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クロン〜チートすぎる生物〜  作者: 黒白灰色
3章 とある勇者編
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貫穿

その瞬間右の剣を体の正面に立てたのは、特に何かしらの考えがあったわけではなかった。あえて言うならただの勘、思わず体が動いてしまった、っていうやつだ。

自分自身で何をやってるのか理解できなかった、カウンターを狙うには完璧無駄な行動だったし回避に重点を置くには体が動かしにくい体勢になった。だが結果からいうとその行動は大正解だった。


「『貫穿』」

銀髪がそう呟いてから百分の一秒もなかったと思う。いや、いつもより集中していたからな。ひょっとしたらそれ以下だったかもしれない、何せ一瞬だったんだ。

ふと気づいたら銀髪が俺の胸を刀で貫こうと差し迫っていた。さっきまで存在していた四・五メートル程の間合いは完全に消え去り、そうして銀髪の刀が俺の剣に触れた直後だった。

俺の体はくの時に折れ、なすすべなく後方へと吹き飛ばされていく。胸からはぽきっ、ぽきっ、と軽い音が鳴り肺が圧迫されて意識が飛びかける。

一体どんぐらいの距離を飛ばされたのか、背中に強い衝撃を受けて初めて浮遊感がなくなり体が止まったことを理解した。

「ゲッホ!ゴホッ!ハアッ、ハアッ!オエッ」

空気のほとんど無くなった肺が全力で働いて空気を取り込もうとする、頭に酸素が行きわたり前からも後ろからもじわじわと激痛を感じてようやく頭が冴えてくる。

「ッ何だ、今の……?」

いや、何をしたのかは理解している。ただ突いただけ、構えからも直前の光景からもそれ以外には考えられねえ。だが早すぎる、予想外だったとはいえこの俺が反応しきれなかった。

落ち着け、ンなこと考えてる場合じゃねえ。追撃が来る、前を向いて備えねえと……。そう思って痛む体に鞭を打って四つん這いのまま視線を上げるが、銀髪は吹き飛ばされる直前に見た剣を突き出した格好のまま固まっていた。

ようやく動き出しはしたが、あまりにも遅すぎる。何秒飛ばされていたのか分からねえが何で追撃の体勢にすら入ってねえんだ?実は食らってから今まで一瞬だからその暇すらなかったとか?いやいや、さっき立ってたところからざっと十メートル以上は離れてる。仮にそれぐらいの速度で人を吹き飛ばせる威力なら確実に死んでるわ。

OKOK、理屈は知らんがそれならどうとでもできそうだ。確かにとんでもなく鋭いし、次まともに食らったら流石の俺でもマズいだろうが、出す前も後も結構な隙がある。軌道も分かりやすいし、俺なら出される前に先読みすることだってできる。

なるなる。手札としては強力だがここまで出し渋ってたのも理解できるな、一発撃ってそれであれだけの隙があるなら避けさえすればほぼこっちの勝ちだ。超絶ハイリスクハイリターンな技、それを使わなきゃいけないってことはそれだけ俺の方が地力は上ってことだ。

「いてッ、いててっ」

体を起こすと体の至る所がズキズキと痛む、思ってたよりダメージあったわ、今すぐベッドで横になりたい。クールにこれなら対処できる、って考えたけどちよー-っとだけきついかな~~?

正直俺としてはもう帰りたいんだよなあ。ただ勝つことだけ考えてたら王様と一緒に戦った方がいいだろうし、今ここで引いたらこいつは勇者んとこ行ってジジイを消してくれるかもしれないし良いことづくめだ。

けど微妙にまだこいつのキャラが分からん、次に会う時はそんな事考えてる暇ないだろうし出来れば今ここで白黒つけておきたいんだよなあ。多分これが悪巧みできる最後のチャンスだと俺の叡智が告げている。

頑張れ俺、計画通りに進められたら王様からの評価はうなぎ登り、楽な護衛の仕事で月給百万すらあり得る。残りの二百年以上の人生の質が今この瞬間の頑張りで決まるかもしれないぞ。


自分でも驚くぐらいに遅いが、とりあえず走って距離を詰める。足の速さは知らんが、機動力は銀髪の方が上だ。のんびりと構えていたらまた防戦一方になって削られちまう。

数手打ち合えば分かる、こいつはこいつで今かなり消耗している。あの突きの反動、というよりもその前のせいだろう。俺の体重の乗った剣を防ぎ、それを押し返すだけの力を生み出したんだ。全身の筋肉がクッタクタのへっろへろだろ。

決着は近い。今もそうだ、さっきまでだと平然と防いでいた俺の攻撃をわざわざ踏ん張って構えて受けている。だが俺の方もその僅かな隙をつけず、剣がぶつかった反動だけで腕がしびれて隙を晒してしまう。

お互い肩で息をして、汗で額を濡らしている。次にデカいのを食らえば、互いに終わる。そう理解しているからこそ、俺も銀髪も守りに徹し今一歩攻めきれない。

認めるのはムカつくが、今この状況で不利なのは俺だ。基礎能力は俺の方が上だが、さっきのあれでほとんどその差を潰された。なら『不休』とかいうのとさっきの突きの二つのカードを持っている銀髪の方が有利だ。

まあ一応その二つにもデメリットはあるから読み合いの話になるが、使うタイミングは向こう次第な以上どーしても俺が後手に回る。

ッチ多少危ない橋だが仕方ねえ、ここは少し強引にでも攻め込んで使わせないことに考えをシフトした方がいいな。そもそも俺に攻め以外の戦法は似合わねえ。


そういうわけで、また同じことを繰り返す。もとより隙は溢れていたんだ、ただそれをちょっと強引だろうと突けばいいだけ。ただそれだけだ。

左の剣で銀髪の右肩を狙って突く。簡単に貫かれるってことはなかったが、大きく体を逸らして避けようとしたせいで僅かに重心が崩れる。こっちも多少は体が前のめりになっているが、腕の筋肉を酷使して右手の剣で左から切り払おうとする。

「『不休』」

「ッ!うっ」

崩れた体勢だったが、突然加速して肩から剣を振ろうとしていた俺の右腕にぶつかってくる。大した威力じゃなかったから仰け反る事はなかったが、勢いは潰された。ここから振ったところで碌なダメージにならないだろう。

「いっつ!」

そう思っていたんだが、突然銀髪は顔を歪め動きが止まる。ただでさえ足の筋肉を酷使していたのに、あの技を使ったせいでもうほとんど限界だろう。ざっとだが残り三度も使えれば上等だろう。

それ以前に使えば今みたいに鋭い痛みが走って寧ろ隙を晒すだろう、なら攻めで使われる事は考えないでいいだろうな。

ただ出しただけのものだが前蹴りで銀髪の体を押して距離を取る、踏ん張る力も残っていないのか銀髪は僅かによろめく。その隙を逃したら俺でもチャンスを作れるかは怪しい、ここが勝負どころだ。

大上段から右の剣を叩きつける、大して力は込められていないがそれでも重力の乗った一撃はさぞ重いはずだ。さっきみたいに押し返す事ももうできないだろう、これで詰みだ!


腰を据えて構えて刀を頭上に掲げ、俺の剣を受けるその瞬間だった。俺の剣がガラス細工の玩具のように砕け散った。

「はあっ!?」

確実に勝ったと思った直後に武器を失った事に思考が一瞬止まる。そのせいで間抜けにも銀髪から目を逸らして剣を見る、なんて馬鹿をやってしまった。

剣は中心部分が粉々に砕けて折れている。バキッとへし折れたとか、全部がいきなり粉砕した、とかそういうわけじゃなくただ中心部分だけにひびが入って砕けている。

ああ、そっか。あんな鋭い突きだったんだ、例え鉄の剣だろうとあの時とっくに壊れる寸前だっただろう。それを思いつかず使い続けた俺のヘマだな。

「ッは、くそが」


「『貫穿』」

********

(ミカ視点)

「あー-やばかった」

膝から崩れ落ちて倒れる、地面に着いた衝撃でまた足が痛んで呻き声が漏れる。仮にあの剣が壊れなかったら、俺はジオさんの前で崩れ落ちていただろうな。

ジオさんは五メートルぐらい先の岩にぶつかって気絶している。肩に当たったし、特にこれといった後遺症もないだろう。限界で力が出せず骨すら砕けた感触はなかった、あれなら数日休めば直ぐに元通りになるだろう。

いやマジでやばかった。まさかというか案の定というか『貫穿』を使わされるとは……。しかも二度、あの欠陥技を二回やるとは思い返せば恐ろしいことをしたもんだ。

あれは本来大なり小なり考えるはずの次手を完全に捨てて、ただ一撃のためだけの技だ。繋げる事を考えず、その後の隙も考えない。おまけに、まあこれは俺の技量の問題だが構えるのに時間がかかるし見切られやすい。弱点を言い始めればキリがない。

けど、その分威力も速度も段違いだ。師匠に体を無理矢理動かされて染みつかされた最高効率の一撃、上手く使えば格上であるジオさんですら反応できなかった俺のとっておきの技だ。

しっかし動けん。足以外にも腕や腹筋もかなりくたびれてる、それに集中が切れてドッと疲れが押し寄せてきた。体が重くて重りでも乗せられているみたいだ。

バレなきゃいいんだし、足以外は気と命属性で治しておこ。この場だけなら勝ったのは俺だが、仮にジオさんが目覚めたら今の俺じゃどうしようもできない。サッサと動ける程度には体を治して体を縛らないと、さっきまでのが完全に無駄になっちまう。

悪いねレイ君、手助けには行けそうにない。死なないでくれよ……。

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