ミカの考え
「んう?」
おや、そろそろ魔王起きるか。まあできるだけ体にダメージは与えずに意識を落としただけだからな、脳にまともに空気が回り出せばすぐに起きて当然か。子供だろうと人間とは違うってことか、あれだけの戦闘を行っても肉体的にはほとんど消耗していなかったのか。
「あれ、私?そっか負けちゃったのか。それで私をどうするの、やっぱり殺すの?」
ほんの一瞬だけ現状認識に戸惑った顔をしていたが、即座に把握して自分の命を諦めた。覚悟と言えば聞こえはいいけどこんな子どもが命を失うことを受け入れてしまうのは悲劇だな。せめて逃げ出す努力をして欲しかった。
「安心して、俺たちは君を殺す気なんてないよ。ね?レイ君」
「うっ、分かってるよ。ミカ君に感謝しろよ、ハッキリ言ってミカ君以外はお前を殺す気満々だったんだからな」
無駄に脅かすようなことを言うレイ君をジロリと睨んでおきながら、しゃがんで魔王と目線を合わせる。怯えている、まあそりゃそっか。改めて自分の状況を顧みてみたら完全正体不明かつさっきまで殺し合いしてたのにいきなり優しくしてきたやべえ奴じゃん、そりゃ警戒されて当然だわ。
それを言い出すと初対面で俺をスカウトしたレイ君達危機感欠如し過ぎてない?ってことになるけどね。人間であればすぐに信頼だけでなく信用できるって俺の人格面何一つ気にしないってよくよく考えるとかなりデンジャラスだな彼ら、ホント今までよく謀殺とかされなかったもんだ。
もうね、正直に言ってただでさえ元々薄かった彼らへの信頼とかが地に落ちていく感覚がある。人格面は信用はしている、彼らが自分から裏切ることはそうそうないだろうことは想像に難くない。でも実力面、というよりも精神面で信頼はしていない。我が強いわりに未熟もいいとこだ、実害が出る前にさっさと帰れると嬉しいな。
「安心してーな王様、少なくともこの銀髪は信じていいと思いますぜ。大方の予想通りこいつに勇者どもとの繋がりはなさそうですし、こいつだけは間違いなく俺らを殺す気はないって断言できますぜ王様」
魔王の肩にポンっと手を置きながらヘラヘラ笑って説明してくれるジオさん、そこまでハッキリと言われるとなんだかむずがゆいものがあるが、言ってることは百パーセント事実そのものだ。ボケているようでいて観察眼は凄まじいな。
俺がいなかったらこの人で詰んでいただろうな。魔法より物理の方が優れている、なんてほざくつもりは毛頭ないが、根本的な実力で負けている以上どうやったって物理の間合いに持ち込まれていただろうことは簡単に想像できる。そしてそうなるとレイ君の能力も意味をなさなくなりあっさり殺されていただろう。
部外者である俺に頼らなきゃ勝てなかったってマジでこの星の人間、何で今まで魔族に勝ててきたのか分からない。今回が最悪クラスでダメダメだっただけなのか、それともこの程度でどうにかできるほど魔族側も大したことなかったのか、特に俺が何かしなくても勇者が覚醒的なアレがあったのか。そこには大して興味はないな。
とにかくジオさんが穏健な感じでいてくれて助かった、でなけりゃ確実にここにいる全員を叩きのめす羽目になってた。やっぱり戦闘なんてしないで話し合いとかで解決できるのが一番だ。
「そっか、だからジオは君たちを見逃したのか。どうりでおかしいと思った、ジオは全然余裕そうだったのに人間も全員無事なんだもん。銀髪君がいれば私の命は保証されるってあたりをつけてたね?」
「ええまあね、詳しい事情は知りませんが王様の考えと一致するんじゃね?と思って見逃しました。他三人じゃあ逆立ちしたってそいつには勝てねえし、まあ大丈夫かなって。最悪不意打ちで三人殺せば済む話ですし」
ありゃー、やっぱりというか流石に俺みたいに殺しは絶対にしない、なんてことはないか。あくまで殺しを全力で避けるだけ、必要と判断したら躊躇いはない。ほとんど期待はしていなかったし別に気にするわけでもないけどね。
やろうとすれば潰すだけだ。
「それでこれからどうする気?銀髪君。誰も殺す気はない、って気概はいいけど実現するのが難しいことが分からないほどあなたも子供じゃないでしょう?」
見た目俺よりも子供な魔王にあやすように話されるのは違和感がすごいけど、ごもっともすぎて反論はできないな。死人に口なし、死体は何も喋れないからって死人に無実の罪を着せる、っていう意味の諺だがそんな諺が生まれたのはそれだけ殺した方が楽にものが進むからって考える奴が多いっていうことの証左でもある。
師匠ですら俺の目の前では気を使って殺しは控えてくれるが、目の届かないところでは特に不殺主義なんて気取ってない。だってそれが楽だからだ。死んだら恨みも憎しみも無に消えるが、息があれば負の感情は募るし生かし続けるにも手間と資材が必要になる。こういう種族的な問題な対立の話だと、勝者の側も死という分かりやすい罰を望んでる。
誰も殺さないなんてことは甘いのは十二分に理解している。もしもの話だが俺が本当に命を奪う意志を持ってしまっていたのならノアさん相手でもワンチャンあっただろうし、ジオさんも貫穿当てた段階で終わっていただろう。生命至上主義を貫くには普通よりも遥かに強さと、それに頭の良さが必要になる。
なんだけど、まあ強さに関しては今回は達成できていると思うが俺に彼らを説得できる頭なんてない。そもそもの話俺はこの空間に来てからまだ一月経ってないから大した事情も把握していないし、知識量はともかく地頭は別にそんな良くないし口だって上手くない。どうにかできるなんてこれっぽっちも思ってない。ただの考えなしに過ぎないんだなこれが。ただ……
「昔、仮に自分が手を汚してでも集団の利益に尽くして平和を求める人と会ったことがあってね。魔王さんはその人になんとなーく似てたからかな、話し合いでどうにかできると思ったのは。ぶっちゃけ俺は何も考えてません!」
ハッキリと頭空っぽだった事を断言したせいでこの場の全員がポカーンとした表情で俺を見る、直後にジオさんには爆笑されたが。
「そ、そんなあやふやな理由で俺達と戦ってでも守ろうとしたの?」
あまりの軽さに絶句した、って感じで俺の事を信じられないようなものを見たような目で見てくるレイ君。実際のところはそんな理由は後付けだし、全然違うんだけど説明するの面倒くさいし言ったところで師匠レベルで頭が柔らかくないと理解してくれそうもないしイエスってことでいいや。
「もし仮に私が魔族の事しか考えていなくて、ここで生かされた事でまた人間を殺そうとか考えだしたらどうするつもりだったの?」
「?そんなことしないでしょ。もし本当に俺達を皆殺しにする気満々なら正々堂々と待ち構えたりなんてしないじゃん。ドアを開けた瞬間に超高火力でぶっ放せば解決した問題だし、城に罠が一つもないとか露骨すぎて逆に疑ったよ。それに生命至上主義者として、ここで外れるような勘なら今後は絶望的だもん」
まあ外れるとは思ってなかったけどね、三十代ぐらいになってからウルやヴィラの感情を読む時の勘が外れたことはほとんどない。魔王がそこら辺を誤魔化せるレベルのポーカーフェイスをできるのは流石にないでしょ、いくら魔族で俺より年食ってるとしても全く別の分野の技術を実践レベルで修めるには五年十年はかかる。王としての態度+魔法の技術+最低限とはいえ体術、その他諸々戦闘中に必要とされる技術を学んでいくとどーやったってまともなレベルにはならないでしょ。
「敵である私を信頼したってこと?初対面なのに?」
「んな上等なものじゃないよ、そうだったらいいなー程度の希望みたいなもん。間違えてたらその時はその時で力技でどうにかしてたよ」
そうやって俺が話をまとめると思いっきりため息をつかれる。気持ちは分かる、師匠はよくこういう言い方をするから。
単純な強さだけでなく、あらゆる方面での実力があってあれだけの横暴が可能になってる。頭が悪いどころか寧ろいいはずなのに、わりと行き当たりばったりな行動が多いのは何が起きても対応できるという自負があるからだ。振り回される方からしたらたまったもんじゃないが、どれだけやっても見方でありつづけるならば貧乏くじを引くことはないっていうのは凄い安心感がある。
今の俺にそんな万能性は微塵もないが、少なくともただの強さだけなら大口を叩けるだけのものは把握できたし、申し訳ないが彼ら相手だとそこまで難しいこと考えなくても良さそうだ。
「分かったよ、もう隠す意味も大してないしね。私の思い描いていた最終的なゴール、それは私たちから人間への降伏だよ」




