魔王軍のトップ
(ジオ視点)
「ってなわけで、報告は以上です」
慣れねえ敬語を使って目の前の二人にさっき戦った人間の報告をする。ぶっちゃけだるいしさっさと部屋で寝たいところだが、俺が守りの要である以上中々サボるわけにはいかない。まったく天才は辛いってやつだな。
「魔王様、ジオの報告通りならば恐らく件の人間とは……」
「うん、勇者だろうね。それに水魔法使いの王女に最強の宮廷魔法使いだ、最近報告がなかったからもしかしてと思ったけどやっぱり前線から離れてこっちに攻めてきていたんだね。ジオが戦った子に関しては知らないけど」
ほ~ん、あいつらがそうだったんだ。にしちゃあ弱すぎるが、人間だしそんなもんか。つーかあの銀髪のガキは情報ないんだ、マジであいつ何なの?
「でジオ、実際彼らと戦って見た感じどうだった?勝てそう?」
おっと、ジジイと王様だけで話してたから半分聞き流していたら王様から話を振られてしまった。流石の俺も王様に歯向かったらどうなるか分からないんで、仕方なく真面目に答える。
「少なくとも近接戦闘に持ち込めたら銀髪のガキ以外は全員確実に仕留められますね、勇者のガキは能力使わせられなかったんで何とも言えねえっすけど、俺の行動に全く反応できていなかったですしどうとでも始末できそうではあります。ただその分遠距離戦になると奴らの得意分野って感じでしたね」
不意打ちであの銀髪を仕留められたのなら多分俺一人でも楽勝だろうが、あいつ特に魔法を使わなくても感知範囲広そうなんだよなあ。かなりダイナミックだったとはいえ初見で俺の奇襲を避けたし、そもそも魔界のほとんどは荒野だから不意打ちしにくいし厳しいだろうな。
一番手っ取り早くて確実なのは王様とジジイと俺の三人で叩くことなんだろうが、王様はゴーレムの操作で忙しいからな。仮に仕留めきれなかった場合、せっかく広げた領地を人間どもに奪い返されちまう。リスクがある以上、軽々とはできねえ。
結論としてはゴーレムをけしかけてもう少し手札を暴いてから判断しようということになって会議は終わった。よっしゃ、サッサと部屋の布団にレッツゴー!
「おい、ジオ。話がある、こっちに来い」
と思ったんだが、ジジイに呼び出されてしまった。ったく、んっとに空気の読めねえジジイだな、これだから年寄りは。
このジジイの名前は魔王軍宰相ギャン・ウォーン、俺と並んで魔王軍最強の一角だ。ざっくりだが俺が物理担当、ジジイが魔法担当って感じだな。先代の王様のころから生きており、四百歳を超えてもなお現役でピンピンしてる妖怪ジジイである。
「んで、なんだジジイ。俺はこの後大事な用があるんだが?」
「はっ、どうせ昼寝だろう?そんな事よりもお前の会った人間どもをどうやって殺すかについて考えるぞ」
「はあ?さっきの会議で言うことは全部話したろ、これ以上の情報は持ってねえぞ。碌な情報もねえのに対策できるわけもねえし英気を養う方を優先するべきだと思うんだけど~」
自分自身で惚れ惚れするほどの完璧な理論を返したのだが、生憎人間が関わった時のジジイはまともじゃねえ。
「そんなことはどうだっていい、今ある情報でできる限りの対策をしろ。情報がないなら探ってこい。次こそ確実に人間どもを殺すためにあらゆる手を尽くせ」
今ので分かる通りジジイは人間に並々ならぬ恨みを持っている、何でそんなに憎んでいるのかは興味ないから聞いたこともないが……。
それはともかくとして、基本的にはサボりを許してくれねえ厳格なジジイって程度なんだが人間が絡むと一気に人が変わる。普段の合理的な思考がどっかに言って普通に考えて無茶だろ、って難題を人に押し付けてでも人間を殺すことに執着している。
実に鬱陶しい事この上ない、まあそれだけなら海のように広い心を持つ俺なら軽く流せたんだが今回のはもはや俺に命の危険を冒してでも無茶なことをしろって言ってくる。流石にてめえの都合だけで人の命を軽く扱われては俺も黙ってはいられねえ。
「調子に乗りすぎんなよジジイ。指揮系統でも実力でも俺があんたの言う事を聞く必要はねえんだぞ?」
「お前こそ調子に乗るなよジオ。私の半分も生きていない小僧が盾突くとは覚悟できているのだろうな?」
俺が剣に手を置けばジジイは杖を持つ手に力をこめ魔力を高めだす。二人して敵意をぶつけ合い近くの鏡がひび割れる音がした時、パンパンと手を叩く音が響いた。
「こーら二人共、そんな殺し合いをしそうな空気出してないで仲良くしなさい。ほら、握手して握手」
気の抜けるような軽い調子で割って入ったのは王様だった。王様の命令なら仕方ねえ。渋々だが俺とジジイは握手をして敵意を収める。
「ギャン爺の気持ちも分かるけどジオは十分頑張ってくれてるよ、これ以上働かせるのは流石に酷でしょ」
「……はっ、申し訳ございません。ジオも、すまなかった。人間が近づいているとあって少々気が立っていた」
「おう、気にしちゃいねえが今後二度としないでくれ」
しかしまあ流石王様だ、人間換算だと二十歳にも満たない小娘が今の空気に物怖じしないどころか俺達を諫めるとは……。しかもこれが普通のチンピラとかならいざ知らず、魔王軍最強の二人を相手に。これが王の器ってやつなのかねえ。
「うん、ただまあギャン爺の言う通り情報がないから探る必要があるってのも確かだね。ジオ、ギャン爺、二人のうちどっちかは数日だけでいいから国境付近の警備に行ってきて。その分のゴーレムもこっちに向かってきている人間の情報収集に使ってできるだけ早く情報は集めるから」
「なっ、それは危険です魔王様!我々がお傍にいなければいざという時に」
「大丈夫大丈夫、報告通りならここまでたどり着くのに普通に歩いたら一週間以上かかるでしょ。敵襲を警戒していたらそれ以上かかるだろうし少しぐらいは大丈夫だよ。それに戦場に私の護衛をしている二人が戦場に行ったってことはもしかしたら勇者がやられたんじゃないかって思わせられるじゃん」
プッ、結局ジジイ王様に言いくるめられてやんの。ダセえ。
とはいえ理論上安全は保障されているとはいえ自分の護衛を減らす選択を躊躇いなくするとは、中々の度胸だ。まあそもそも俺やジジイよりも王様の方が強えから自然と言っちゃ自然だが。
単純な魔法技術だけならば王様よりもジジイの方が上なのだが、王様はジジイの十倍近くの魔力を持っている。ジジイが数十秒かけて生み出す強力な魔法を王様は俺でもできるような単純な術式で再現する。
魔力の効率とかガン無視な分、高火力の魔法が気軽にバンバン飛んでくるせいで俺でも近寄りがたいし、ジジイとは違って体力もある。一応俺も最低限の武術は教え込んだし近接戦闘も少しはこなせる。
若い分柔軟性のある思考も持っているし、部下の事を考える優しさもある程度のカリスマも持っている。まだまだ足りない部分はあるがこれから年を重ねれば十分補える範囲だろう。
今代の王様の部下になれたのはラッキーだったな。これならばそう簡単に人間に負けることはないだろうし俺が食うに困ることは滅多にないだろう。
あのジジイはうるせえが、まあさっさと勇者を仕留めて戦争を終わらせればギャーギャー言われることもなくなるだろう。生まれ持った運ですらここまで豊富、やはり俺は天才だな。
ちなみに俺とジジイのどっちが国境付近に行くかだが、ジャンケンで俺が勝ったためジジイが行くことになった。




