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クロン〜チートすぎる生物〜  作者: 黒白灰色
3章 とある勇者編
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決着、魔王戦

不意に恐怖が心を覆った。言い知れぬ不安感、言葉にできない不合理な負の感情、まるで胸の中にハエの大群が渦巻くように黒く染まっている感覚がある。脳は周囲に大した変化はないとキチンと認識しているのに、心がジワジワと蝕まれていく。

痛みもない、体に不調を感じているわけでもない。ああいや胸がムカムカしたり僅かに吐き気がするような気がするけど、多分これはただの気のせい、数時間前に俺が受けたやつと反対のものなんだろう。たしかノージーポ効果とか言ったかな?

ああ、頭が回らん。ものを考えようとしてもその全てが駄目なんじゃないかという結論に帰結する、碌に根拠もないのに嫌な予感が止まらない。これが特殊六属性の一つ、基本的に魔族ならば問答無用で強い適性をもつ闇属性か。

精神にマイナスの影響を及ぼすもので、一切の物理現象を介さずダイレクトに対象の精神を攻撃する防御不能の魔法だと聞いている。耐えられらるかどうかは精神力がものを言うのだが、あの魔王の魔力量なら俺でも強引にやられかねん。

けど、勇者が勇ましき者と言われる所以もまたここにある。

「勇者を舐めるな、魔王!」

俺含めて三人が蹲っている中、レイ君だけは多少苦し気な顔をしながらも魔王に突っ込んでいく。光属性は仮に本人が大した精神力を持っていなかろうと闇属性に直接対抗できる、精神にプラスの影響を与えて打ち消すことができる。

当然だが魔王との魔力量の差を考えると完全には影響をゼロにすることはできていないだろうが、魔王だっていくらとっておきの魔法だとしてもこの段階で全魔力を込めるような暴挙はしないだろう。それならばレイ君の全魔力を使えば十分対抗できるというわけだ。

勇者というのはこの闇属性に対抗できるからこそ勇ましき者と呼ばれたらしい。精神に攻撃する魔法に対抗するのだから凄まじい勇気と覚悟を備えているに違いない、と思われたのだが実際のところはそんな素晴らしい精神性ではなく光属性の適性があるってだけの話だった。

何ともロマンが無い話なのだが、まあ勇者も結局はヒト、寧ろ一族全員高潔な精神を持っていたらそっちの方が気持ち悪いと思う。っと、レイ君が魔王に切りかかって集中が切れたせいかまともに頭が回るようになってきたな。

未だに体の不調や不快感は残っているが少なくとも頭の中でうるさく何かがガンガン騒ぐような事は無くなった。この瞬間それを認識した後すぐに動き出せば良かったんだろうけど、未熟さ故に油断していたんだ。あの状況でレイ君が不利になるはずがないって。

そんな幻想はコォンとまるで薪を斧で割ろうとした時のような音が鳴り響いた事でぶち壊された。

「残念だけどね、私って実はジオからある程度体術も習っているんだよ。流石にあの銀髪君ぐらい身体能力や技術があると太刀打ちできないけどね、君ぐらいなら防御に徹するぐらいの事はできるんだよ」

薙ぎ払うように振るわれた剣を魔王は杖で防ぎながらそう口にする。レイ君が怒涛の勢いで攻め立てるが、威力はあれど寧ろ攻撃が単調になってしまっている。軽々といなされ距離を離されていく。反撃こそしないが一手一手確実に防ぎ衝撃を流す固い立ち回りはあの状況では崩れることはないだろう。

しくった、舐めてた。ジオさんの場合その暗部だか何だかの技術を身に着けるのに時間がかかっていたって納得できるけど、そもそも長命種は技術的には人間よりも遥かに上なのがデフォなのを忘れてた。

これは戦闘に携わる者に限った話ではなく技術とは積み重ねである以上、どうしてもかけた年月に比例する。例えば調理技術、知識量、言語能力などなど総合的な分野で考えると身体能力や魔力などの身体性能(ステータス)はともかく技術の面では短命種はどうしても長命種に勝てない。まして魔王などという戦う運命を定められた者だ、最低限近接戦闘のスキルを身に着けていてもおかしくなかった。

「レイ君、一旦下がれ!それじゃ詰め切れない!」

魔法を使っても良いならここからいくらでも援護のしようはあるが、倒した後の事も考えるとどうしても使用は躊躇われる。チャンスをふいにするようで心苦しいがここで無理攻めするとまたあの術式省略の魔法を食らう可能性もある。ある程度余裕をもって攻めなきゃ一手で崩されかねない。


俺の言葉を聞いて苦々しい表情をしながらも大人しく引いてくれるレイ君、驚いたのはその時魔王が一切追撃をしなかったことだ。嫌がらせ程度に魔法を撃ってくると思ったけど、あっさりと見逃して仕切り直しすることができた。

確かにレイ君の能力を知っているのなら確かに一方向からの単調な攻撃は無駄であると理解しているのだろうけど、元々の魔力量を考えたら多方向からの攻撃なんて大した消耗にもならないはずだ。なのに使わなかった、つまり魔力を節約した?

考えてみたら当然だ、命属性もそうだが基本的に特殊六属性の魔法は五大属性に比べて遥かに魔力を食う。加えて『相手に不安感を与える』だけの碌に効率も考えられてない単調な術式で全員の膝をつかせるほどの出力を発揮したんだ、いくら大層な魔力量を誇っていたとしても消費量は深刻なはずだ。

「レイ君、俺と一緒に突っ込め!もういきなりの攻撃は気にしなくても大丈夫のはず、今の魔王は普通の魔法使いの常識の範疇に当てはまる!とにかく接近戦で魔法を構築する隙を与えんな!」

ッチと舌打ちをして苦々しい表情をする魔王、さっき言った言葉を鵜呑みにするならただでさえ俺と近接戦闘しても凌ぐことすら難しいのに二対一で勝てるはずがない。仮にもろに術式省略の魔法を食らったとしても決定力不足で俺達全員を仕留め切るのはまず不可能だ、全魔力を使ったとしても術式を選ばなければこっちの完全勝利は防げても向こうの勝利はまずあり得ない。王としてそれは受け入れられないはずだ、となるとギリギリまともな術式を組めるだけの余裕がある今この瞬間が最後の難関。ここを超えたらこっちの勝ち確だ。

間合いに入るまで後五秒、一発当てても集中が途切れないかもしれないから重いものを当てなきゃいけないと考えると必要なのは後六秒。

正面から魔力が迸っていく、案の定ここで全魔力を使う気だな。使われる術式は分からんけど、まあまず避けられるような範囲じゃないだろうな。避けようとして最速最短を止める方が寧ろ危険だ。

「『襲撃する海蛇(シーサーペント)』」

背後から俺の頭ほどの太さの水の束が魔王に向かって襲い掛かる。速度もない、量も大したことない、碌な攻撃手段にはならないだろうけど何か考えがあるのか?

「『紫電の通り道(パープルロード)』」

刀の間合いに入る直前、隣でパリッと何かが光ったと認識した直後魔王の体がビクンと跳ねる。

普通空気は電気を通さない、だからこそ雷属性で遠距離攻撃は物凄く魔力効率が悪い。速いし威力もあるが魔法の撃ちあいにはとんと向いていないのが雷属性だ。だからフィラ王女の水で電流の通り道を作ったのか。勿論不純物が一切入っていない真水も電流は通しにくいが逆に不純物さえ含んでいるのなら液体は物凄く流れやすい、だから魔力が満ち満ちている水は電気を流す。魔力の効率は中々に悪いが電流を流す役と分担し、かつこの戦いでは一回も魔法を使っていなかったからこそふんだんに魔力を込められたのだろう。十メートル以上離れているはずなのに人間よりも頑丈なはずの魔王がふらつくほどの電流が叩き込まれた。

「ごめんね」

今にも倒れそうな女の子を傷つけるのは本意ではないが、できるだけダメージが少なく済むよう刀を捨てて無防備な腹に拳をねじ込んで意識を飛ばす。

そうして今度こそ目が閉じられ魔王は倒れ伏した。

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