地底人一族
ユリサは語り始めた。それは、俺がイバトとクレアと出会う前まで遡った。俺は他の冒険者達と共に、砦に巣食った魔物退治に参加していた。
ユリサはその冒険者達の働き振りを報告で受け選別を行った。その選別で俺が選ばれたらしい。
俺が拠点とする街には、ユリサの仲間達が住民に紛れ俺を監視していたと言う。なる程。イバトとクレアの名を知っていた訳だ。
そしてユリサの護衛の仕事は、ユリサ自身が俺達の実戦を見る為に仕組んだ事だと言う。そうか。俺達が護衛の仕事を選ぶ事も予測済みだったのか。
「エリクさん。失礼ながら貴方は突出した能力はありません。ですが、貴方は冷静に戦況を判断出来る。それが私達の求めていた人材でした」
ユリサは俺を見てそう言った。ユリサが仕える国の生物学者が、ある卵を手に入れた。その卵は出処が不明で、人の手から手に流れて来た代物だった。
学者は古い文献と照らし合わせ、その卵の殻の模様が聖竜の卵に似ていると分析した。学者の報告を受けた上層部は判断に迷った。
聖竜は古い言い伝えに世界を滅ぼす力を持つと言われていた。そんな危険な生物に関わる事を危惧したのだろう。
「ですが、国の上層部は関わるを選択しました」
ユリサは続ける。立候補などしていないが、俺が聖竜の卵の運び屋に選ばれた。ユリサを護衛して到着したあの街で引き受けたあの仕事。
貴重品移送の仕事もユリサは俺が選ぶと踏んでいたらしい。上層部が望んだ事は卵の中身を知る事だった。
何かトラブルが発生して卵が割れれば目的を達成出来る。例えそれで危険な事態が発生しても、犠牲になるのはただの冒険者だ。
ユリサは街を徘徊していた食い詰め者を見繕って耳打ちした。俺達が食料と金をたんまり持っていると。そそのかされたのはあのクロシード達だった。
道化にされたクロシード達の暴走によって、上層部の目論見通り卵は割れた。そしてその殻の中からは小竜が誕生した。
「ひ、酷いなそれ!それって俺達を生贄にしたようなモンじゃん!」
「そ、そうよ!あの時は大変だったんだから!」
イバトとクレアがユリサに抗議する。
「エリクさん。イバトさん。クレアさん。任務とは言え、あなた方に生贄の様な役目を押し付けてしまいました。上層部に代わってお詫び致します」
ユリサは沈痛な表情で頭を下げる。ともかくとして小竜は誕生した。上層部の目的は果たされたのか?
「小竜は成竜になるまで数百年かかると言われています。上層部の目的は小竜ではありません。小竜の卵を生んだ親です」
ユリサの顔付きが厳しい物に変化して行く。小竜の誕生により、聖竜の存在が現実味を帯びてきた。
「数ヵ月前より、この国で大蛇を連れた魔族の目撃情報が軍に寄せられるようになりました」
俺はユリサの言葉とほぼ同時にコルカを見た。コルカは沈黙して口を開かない。上層部はある仮説を立てた。
もし聖竜がこの国で卵を生んだとしたら。聖竜は国内に潜んでいる可能性が高い。そこで、各地で畑や食料の盗難事件をしらみ潰しに調査をした。
俺達が畑荒らしの仕事を請け負い、その監視をユリサがしていたらしい。
「あのフードを被った者達は、恐らく地底人一族の者です」
ユリサは更に表情が険しくなって来た。地底人一族。それは、地の底に暮らす民の事だった。




