ミカVSジオ
「氷器創成」
さて、どうするか。まず使ってはいけない札は無属性魔法、命属性魔法、気だ。十中八九使えない札はその他の魔法、ジオさん相手にゆっくり術式を組んでたら殺してくれって言ってるようなもんだからな。
バレているのは不休、それと基礎的な剣術、身体能力、ってところか。不休に関してはバレていようと対処はそんな簡単じゃないし、多分俺の年もまだ知られていないだろ。
使う札は、まあどうせあれだな。俺が近接戦闘で使える技の中で残ったものとはたったの一つ二つ、幅広く鍛えているせいで各分野強い技といったらまだまだ数少ないんだよなあ。
師匠曰く、手札は多いほどいいがそもそも基礎が充実していればそれこそが一番の対応力になる、そうだ。その言葉に異論はないし、実際そのおかげで致命的なレベルの弱点は俺にはない。
が、こういう時は尖った鍛え方の方が良かったなあ、と感じてしまう。将来を見据えての鍛え方なんだろうけど、若い(といえるかは微妙なところだけど)間ぐらい何かに特化してた方がカッコイイと思うんだけどなあ。
レイ君達の戦いに巻き込まれないように移動している最中に師匠への愚痴を心中で呟いておく。なんせこれから死ぬ可能性が高い戦いに挑むんだ、文句の一つくらい考えても罰は当たらないでしょ。
勝率はまあ四、いや三割ぐらいかな?ぶっちゃけ『使ってはいけない札』を使えば九割がた勝てる、っつーか楽勝だろう。性能として強力だというのもあるが、俺の才能はその『使っていけないは札』に特化している。
寧ろそれを使わない今の俺は全力のいいとこ六割ってところかな、もしかしたら半分もないかもしれない。それだけ俺の強さは命属性魔法と気に依存している。
死ぬ気はない。仮に使わなければ死ぬ、なんて事態になれば俺は迷いなくそれらを使う。だが、それ以前に使う暇がないかもしれない。
カードゲームとは違うんだ。手札を出すのに考える時間があるかさえ分からないのが戦闘中だ、使える方がラッキーだと考えるべきだろうな。使う間もなく死んでしまうことも十分にあり得る。
「そっか死ぬかもしれないんだ、俺」
死ぬ、という言葉に心臓が跳ねる。レイ君達には申し訳ないが、今までの俺は真剣かつ本気ではあったが、全力でも命懸けでもなかった。
今からの戦いも全力ではない、そういう意味では保険があるとはいえ今までのそれとは違い命の危険が段違いだ。
「ハッハッハッ、ハァッ」
呼吸が荒くなる、吐き気がする、血を一リットル以上吸われたんじゃないかと思う程に寒い。ジオさんにバレないように口元を隠して必死に抑えようとするがそれでも僅かに息が漏れ出る。
死ぬ、そう死ぬ。ああ、かもしれないだけだ、頑張れば死なない。大丈夫、落ち着け。そう言い聞かせるがそれでも中々震えが収まらない。
殺気には慣れている。よく師匠とガチの殺気を浴びせられながら組み手をしたりしているから、そういう死の気配にビビるほどやわじゃない。
だけどそれに理屈が追いついたのは初めてだ。何だかんだ俺は死なないだろうって甘えがあったんだ、死ぬ可能性なんてほとんどないって頭の隅っこで考えていたからこそ多少は大胆に、強気でいられた。
死にたくない死にたくない死にたくない。死ぬのは怖い、死ぬなんてごめんだ、死んでたまるか。
「勝たなきゃ」
ああそうだ、勝てば問題ないんだ。勝てば殺されることなんてない、勝ちさえすれば死ぬことなんて有り得ない。あまりにも遅いが、ようやく俺は何としてでも勝つための覚悟が決まった。
****************
(ジオ視点)
なんだこいつ?さっきまでとは何というか目つきが違う。さっきは自分の強さに自信があって、そのおかげで余裕があるって感じだったが今はまさに野生の獣って感じだ。
生存本能丸出しでちょっとした変化にも敏感に反応する獣の目、ある種臆病ともとれるが俺は数多くの強敵との戦いの経験から知っている、こういう奴はかなーり面倒くさい。
余裕があるような奴はちょっとやそっとじゃ冷静さを崩さないから、そういう意味ではさっきまでも面倒くさかったが、今のそれとはちょっと系統が違う。
集中力が桁違いに強くなっている。仮に今この瞬間テキトーに不意打ちをかましても、寧ろこの状態だとカウンターを食らっちまうことすらあり得る。思わずそう考えてしまう程の気迫を今のこいつからは感じる。
いいね、楽しくなってきた。俺より弱いと分かり切っている相手を斬ってもつまらない、戦うなら多少なりとも俺を食う可能性のある相手じゃないとな。
ただの品定め以上のことは考えてなかったんだが……。マズいな、興が乗って見極める前に殺しちまわないよう気を付けないと。まあそれならそれで困ることはないし別にいいけどな。
「おし、じゃあここまで来れば早々巻き込まれねーだろ。そんじゃあ始めようぜ」
近くに転がっていた小石を拾い、放り投げる。お互い特に何も言わないが、言葉にしなくても分かっている、石が地面に当たった瞬間が合図だと。
嫌にスローモーションになった世界の中、ようやく落下が終わる。
カンッ!
「『不休』!」
なっ!速い!あの瞬間加速の自傷技を初手からいきなり使ってきた!先手を取る気満々で距離を詰めようと前傾姿勢をとっていたのに、加速しきれていない状態でほぼほぼ最高速でぶつかられて押し込まれる。
即座にガードすることができたからいきなりぶった切られるような無様なオチは避けられたが、完璧に流れを掴まれた。とんでもない勢いのラッシュに防戦一方になっちまった。
こいつは俺よりは弱いとはいえ、それでも一応俺と同格と言ってやっても良い程度の実力は備えている。ここまで流れを持っていかれたら、いくら俺でも戻すのはちょっとだけ難しい。
両手で刀を振っているから一撃が鋭いし重い、手数は俺の方が上だから防げてはいるが一回防ぐごとに大きく弾かれて手がしびれる。双剣はこーいう時辛いな、受けに回ったら片手の筋力じゃどーしてもキツイ。今まで人間の筋力なら片手でもどうにかできてたし、そもそも俺が受けに回ることすら数えるほどしかなかったから気にしてこなかったが……。つかこいつ人間か?
搦め手や心理戦がどうとか以前の問題、そもそも何かを策を講じるだけの隙すらない。ほんの僅かに動きを見せた瞬間にそれを潰そうと動いてくる、なんっつー集中力だ。
一挙手一投足全てに反応されては流石にマズい、このままだといずれ削られて終わる。
「まあ、そうはならないからこそ俺が天才である所以なんだがな」
攻撃を防ぐ瞬間、全力で脱力しながら後ろに跳ぶ。銀髪の鋭い一撃はそのまま俺を押す力へと変わり、距離を離すのに手助けをしてくれる。
「ッチ!しまった!」
舌打ちをしてミスを悟る銀髪、だがもう遅い。あの『不休』とかいう技を使って直ぐに距離を詰めようとしてくるが、今度はこっちも準備万端だ。受けるための体勢さえ整えておけばそこまで怖いものじゃない。
そうして第二ラウンドが始まろうとした瞬間、ジジイと勇者が戦ってる方向からドゴーンという爆音が聞こえた。空気がビリビリと震え、その揺れで近くの小石が転がる音がする。
銀髪は視線を外すようなアホな真似はしなかったが、さっきまでの覇気は消えていた。ほんっとうに些細な変化だが天才かつ数秒前まで斬り合っていた俺はその目から迷いが生まれたのを見逃さなかった。
「集中切らしたな、間抜け!」
懐に滑り込み腹に前蹴りを叩き込む。銀髪は反応することすらできず、まともに蹴りが入り数メートルは吹き飛ぶ。
「ゲホッ!オエッ」
えずきながらも即座に体勢を整えようとするのは流石だが、その隙はあまりにも致命的だ。両方の剣を上から思いっきり叩きつける。
「ッぐううう~~~!!」
ギリギリで防御が間に合ったか。だが俺と銀髪の筋力はザックリ同じくらいだ、上から力を加えている今、こいつにここからどうにかする術はない。プルプルと腕や膝が震え、じわじわと押し込んでいく。
?あれ、こいつの刀まさか……?
「っああああ!『不休』!」
「うおっ!っとっとっと」
ほんの一瞬、こいつの刀に気を取られて力が緩んだ瞬間、急に力が増して剣を押し返され後ろによろけてしまう。
しくった、『不休』ってのの仕組みを忘れてた。足の筋肉を一気に圧縮してエネルギーを蓄えることでどんな体勢にも拘らず加速できるっていうのだから、ああいう鍔迫り合いで一瞬だけ力を増やせるんだ。自分で見破ったのに忘れてた。
「っておん?」
何やってんだこいつ?銀髪は弓を射るかのように刀を持った右半身を大きく引きながら、切っ先はこっちに向ける。
この構えじゃ今から突きますよって言っているようなもんだ。確かにほんの少しよろけたが、もう立て直し始めている。今からそんな大きく構えても当たるわけがない。
何を考えてんのか知らねぇが、わざわざ自分から隙を晒してくれるって言うんなら遠慮なく、だ。
構えから軌道は大方予想がつく、動いた瞬間に避けてそのままカウンターでケリ着けてや……。
「『貫穿』」




