今後どうしよっか
「ヤッホー、ミカ。昨日は悪かったな、ぶっちゃけ腰はノーダメージだったが親睦を深めるために三人だけの時間が必要だと思ったからな。何の解説もなく放っておいたのは許してくれ」
昼飯を食べた後、俺の所に師匠がやって来た。
つーかあれ、ノーダメージだったのか。グキィって鳴り響いてたんだけど、どんなトリック?
「まあ色々聞きたいことがあるだろうが、少なくとも今は置いとけ。答える気はないし、どうせ答えても理解できないだろうからな」
早速質問を、と思ったら先手を打たれてしまった。聞きたいことは溢れるぐらいあるが、ここまではっきり拒否されると俺が聞き出すのは無理だ。
力尽くで勝てるわけないし、交渉しようにも俺の話術じゃできるわけない、そもそもどんなに言葉を尽くそうがあそこまでピシャリと言われると交渉の余地もない。
「ひとまず今後数十年は戦闘力を上げるための特訓に専念してもらう」
「?それは大歓迎ですけど、どうしてまたいきなり?」
「たった一日だけしか関わってないがウルやヴィラの力は理解できただろ?この後話すがお前にはこれからあの子達以上の奴と何度も戦うからな。今のままだと弱すぎる」
ムムム、弱すぎるか。確かにウルやヴィラ以上のってなるとそりゃ強いだろうが、ガチンコだったら状況によるけどあの子達にも負ける気はしないぞ?
「勘違いしているようだから一応説明しておくと、あの子達よりも生命力や魔力が多いってことだぞ。技術はあの子達やお前なんかよりも遥かに高い」
ゲッ、それじゃあ勝ち目はないな。俺のあの子達に対して勝っている部分っていったら剣の技術ぐらいだ。魔力や生命力ではぼろ負けしている。
あれより更に多けりゃもうどうしようもないし、俺の剣の技術はそこまで高くない。
「お前の剣術なんて所詮護身術レベルで、実際のところ身体能力任せだもんな」
そう、そもそも俺は『強くなるための特訓』は本当に最低限しかやっていない。
身体能力や魔力は戦闘以外でも役に立つから積極的に伸ばしていたが、剣術体術といった戦うための技術はないよりはマシ、齧った程度だ。
まあ本来何十何百年とかかる気と命属性魔法を早々に習得できたっていうアドバンテージがあるから普通よりは強いっていう自信があるが、エネルギーのゴリ押しと大差ない。
ウルやヴィラは俺よりエネルギーは多いが、あの子達は『戦闘のための技術』はほぼ無いに等しい。
戦闘中の立ち回り、精神的な強さ、駆け引きなど威力や移動速度とは違いエネルギーに頼れない部分はいくらでもある。
エネルギーも技術も負けてるなら俺に勝ち目はゼロだ、一発逆転のとんでも技とか特殊な力なんて使えないからな。俺は単純明快正統派な物理特化だから優劣があっさりつく。
「まあ、そんな訳で頑張れよ。とりあえず今日は走り込み百キロな」
「いや待てい」
終わった雰囲気を出して身を翻す師匠の肩を掴み引き止める。
「あの子達以上の奴と戦うっていう理由を説明してくれるんじゃないんですか?まだ何にもさっぱり分からないんですけど」
「チィッ」
こ、このクソ師匠め、めんどくさくなって逃げようとしてやがったな。思いっきり舌打ちしやがった。
「明日じゃダメか?パトラッシュ、僕はもう疲れたよ」
「誰ですかそれ。つーか五分ぐらいしか喋ってないでしょう、赤子でももっと体力ありますよ」
凍死寸前の奴みたいな穏やかな顔をしながら床に寝そべって説明を断固拒否する師匠。とは言えさっきみたいに絶対に嫌、というわけではなくただ駄々をこねているだけのようだったが……
「まあ面倒臭いから端的に言えば、俺の子供の補佐をしてもらうためだよ」
「え?俺も師匠の子供だと思ってたけど……違ったんですか?」
「ち、違う違う!別にそういう事じゃなくて実の子のこと、血縁だよ」
俺が悲しみのあまり目を潤ませると珍しく焦ったようにペラペラ説明してくれる師匠。
今度困ったらウソ泣きでもしてみようかな。
それにしても実の子ね。この人の子とか俺が補佐するまでもないような化け物である気しかしないけどなあ……
「二つほど誤解があるようだし訂正しておくが、まず俺がここまで強いのはそりゃ俺が天才だとか多少ズルをしてるとかもあるけど、一番の理由は長く生きて努力してきたからだぞ?」
……自分を天才だって言ってるのはいい。寧ろそれぐらい凄くないとここまで規格外にはならないだろう。だけど、え?
「長く生きてきたってどのくらいなら師匠ぐらい強くなれるんですか」
「密度にもよる、とだけ言っておこう。それで二つ目だが、俺の子供はまだ生まれてないぞ」
「はい?」
「だから、まだ生まれてないんだって。つーか後万年億年は生まれる予定ないぞ、その前に『その子』の役に立つぐらいにまでなってもらいたいだけだから」
スケールが大きすぎて大部分はもう無視したいが、つまり当分先は生まれない我が子のために強くなってくれってことか。なんだ、意外と師匠にも人情味があるじゃん。
「分かりました、じゃあ師匠のご子息のためにも頑張ってきます」
「う、うん?頑張って?」
そう言って俺は走り出した。
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(クロン視点)
なんか誤解がある気がする。
もう一つ理由があったんだが……。
もしかして俺が我が子の安全のためにうんたらかんたらな優しい奴だって思われてるのか?
う~ん、一応間違っちゃいない、か?
ミカにはうちの子の世話や補佐を頼むのは間違ってはいないし、生まれるのが億年単位じゃ利かないのも嘘じゃない。
あれ?ひょっとして俺って結構善人っぽく振舞ってる?
あの馬鹿のことだから善行したら悪行はないのと同じとか考えてそうで怖いんだが……。
不殺主義、甘ちゃん、高度な回復魔法……面倒くさくなる予感しかしないな。非情な決断が出来なくて他と揉める様子が目に浮かぶようだ。まあそれも面白いからそこはどうでもいいか。
……、本当に頑張ってくれよミカ。最低限うちの子の踏み台に相応しい程度にはなってもらわないと。
せめて三回は殺せるぐらいにはね。




