魔王軍宰相ギャン・ウォーン
すげえ、たった一日であの距離を走破した。行きがざっくり二日半ぐらいだったのに、今回魔力をふんだんに使ったおかげで半分以上に短縮できた。にしても、この城は何も変わんねえな。
てっきり魔王さんに備えて野戦の一つでも仕掛けてくるんじゃないかなと思ってたけど、マジで何もなかった。魔王さんの言ってたハッキリと決着をってこのことか。
やり方はともかく、ここで騙し討ちとかじゃなく魔王さんを真正面から打ち負かせば、少なくとも他者から見れば人間に与しようとする軟弱な王に対して見事革命が成し遂げられた、なんて構図に見えなくもない。無理やり感は凄すぎるが。
はてさてどんな方法で来るのか、これで本当に数を活かしてくるだけだったら拍子抜けだけど。俺の魔法は遠距離はともかく中距離での撃ちあいならばわりかし強い、物理での攻撃はコスパも良いし雑兵が百人いようがそう簡単には負けない自信がある。
ただ魔力量ぶっ飛んでる魔王さんに対応するために、って考えると正直予想はできるよなあ。魔力そのものを直接受け渡すのは師匠でも難しいらしいが、一人に魔力を集中させるのは別に大して難しいことではない。
魔力を貯める魔道具なんて珍しくもないし、そこから魔力を抜き取る魔法は研究すれば十分可能らしい。一々手間はかかるし戦闘中に補給し続けられるものではないが、事前に準備はしているだろうし魔力の蓄えは十二分にあるだろう。
ちなみにこれは完全に余談だが、その魔力を貯める魔道具ってのは質によって速度に差はあるけど魔力は徐々に抜けていく。当然それもわりとコストをかけなきゃ用意できないし、今回みたいに緊急用として多少備えている程度が基本だ。
城の中も罠とかもないし、最初に来た時とほぼ変わってない。王の間からも感じる大きな気配は一つだけ、扉越しだからハッキリはしないけどそれでも五人いるか否か程度でしょ。
「お待ちしておりましたよ魔王様、それと……。お前がジオの言っていた人間か」
「どうも初めまして。あ、俺の事は人間と認識しなくて結構ですんで。種族なんちゃって人間ってレベルなんで、別に人間だけの味方ってわけでもないですし」
「ギャン爺、人間を恨んでるのは知ってるし気持ちは分かるけど、これは全部魔族のためなの!お願い、大人しく引いて。こんな事をしても大して意味が無いことは分かってるでしょ」
こいつら、俺の自己紹介を当たり前のように無視しやがった。いやまあ少なくともこの状況において、俺の立場に関してはどっちつかずなら反応しなくて良いっていう気持ちは分かるけどさ?流石に何も反応されないと寂しいっていうかね?わかるでしょ?
「意味がないことはありませんよ、確かに我々の未来はないでしょうが人間たちに我々の恐怖を思い知らせることはできる。私に賛同してくれた総勢153人の魔力を私の知る最高威力の術式を使い人間どもに解き放つ。貴方以上の魔力を攻撃に全て振れば人間どもに大きな傷跡を残すことができるでしょう、我々が勝つための手段として最良の方法は天性の膨大な魔力に全てを任せた攻撃だったのですよ」
「そんなの、それはもう戦いですらない。ただの破壊だ。仮にそれで人間を再起不能にできたとしてもそんなの勝利なんて呼べない。私たちは平穏に暮らすための豊富な土地を求めて戦っているのにそんなことをしたら周囲の土地にも深刻なダメージが出ちゃうし、家畜や畑なんかだって残らない。それに人間との関係も二度と修復不可能なまでに溝ができる、平穏なんて夢のまた夢になっちゃうよ」
「フッ、それでいいのです。もう既に私にとっては魔族の平穏などどうでもいいのですよ。ただより多くの人間を殺せるのならばそれでいい」
あ”?
「先代の魔王様よりも更に前、私は人間の妻を娶りました。間に子も生まれ、戦争を避けとても幸せな日々だった。ですがこともあろうに彼女と同じ種族であるはずなのに、私と共に生活していたことを知った他の人間どもは彼女と我が子を拷問し、挙句の果てに殺した。私が特に彼らに害を与えたわけでもない、寧ろ彼女を通じて何度も手助けをしていたというのに。ただ魔族と関係をもっていたというだけで大した理由もなく、殺されたのですよ」
「だから人間が許せねー、同族よりも恨み優先だーって?くっだらねー」
おっと、つい本音が。いくら俺が空気が読める善人だからってこれは許せないねうん、生命至上主義者としてあり得ないね。くだらないすぎてつい口を出しちゃったよ、仮にやる理由が魔王さん以上にもの考えてのものとか、舞台装置的な役割に徹してのものだったんなら身を引くことも考慮の内だったんだが、全然そんなことなかった。
いやその人間は確かに酷いなって思うよ?想像以上に人間ろくでなしでびっくりしちゃった。レイ君達ですらまっとうに見えるほどに固定観念に支配された脳みそと慈悲とかそういうのが欠如した半分狂人だと思うし、俺じゃなかったら多分その人たち殺してると思う。
だからといってその件になんの関係もない人を殺すってのは到底容認できない。そんな頭のおかしい行いを許すわけにはいかない。
「恨みに任せて罪のない人も虐殺しようってやってることその人たちと何が違うのよ?子供の頃に自分がやられて嫌なことは人にやっちゃダメだって習わなかったの?しかもあんたが若い頃って何年前よ、人間ならもう五世代以上は変わってるでしょ。それなのに当時の人間の罪を免罪符にしているつもりならマジで滑稽だからやめなさいお爺さん、寿命を縮めることになるよ」
「ハッ、人間風情が分かったような口を利く。私とて、そんな矛盾している事などとっくに理解しているさ。それでもなお我らは恨みを忘れることはできないのだよ。我らが生きる時間は人間よりも遥かに長い、死んで忘れることなんてできないのだよ」
「いや人間でも頑張って恨みを飲み込んで前を向く人なんていくらでもいるから、自分ができないことを種族のせいにして開き直んな。もーやだこういう偏屈ジジイって、俺はこういう時に暴力で言うこと聞かせるの賛成派だから覚悟しろよ?」
想像以上につまらない理由で戦うことになって、一ミリも乗り気がしないがこれがこの星でのラストバトルだ多分。命属性とか使って一撃で殴り倒したいが、我慢して約束を守って規律正しくボコすとしようか。
*************
「『大地の矛』」
「『氷器創成 籠手』」
氷器創成で籠手を作り隆起し始めた足元を思いっきりぶん殴る、隆起自体は止まらないがその先端は粉々になっているのでただ俺を跳ね上げるだけに収まる。いきなり即死っていう展開は避けられたが、まだ向こうのターンは続いている。このまま着地するまで重力に任せてぼんやりしていたら一発デカイので撃ち抜かれてはい終わりだな。かといって俺はまだ『空足』は使えないし、空中では踏みしめる足場もないから身動きがとれない。せいぜい体を回して刀を振るぐらいだが、この間合いで振ってもどうしようもならない。ただそれは俺が魔法を使えなかったらの話だ。
さてどうするか、衝撃や糸を使えば空中移動なんて簡単だけど、まだ別にピンチでもないし無属性魔法を使うのはなあー。バレなきゃいいだろうけど、このタイミングではどう考えたってバレるに決まってる。かといって氷器創成で盾とか作っても、どう考えたって受けきれるわけがないし、まあここは無難に攻撃は最大の防御作戦でいきますか。
「『風当たり』」




