魔王として、子供として
(ミカ視点)
「ギャン爺っていうと、あれでしたっけ。ジオさんと同じ魔王軍の双璧を担ってる魔法使い。レイ君達戦ったんだよね、どんな人だったの?」
「……あんま会話する暇とかなかったし人格面は全然分かんないけど、とにかく人間を恨んでるってことだけは。もしこれがあいつの独断だとしても凄い納得できるかな、王の話を聞いた今だと特に」
「あーそういう」
懸念として当然のものだよね、魔族はこの決定を許すのかって。ジオさんが魔王さんの考えを理解していた以上、同じ位置にいるそのギャンさんもある程度察していておかしくはないしそれが嫌だからって反乱を起こすのも理解できる。
ここで人間の王を殺せたとしても、軍隊を動かすのにワンマンでやっているはずはないし、仮にも戦争中なんだから権力闘争が起こる可能性は結構低め。起こる可能性としては魔族と人間の関係性にヒビが入ることぐらいか。
この状況でそれは何のメリットもない、が理論だけでは動かないのがヒトだ。俺の生命至上主義もそれに似てる、実利とか理性的なものよりも感情論を優先して行動することは心がある以上どうしても起こり得る。
理解はできないししようとも思わないけど納得はできる、今回同族の命よりも自分の復讐を優先しちゃったんでしょ。あーやだやだ。恨みを捨てろとか、人を恨んだことはない俺が言う権利ないから諦めるしかないけどね。
「陛下、報告いたします!前線の魔族の約四分の一が急に退却していきます、何らかの作戦行動なのか判断がつかず追撃は避けていますがいかがいたしましょうか?」
ンな事を考えていたら、突然扉が開けられそこから伝令の兵士が入ってちょっと予想外の事を報告してくる。このタイミングでこれってことは、よーするにそういうことだよなー。
「ざっくりだけど150人くらいがギャンさんと同じこと考えてるってことね、やり方次第だけど新しい勢力として成り立つ程度のものはあるか。どーやったって未来はないけどね」
仮に完全に魔王さんから離反しても大したことはできないだろう。前線にいたってことは大半は男だろうし、人間側の領地に潜むにしても人間が嫌いだから離反したのに人間の助けを受けるわけがない。戦力だけなら残った人数の方が多いわけだしやれる事なんてたかが知れてる。
そんなこと俺でも理解しているというのに、それすら分かんないほどにもう暴走しちゃってんのか。それとも……。
「人間の王よ、この件私達魔族だけで解決して見せましょう。恐らく彼らが我々が孕む最大の人間に対する勢力だ、彼らを抑え込むことができるならば今後仮に他に反乱を起こすのがいたとしても我々だけで対処できる。これならば人間にもたらすリスクは限りなく低いと証明できるでしょう?」
「ほう、できたのならば貴殿の提案、受け入れることを保証しよう。できたのならばな」
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「ぶっちゃけ止めた方がいいと思いますよ?そのギャンさんは準備をしていたからこそ即座に150人を動かせたんだろうけど、この段階で今から集めてたら後手に回りすぎる。何をしてくるか分からない以上、それは愚策だ」
「分かってるよ、私一人で行くのは止めた方が良いっていうのは。ギャン爺は馬鹿じゃない、この状況まで想定して、かつ私の実力も一番理解している。私が来ても勝てる算段で待ち構えているってことは」
「分かってるじゃん、殺される可能性高いんだし止めておきなさいよ。無謀だと分かってるのに挑むのは蛮勇通り越してただのアホよ?そのギャンさんの実力知らないから何とも言えないけど、あなたは身内を攻撃できる性質にも見えないし……」
「ッじゃあどうしろと?!この場面ではどうしても勇者を頼るのが最良だって分かってますよ!勝てない勝負に挑むくらいなら大人しく妥協するのが一番だって。でもそうしないと魔族の未来が……」
?なーんか勘違いしてるなこの子、何でそこでレイ君が出てくるんだ?まあそりゃあレイ君も強い方だし、人間側の強い人の代表例ではあるだろうけど、ハッキリ言ってレイ君じゃ対応力も思考力も不足してるし申し訳ないが一人で加勢しても大して解決にはならないというか。
ってああそういうことか。勇者=あの四人全員セットでついてくるって思ってるってことか。そりゃまあわざわざ一人だけに頼る意味もないわな、普通は。それに俺の事情を知らないなら俺と勇者はセットだと思っちゃうか。
「フフン、まったく~。目の前に頼れるお兄さんがいるのが見えません?あ、年齢は俺の方が下か。いやでも精神年齢だと多分俺の方が上だと思いますよ」
「は?」
「誤解するのも無理はないと思いますが、俺は元々人間側じゃない。仮にどれだけ俺の力を借りたとしてもあなたの理論と相反することはないでしょうよ、だからと言って魔族側の味方だって勘違いされるのも迷惑ですけど」
別種族間の争いなんて俺には興味が無い、孤児院に無数の種族がいるのに一々自分の種族なんて気にしているほど無駄なことはない。まして俺は不老長寿、まっとうな人間じゃない。それにこの星にとって俺は部外者だし彼らにはなーんの想いもクソもない、俺は殺されるヒトがいなければその後どれだけ人間が不利になろうと特にどうとも思わない。
「何が目的で?仮に私を助けたとしても渡せるものなんか何もありませんよ。それとも私が目当てとか言い出す気ですか?」
「単純に子供がむざむざ殺されるのを見るほど非道な大人じゃないってだけ、種族がどうのこうのって頭が凝り固まってる他の人が助けてくれないのなら手を差し伸べてあげるのが真の大人ってやつよ。それ以外に特に理由はないかな、報酬なんていらないし。地位も土地も何もいらんし」
「本当に?」
「もち、普通の子供のように大人に頼る程度でいいのよ?この問題解決したら、俺はどっかに行くつもりだから思う存分迷惑かけて。何なら戦うのが怖いからって言って俺一人にそのギャンさんの相手を任せてもらってもいいし。というか寧ろそうすべきかな、子供としてだけじゃなくて王としても」
「?」
一気に色々喋ったせいで頭がパンクさせちゃったのか、コテッと首をかしげる魔王さん。いかんいかん、こんな状況なのにちょっと可愛いって思っちゃった。パチリと大きな黒い目に、キチンと手入れされているのか綺麗に整えられた黒い髪、将来は美人さんになるね。
と、そんなことは置いておいて。
「今回魔王さんが反乱分子を叩いたら、確かに人間側との関係は良くなるよ。でも魔族側としては自分の意に従わないからって無理やり言う事を聞かせたっていう暴君の印象が強くなっちゃう。まして今回に関しては正当な恨みだし、民衆のいう事を圧してでも自分の意見を通そうとしたのは魔王さんの方だ、どれだけ実利がついてくるとしてもね。今解決できたとしても民はついてこないだろうね」
何よりも魔王さんだと殺してしまう可能性は大いにある、どういう手で来るのかは分かんないけど、それは一番最悪だ。俺の生命至上主義だけじゃない、双璧の片方を半分私刑のような形にしてしまうのは民の信頼に決定的な亀裂を生むだろう。俺なら殺さないための戦い方を熟知しているし、そこのリスクは回避できる可能性が高い。
「分かりました、貴方のいう事に乗ってみますよ。ただし、もし貴方が倒されそうになったのなら私は躊躇いなく参戦します。それでいいですね?」
「ええ勿論、ところでこんだけ意気込んどいてあれですけどギャンさんがいる場所分かってるんですよね?」
「根拠は大してないけどね、ギャン爺は多分城にいるよ。あの人は物事はハッキリと決着を着けたい
タイプだからね」




