぱいになりました。

 今しか、ないかも。今だったら、言えるかも。私の本当の思いをレイ様に。息を整えて一大決心をして口を開きました。


「はい。私はレイ様が……」


 コンコン。


 自分にとって、一世一代の告白をしようと思った矢先に聞こえた扉の音。肝心な言葉は、喉の奥で消えてしまいました。

 甘やかな雰囲気が一転して、顔を見合わせた二人の間になんとも言えない空気が漂います。


「レイニー殿下。フローラ様。王妃陛下がお越しでございます。それから、ブルーバーグ侯爵夫妻もご一緒ですが、いかがなさいますか?」


 二人の時間の終わりを告げるセバスの声に、溜息を一つ小さくついたレイ様はベッドから下りて立ち上がりました。


「わかった。通してくれ」


 レイ様の返事を合図に扉が開いて、ローズ様と後ろに両親の姿が見えました。 


「フローラちゃん。無事でよかったわ」


 私の姿を見たローズ様が安心したように顔を緩ませました。


「ご心配をかけてしまい申し訳ありません」


「何を言っているの。大変な思いをしたのはフローラちゃん、あなたよ。謝る必要はないわ。怪我をしたと聞いているわ。治るまでここでゆっくりと静養なさいね」


「過分なるご配慮をくださりありがとうございます」


 私は頭を下げました。レイ様の元にいることをローズ様からも公認されてしまったわ。


「過分だなんて当たり前の事よ。今回の事件はこちらが責任を持って調査を行うわ。せめて事件が解決するまでは、王家でフローラちゃんを預かるわね。よいかしら? ブルーバーグ侯爵」


「はい。娘を守っていただけること、誠にありがたく存じます。お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします」


 両親は臣下の礼をとるとローズ様は満足そうに微笑みました。両親の了解も取ってしまったのね。これで簡単に帰るとは言えなくなってしまったわ。二、三日内にはと思っていたのだけれど。今回の件が早く解決することを祈るしかありません。


「それでは、わたくしは帰るわ。日を改めてお見舞いにくるわね」


 ローズ様は席を立つと颯爽とドレスを翻して退出されました。分刻みのスケジュールの中、時間を捻出して会いに来て下さったのでしょう。




♢♢♢



「フローラ。大丈夫だったかい?」


 お父様の気づかわし気な声に私は頷きました。


 寝室に設えられたテーブルに着いて話をすることになりました。部屋着の上にガウンを羽織り、椅子まで運んでくれたのはレイ様でした。まともに歩けない状態では仕方ないとは思いましたが、お姫様抱っこされる自分を両親に生暖かく見られるのは想像以上に恥ずかしかった。


 レイ様は家族だけがいいだろうと席を外して下さっています。


「誘拐はされかけましたが、幸いなことに警備隊やレイ様の護衛騎士のおかげで助かりました」


 私は数時間前に自分の身に起きたことを話しました。無事だったからこそ、両親に話ができるのだと今回の幸運を噛みしめながら。


「怖い思いをしたのね。本当に無事でよかったわ」


 表情をこわばらせながら聞いていたお母様が私を抱きしめてくれました。


「誘拐って文字を見た時には寿命が縮んだわ。無事だと知ってどれほど喜んだことか」


 お母様の目に涙が滲んでいました。そして、お父様も涙を浮かべているよう。


「怪我をしたようだけれど、大丈夫? 痛みはない?」


「少しだけ。でも大したことはないので一週間もすれば治ると思います」


「そうなのね。軽傷で済んでよかったわ」


「はい」


 こんな事態に巻き込まれるなんて予想もつかなかったから、顔を見るまでは様子がわからず気をもんでいたでしょう。

 とにかくも無事な姿を見せられてよかったわ。


「豪華なお部屋ね」


 落ち着きを取り戻して紅茶を飲んでいると部屋を見回していたお母様の声がしました。


「客室だと思うのですけど、私には贅沢すぎるお部屋を準備してくださったみたい」


「王妃陛下もおっしゃっていたけれど、しばらく殿下の宮にお世話になるのでしょう?」 


「そうみたいですね。私は出来れば早く邸に帰りたいのですが……」 


 チラッと訴えてみました。 



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