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クロン〜チートすぎる生物〜  作者: 黒白灰色
3章 とある勇者編
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勇者VS魔王軍宰相

(レイ視点)

「能力発動!」

ミカ君がジオと斬り合っている音が周囲に響いている中、こっちは能力をつかって飛んできた炎球を防ぐ。威力は大したことないから永遠に防げるだろうけど、毎回毎回来る方向が違うのが辛い。

流石に毎回何百メートルも移動しているとは思えないからそういう術式を使って操作しているんだろうけど、この無数の岩を避けて、かつ毎度ルートを変えているのに確実に俺達の元に届かせられている段階で俺達とは比べ物にならない程の制御力を持っているってことだ。

ダメージを与えることが目的なんじゃなくて、多分俺の集中を切らすことが目的なんだろう。ただエネルギーの消耗戦なら勇者である俺相手に勝ち目はないことは分かっているはずだ。

相手の魔力量が分からないから魔力切れを期待するのは危険すぎる。それよりも早く近づいて仕留めなければ俺達に勝ち目はないだろう。

だが問題は場所がわからないってところだ。この場所じゃたった五メートル先には岩があって碌に先が見えやしない、だがそれは俺一人だったら、の話だ。

「フィラ様!」

「『巨人の水溜り(ジャイアントパドゥル)』!」

フィラ様の魔法でさっき飛んできた方向に水が流れていく。といっても量も勢いも大したことはない、範囲は広いが人を押し流すどころかこれでは水溜り、といったところだ。だがそれでいい。

この水はフィラ様の魔力がこもっている、これに触れるとその全てがフィラ様に感覚することができる。この感覚は五感を超えて直接伝わるため、だれにも偽ることができない。

相手はほぼ確実に魔王軍宰相ギャン・ウォーンだろう、情報だとかなりの高齢で魔王に魔法を教えた師でもあるらしい。どれだけの魔法を使えるのか分からないが、流石に戦闘中ずっと地面に触れないための筋力はないだろう。

岩に乗ればできるだろうけど、それならそれで高い場所に登ってもらえればこっちから位置は分かりやすくなる。

「見つけました!」

「!ならレイ君は前に、何とかして近接戦闘に持ち込んでください。私はそのサポートとできる限りこっちからも応射して減らしてみるので、後はできるだけ能力で耐えていてください。フィラ様は常に敵の場所を私に知らせてください、それを都度レイ君にも伝えますので」

マグルさんの適切な指示を受け俺は直ぐに動き出す、フィラ様に教わった方角に向けて全力で駆け出し始めるとマグルさんから追い風の魔法を背で受けて加速する。

この二週間、ミカ君に指導を受けて少しでも鍛えていたがその効果は十分に発揮されていた。マグルさんのサポートがある今なら初めて会った時のミカ君と同等ぐらいの速さはあるだろう、一キロ近く離れているらしいがこれなら一分ほどで辿り着けるだろう。


「ッこの!」

俺が近づき始めてから明らかに球数も威力も増した。さっきまでは一度に一つしか来なかったからこそ対応も簡単だったが、今は一回につき十個ぐらいの炎球が一度上空に上がってそこから雨のようにまとめて降り注いでくる。

それらの内いくつかはうしろから飛んできた魔法で撃ち落とされるが、それでも全ては落としきれない。ただ威力が上がっただけならまだまだ俺の能力なら防げる、十個まとめて一点に来られれば破られるかもしれないけど正直破られても数秒程度隙が生まれるぐらいでしかない。

だが多方面から来られると防ぎきれない。俺の能力は硬度、範囲に制限がある、まあただ防ぐだけなら剣を使ったり魔法を使えばいいだけなんだけどそうなると俺の消耗ゼロという圧倒的アドバンテージがなくなる。

それに魔法だけで防ぐのは効率が悪い。相手は魔法に関しては魔王の次に長けているとすら言われている程だ、魔力量で勝負するのは分が悪すぎる。なので躱したり剣を使うんだがそうなると大きくスピードが殺される。

タイムリミットを引き延ばされている、というのは気分が悪い。何よりあっちが俺をエネルギー的にも削れるようになった以上、現状断然不利なのはこっちだ。

「ッツ、あ!」

そう、ほんの少しネガティブに考え事をしていた時だった。迫りくる炎球を咄嗟に剣で防ごうとして、剣を弾かれてしまった。

「くそっ!」

取りに行こうにもざっと見回して目に付く所にはない、他の球に弾き飛ばされたかそれとも岩の上にでも乗っかったか……。どちらにしろ今すぐ簡単に回収できる所にはなさそうだ。

~~っ!もういい!剣なんかなくてもヒトひとりくらい倒せる、寧ろ剣という重しがなくなって身軽になったくらいだ。そう開き直って俺は素手のまま駆け出した。

剣なんていう鉄の塊を捨てたおかげでさっきよりも更に速いため狙いが狂ったのかすぐ後ろに炎球が着弾した。一回分とはいえノーコストノーアクションで凌げたのはデカい、隙を晒すのも厭わず全力で走る。

そして次に目の前にある岩を避けた先には黒いローブを着けた魔族のお爺さんがいた。何やら妙に荘厳で黒い杖を持っている、何より今まで感じたことがない程の高い魔力を感じる、あれがまず間違いなく魔王軍宰相ギャン・ウォーンだろう。

嫌な視線をこっちに向けてくる、ジオの場合は愉快犯じみたヘラヘラした雰囲気があったがその殺意はとても純粋なもの、ただ目的のために殺すといったシンプルなものだった。

だがあいつは違う。害意悪意憎悪、殺意以外が入り混じったドロドロとしたものだ。多分あいつに負けても簡単には殺されない、拷問じみたことを繰り返されて寧ろ自分から死にたくなるような目に合わされる予感がする。

聞いていた通りだが想像以上だ、人間に対してヘドロみたいな憎しみを持っているという面では魔族随一のイカレジジイらしい。

視線の気持ち悪さに少しひるんでしまったが、あの年齢かつ魔法特化なら近接戦闘が俺に有利なのは間違いないはず……。頭を振り、気を取り直して距離を詰めにかかる。

「『土くれの双子(ソイルツインズ)』」

その時ギャンが杖を一振りすると地面から二体の巨大なゴーレムが現れた。流石に先週戦ったのよりは小さいけどそれでも三メートルぐらいのが二体……、全く問題ないな。

右のゴーレムが拳を叩きつけようとしてくるがその動きは鈍重、引いて避けるのは簡単だがそうするとその一手を埋めるのに更に二手三手費やすことになる。ここは少し賭けに出る!

拳を避けられるギリギリでジャンプして腕に跳び乗りそのまま頭の方へ走っていく。ここなら簡単には攻撃されないだろうし、頭から跳べばほぼ確実にギャンの元に辿り着ける。ここで詰み切れる!

「『形態変化 炸裂』」

突然、今乗っているゴーレムがビキビキとひび割れて更には若干だが膨れ上がってくる。何かマズい、咄嗟に真上に跳んで距離を置き能力を使って下からの攻撃に備える。

直後ゴーレムの体が破裂しその破片が無数に飛んでくる。体を丸めて被弾面積を減らすが、それでも能力だけでは防ぎきれず肩や腕などにいくつか当たってしまう。その間ギャンはもう一つのゴーレムを覆いかぶせることで防いでいる。

なんて奴だ、あのゴーレムが意味が無いと即座に判断して使い捨ての爆弾に変えやがった。理屈では理解できるがあれでも自分の魔力を消費して生み出したものだ、それを一瞬で切り捨てる判断は俺にはできそうもない。

だが、まだ俺は動ける。多少のダメージにはなったが動きに大きな支障はない。これならゴーレムを失った分差引俺の方が有利になった。作戦続行、このまま攻める!

「『大地の穴(アースホール)』」

そう思って地面を蹴ろうとした瞬間だった。大地が消え足が空振った感覚と共に嫌な浮遊感を覚えながら落ちていく。スローになった世界の中ゆっくりと視線を下げると、下には真っ暗闇が広がっており底が見えない。落ちたら骨折程度で済めばラッキーな高さだろう。

「墜ちろ、人間」

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