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クロン〜チートすぎる生物〜  作者: 黒白灰色
3章 とある勇者編
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魔力量のゴリ押し

うむむ、魔力量や術式の良し悪しではより優れている人を何人も見てきたから正直ちょっとなめてたな。魔法使いとしては間違いなく俺が今まであってきた人達(師匠を除く)よりは数段劣る、だが判断能力は彼らよりも遥かに優れている。

まあそもそも魔力量のゴリ押しだけで何でも吹っ飛ばせたフリエさんや生来のスペックが高すぎるだけで戦士ですらないヴィラと比べるのも間違っている気もするけど、とにかく彼女は魔法使いとしてはともかく戦士としては彼らよりも上ですらある。

四対一だというのにそれに心乱されることもなく寧ろそれを利用する、それにたった数手だが攻撃のためだけじゃなく次に繋げるために一手一手に複雑に意味を持たせている。間違いなくこの盤面が見えている、チェスとか将棋で勝負したら惨敗しそうだな。

今一番警戒すべきはあの高火力砲だ。ゴーレムだったらいくらでも潰しようがあるし、多少のダメージを負ったところで決定打に繋げられるほど流石の俺もそこまで弱くはない。

とにかく致命傷だけは避けて攻めて攻めて攻めまくる。ジオさん曰く数個の術式程度の魔法ですら十分な攻撃力に成りうるらしいが、逆に言うと普通の魔法に比べて使用している術式は遥かに少ないってことだ。操作性や命中精度はたかが知れている、機動戦になったら俺を捉えるのはまぐれ当たりぐらいでしかないだろう。

と思った直後後ろからどんがらがっしゃんと何かが崩れる音が響く、つい思わず振り返ってみるとあれだけいたゴーレムがバラバラになって転がっていた。あ、いや俺の足止め用の三体はいまだにディフェンスの構えで待機してるけどそれ以外の四体はバラバラになっている。

こんなに早くどうやって、と思ったら注意深く観察するとゴーレムの足元が窪んでいる。なるほど、最低限の術式しか込められなかったから穴を避けるなんてこともできずに全員見事にコケて自らの硬度と重量で砕けたのか。

「ムムム、それってギャン爺の穴を作る魔法か。構築速度も範囲指定もおざなりだけどそれでも一度見ただけで最低限使えるレベルにまで再現したのか、末恐ろしいね勇者は」

何か魔王がブツブツ呟いているけどひとまず俺は全力で駆け出して間合いを詰める。種族差として多少身体能力があろうとも技術としては本人の努力次第だ、流石に魔法使いタイプに後れをとるほど俺は技術を蔑ろにしているわけじゃない。遠距離ではどうやったって勝ち目がない以上、この戦いはどうやってこっちが懐に飛び込むかの問題だ。

あと一秒で距離詰め切れる、と思った直後に突然正面から突風が吹いてスピードをほとんど殺された。ダメージには一切ならないけどレイ君達に視線を向けてから三秒未満で一つ魔法を組み上げやがった!

俺は師匠ほど頭が良くないが、それでも今のは流石に分かる。確かに凄い風力だがそれだけ、風自体には一切効果が付与されていないしその他圧縮やら風力を強めるための術式が込められている様子もなかった。これがジオさんの言っていたやつか、魔力量のゴリ押しによる術式を省略した魔法。

なんてタチが悪い。普通術式の魔力をある程度調整するのは魔力の節約の意味もあるが、複雑な術式は魔力のバランスが乱れると発動しないどころか自滅する可能性すらあるからだ。俺の『氷器創成』も魔力のバランスをミスったら、碌に使い物にもならないオモチャが出来上がることになる。

だがここまで術式が少ないと特殊な効果が一切ないから、魔力を込めれば込めるほど威力は上がるし発動に失敗するなんて事態は発生しない。無属性魔法程じゃないが発動は他とは比べ物にならないほど速いし、属性を付与しているからその分効果は無属性よりもある。魔力の燃費は最悪だから十分魔力切れの選択肢も残るっちゃ残るが、咄嗟の防御手段としてしか使われないのならそれも望み薄だな。

とか考察してる場合じゃない!今この状況、俺は完全に隙だらけだ。このままボンヤリ考え事なんてしてたら欠片も残さず吹っ飛ばされる。

「『大地の槌(グラウンドマレット)』」

杖を振りかぶりながら先端に膨大な土が集まっていく。ゴーレムのパンチよりも更にデカい、当たったらかなりやばいな。とはいえまあ避けるのはそう難しくない、まだ残っている突風の勢いを利用して後ろに跳び距離を離す。

振り出しに戻ったのは仕方ない、寧ろあの状況で無傷で戻って来れた自分を褒めたいぐらいだ。あの突風に槌、そして雷の魔法とかなり魔力を使わせられたはずだ。初見でこっちが凌いだ以上、これからは節約を気にしてあれだけ大胆な魔力の使い方はしてこないだろう。

「驚いた。足の速さもそうだけどあの状況で即座に攻撃を仕掛けてくるなんてね、他の三人よりも戦い慣れているのかな?ジオが見込んでた通り君は他三人と比べて頭一つ抜けて優秀だね」

お、おう。いきなり褒められてちょっとびっくり、できる人から褒められるのはいくつになっても嬉しいもんだ。なんて和むのは後にして、さてどうするか。現状有利なのはこっちだと信じたいが……。

レイ君がゴーレムを即座に仕留められるのは魔王にとっても予想外のはずだ、単調な動きしかできない即席のものではレイ君には通じない。盾の能力があるから多少強引な攻めも通じてしまう、術式省略の魔法を使われても俺は咄嗟に対応してくる。

少なくとも現状見せている魔王の強みは封殺とまでは言わんがこっちは十分対応可能だ。勿論これっぽっちも油断はできないが余裕はある、俺が突っ込むのを他三人で援護してもらうくらいの平凡な作戦で通用しそうなくらいには地力ではこっちの方が優れている。

「はてさてどうしようか、勇者がいるから多分効き目は悪いだろうからね~。魔力量でゴリ押しするにしても加減が分からないし、それに何よりちょっとばかし可哀想だからなーあれは」

気になるセリフがあったような気がしたが、悩ませているってことはこっちは相手の選択肢を狭められているってことだ。なら大丈夫、このまま一気に攻められる!そう判断して俺は走り出す。

「ちょっと、レディーに気軽に近づこうとしないでよ。生憎私、距離感近すぎる男の人は苦手なの」

そう言って魔王が杖を振るうと俺の目の前に土の壁ができる。ハンマーとか籠手とかならともかく、今俺が持っているのは刀、主な用途は切断で目の前の障害物を粉砕するのには向いていない。かといって飛び越えた先で魔法を準備されていたら空中では避けられない、仕方がないので進路を斜めに変更して壁を通り過ぎる。

まあ案の定杖の先に真っ赤な炎を用意してこっちに向けている。その時気づいた、今この場だとレイ君から俺は見えない、つまり彼の能力での守りは期待できない。んじゃあこの状況は自分でどうにかするしかないってことか。

「『不休』」

不休を使って急ブレーキをかけ、後ろ斜めに跳んでさっき創り出された壁を盾にする。あのバ火力を前にしたら心許ないにも程があるが、ぶっ放されたらぶっ放されたで大量に魔力を消費させたと割り切ろう。

「甘いよ『追撃する炎(ハンティングファイア)』」

すると壁の上から炎の球が飛び出して、急降下して俺に向かってきた。

「うそぉ!」

「ミカ君!」

完璧に不意を突かれて一瞬足を止めてしまった俺の頭スレスレのところで炎球は爆発し、爆風爆炎は土壁を砕こうとも俺には届かない。レイ君の能力か、助かった。追尾式なのか操作式なのか、こっちがあの壁を盾にすることを見越して効率的な魔力の使い方に切り換えた。頭も柔らかいねこんちくしょう。


「うーん、今のが今代の勇者の能力かー。想像よりもずっと固いね、予想はしてたけど単純な破壊力だけで何とかしようっていうのは難しそうか」

そう淡々と分析する魔王、何一つ間違ったことは言ってない。正直俺もちょっとビックリしたが、今の攻撃を余裕で防げるレベルの硬度だとすると魔王は一回一回の攻撃に相当威力に魔力を割かなきゃいけない。しかもそこから機動力のある俺に当てるとすればトリッキーな動きや策を練らなきゃいけないし、魔力の効率はどうしても相当悪くなる。

対して能力を使っても消費は一切なし、どれだけ膨大な魔力量があったとしても削り合いになると寧ろこっちの方が得意分野ですらある。これなら……

「しょうがない、変に気にして負けるのが最悪の展開だからね。心が壊れても恨まないでね?『蝕まれる心(ラベッジドハート)』」

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