ゴール、そしてスタート
「あ、そうなんですか。分かりました、じゃあ行きましょうか」
目を覚ましたら師匠から色々と教えられた。正直な話、話の規模がでかすぎて俺の貧相な想像力じゃ理解できなかった。つーか俺、不老長寿だったんだ、全く自覚ないんだけどまあ師匠が言うならそうなんだろうな。
フリエさんやシルド君、シアも疑っていたんだろうけどまあ師匠と一緒に過ごした時間が長い俺からしたら特に根拠がなくても納得してしまう。
結構忘れがちだけど、俺が小さい頃から師匠の見た目が一切変わっていないことを考えればまあ不老長寿ってのが事実として存在するのは分かる。俺が不老長寿ってのもまあその延長線上でってことでいっか。
「でも皆と別れるのは寂しいですね、やっぱりもう会えないんですか?」
「うんにゃ、やろうと思えば五秒あればここに戻ってこれるよ。来たけりゃ好きなだけ来れる」
え、五秒?早くね?う、う~んまあ師匠なら不思議じゃ……うんやっぱ不思議だな!まあ師匠は異常、そういう考えをずっと持ってなきゃこれからもやっていけないんだろうな。
またいつでも会える、その事を喜んでおけばいっか。この人に理由やら常識やらなんて求めちゃ頭ぶっ壊れそうだし、起きた事象を何も考えずに受け入れた方が良さそうだ。
「ところで、どうやって行くんですか?その師匠の星に。まさか宇宙船とかあったり?」
「いや、歩いて」
は?
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師匠に言われたままにただ後ろについていくと師匠の部屋に案内された。
考えてみれば師匠の部屋に入るのは初めてだな、昔師匠の部屋のドアを強めにノックしたら拳が壊れかけたのを思い出す。
小さい頃、兄弟姉妹と一緒に師匠が部屋から出てきた時に忍び込もうとしてたらいつの間にか後ろにいて心臓が止まりかけた程ビックリしたのはいい思い出だ。
おっとそんなことは置いておいて、師匠の部屋に入るとそこには木でできた扉だけが一つポツンとあった。
それを支えるものも扉の反対側にも何もない。部屋にはそれ以外何もなく、扉の異質さがより一層際立っていた。
「これは、なんです?物理法則とか完全に無視しているんですけど」
「ん?ああ、ぶっちゃけこの扉はただの演出だよ。扉があろうとなかろうと大差はない。これはまあいわゆるワープゲートってやつさ」
ワープ?!すげえ!そりゃ歩いても5秒で別の星にもいけるわ。どうやってやってるかは考えるだけ無駄だろうし、もはや聞かない。これからたっくさん時間があるんだしまた別の機会にでも聞けるでしょ。
「そうそう、これから新天地に行く前に少々哲学の授業をしておこう」
はい?哲学、どうして今ここで?
「いいから黙って聞け。絶対とは言えないが世間一般でよく言われる狂人っていうののほとんどは実際には精神的に狂っちゃったわけじゃなく狂った価値観をもっているやつのことなんだ。例えば『死』について」
うん?師匠は何が言いたいんだ?
「多くの人は死を恐ろしいものだと考え、命を奪う者を恐怖し嫌悪する。だが一方で死を救済と考える奴もある程度いる、そうじゃなきゃ自殺する奴だなんていないからね。ただそういう奴らは基本的に狂人扱いされる、だって割合的にはごくわずかだから。ただ絶対数は決して少なくない、そもそも世界に知的生命体なんて数え切れないほどいる、いくら割合が少なかろうが元となる数が途方もなければ狂人の数も馬鹿でかくなるってわけよ」
「で、それがなんですか?自分は狂ってるわけじゃなく狂ってる価値観を持っているだけだ、と言いたいんですか?」
「否定はしないが、そうじゃなくてだな……これからお前が来るのは今言ったような狂人がたくさんいるような世界だ。心の準備は出来てる?」
……はあ。何を今更。
「できてようができてなかろうがここまで連れて来たり、ノアさんと戦わせたりしたのはどこのどなたでしたっけ?準備?できてませんよ。でもどうせ関係ないんでしょ、だったら準備や覚悟なんかできてなかろうと慣れるしかありませんよ」
やけくそ気味に師匠に言ってやったら機嫌を悪くするどころか、寧ろ声を出して笑い出した。
「あははは、うんうん面白い。面白い考え方だ、そういう開き直った感じ好きだよ俺。まあ考えてみればお前も十分狂人だしな」
最後に師匠がなんて言ったかは聞こえなかった、嫌な予感がするし聞きたくもない。
それにまあ、狂った価値観がうんたらかんたらの話で師匠よりヤバい人がそうそういるはずないでしょ、だって人が死ぬのすら娯楽のスパイスみたいなこと考えてるような人がいてたまるかって感じだし……
「さて。じゃあ改めていらっしゃい、異常が日常の世界に。ここから先は国を滅ぼす大虐殺者の狂気もあらゆる混沌を生み出した大罪人の嘆きも全てを受け入れる。そんなヤベー世界だ、楽しんでけ」
そんな事を言って師匠は扉を開けた。とりあえず、死なないよう気をつけよっと。
これで第2章は終わります。
打ち切り感が半端ないですが、第3章もミカの物語なのでお許しください。




