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波乱のあとでⅥ

「ふう」


 痛みも薄れてきたので、部屋の中を歩いてリハビリ中。だいぶ歩けるようになったわ。

 テラスに出ると爽やかな風が吹いて気持ちがいい。新鮮な空気を吸って深呼吸を繰り返していると心の中が洗われていくようです。


 ベンチに座って腰を落ち着けると外の景色を眺めました。


 レイ様の宮に過ごすようになってから数日。少しずつ慣れてきましたが、毎朝レイ様の顔を見ることは不思議な感じで戸惑って照れくさくなってしまうこともしばしば。


 そんな思いがあっても、レイ様に会えることは嬉しくて笑顔になります。

 一緒にいる時間は幸せで手放せなくなってしまいました。


「ローラ」


 テラスに顔を覗かせたレイ様から声がかかり、ゆっくり振り返るとレイ様の穏やかな表情に私も自然と笑顔になります。


「レイ様」


「ディアナが来ているんだ。部屋の中でお茶をしないか?」


「ディアナが?」


 頻繁に見舞いに訪れてくれる彼女。今日も来てくれたのね。怪我で療養すること以外は何もすることがなくて、退屈している私のために話し相手になってくれるディアナ。


 私を抱きかかえる姿勢になったレイ様に


「レイ様。歩けますから」


 あまり過保護にしてもらっては甘え癖がついてしまいます。ただでさえレイ様の腕の中は居心地がいいのですから。


「ディアナも待っているし、こっちの方が早い。それとも俺に抱っこされるのはイヤ?」


 置いてきぼりにされた子犬のようなしょんぼりとした顔で腰をかがめたレイ様と目が合います。


「もう。レイ様、ずるいです」


 そんな顔をされると拒否できないわ。


「まだ、完治していないのだから当然のことだよ。さあ、行こう」


 抵抗してみたけれどそういわれると何も言えなくて、結局、レイ様に体を預けて抱きかかえられた私。

 お姫様抱っこで運ばれてきた私を見たディアナ。


「あいかわらず仲がいいわね」


 からかうような声と生暖かくニヨニヨした表情で迎えてくれたディアナを前にして、顔が真っ赤になってしまったのはいうまでもありません。




♢♢♢♢♢♢



「腫れもなく痛みもないようですね」


 足首の様子を診た先生にはいと返事をしました。


「これからは普通の日常生活に戻っても大丈夫ですよ」


 先生のお墨付きをもらって心が軽くなりました。

 痛めた足首に負荷をかけないように少しずつ歩行練習もしていたけれど、ようやくいつも通りに生活できるのね。よかったわ。


「でも、治ったからと言って無茶なことは禁物ですよ。お転婆なことはなさらないように」


 よっぽど浮かれた顔をしていたのかしら。

 釘をさすことを忘れない先生。

 お転婆な事って、もしかして、木登りの事かしら? 

 先生に初めて会った日のことを思い出してしまったわ。


「もう。先生、子供ではないのですから、ちゃんとわかっていますよ」


 拗ねてほっぺを膨らませる私に


「それは、失礼いたしました」


 ぺこりと頭を下げる先生。顔を見合わせた途端に室内に響く笑い声。


 お茶の準備をしていたエルザ達の顔もにこやかです。

 久しぶりに皆が明るくなったようで、私の心も晴れやかになっていきました。


 先生とお茶を飲みながら寛いでいると


「フローラ様にお礼を言わなければいけませんね」


「お礼ですか?」


 何のことかわからずに首を傾げました。


「はい。サムシューズの事です。売り出して頂いたおかげでたくさんの収入を得ることができました」


「それは、先生のアイディアの賜物ですわ。本当に役立つ商品でしたから、私は少しばかり協力しただけです」


 サムシューズはすごい売れ行きで生産が追いつかないほど。従業員も増やして増産しているところです。


「いえ、いえ。フローラ様が見出して下さったからこそです。そのおかげで治療院開業の夢に一歩近づきました」


「治療院ですか?」


「はい。二十四時間体制の治療院を作ることが私の長年の夢だったのです」

 

「二十四時間体制とは、素晴らしい夢ですね」


「夜中に診察をしてくれる医者は少ないですから、これをシステムとして組み込めば患者さんも医者を探して駆け込む必要はなくなるでしょう。病気や怪我は時間を選びませんからね」


 確かにそうだわ。夜間に診てくれる医者は限られているものね。いつでも診察ができる治療院があればみんな安心だわ。そして、それを実行に移す先生も素晴らしい。


「実はそれについてはブルーバーグ侯爵様が協力して下さっているのです。それに賛同してくれる出資者も募って下さっています」


「まあ。お父様が?」


 ビックリして目を丸くしました。お父様が協力者とは。


「サムシューズはフローラ様と侯爵夫人。治療院は侯爵様。本当にお世話になりっぱなしで、ブルーバーグ侯爵家に足を向けて寝れません。感謝してもしきれないくらいです」


 先生は深々と頭を下げました。


「それは先生のお人柄だと思います。両親も先生だからこそ協力しているのでしょう。私もですけれど。先生の夢の実現に微力ながらでもお力になれたのなら、こんな嬉しいことはありません」


 頭を下げたままの先生の表情はわかりませんが、肩が震えていました。


「これからも先生のお役に立てるように協力しますから、なんでもおっしゃってくださいね」


「なんて、もったいないお言葉を……」


 顔を上げた先生の目には涙が光っていました。




♢♢♢♢♢ 



 先生の診察とお茶の時間が終わってしばらくたった頃、レイ様が姿を見せました。

 執務の合間に顔を見せてくれるレイ様ですが、ちょっとそわそわしていらっしゃるよう。


「ローラ。どうだった?」


 空いていたソファに座ったレイ様は診断結果が気になるのでしょう。


「腫れもなく痛みもありませんので、日常生活に戻って大丈夫だと言われました」


「そうか、よかった」


 安堵の息をついて微笑みを浮かべたレイ様に私の顔も綻びます。


「少し散歩しない?」


「はい。時間は大丈夫ですか?」


「気分転換。それにローラ不足だし、ねっ」


 そういって片目を瞑ってみせるレイ様にドキッとしました。


「それに……」


 意味深に口を閉ざしたレイ様にさらに心臓の鼓動が速まります。

 先にある出来事を思うと躊躇する気持ちも生まれましたが、差し出された手を取り立ち上がると庭園へと足を運びました。 

 

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